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なぜサンドイッチが大好きになってしまったのか? -貞子母さんとの大事な時間と言葉‐
1. 国際政治研究所での経験
もう以前の話ですが、その時にはアメリカでの生活も3年目に突入し、研究に没頭する中で、新たな人間関係が広がっていきました。もともとはビジネスやエンジニアリングを学んでいましたが、ふとした衝動でまったく異なる国際政治の研究所に交渉し、なんとか受け入れてもらうことができました。そこでは、今まで出会ったことのない人々と交流し、まったく新しい視点を得ることができました。
この研究所では、毎週ラウンドテーブルが開催され、世界中の専門家が集まっていました。私の研究テーマは、国際政治が経済に与える影響、特に中国のWHO加盟がアメリカ経済やシリコンバレー企業に及ぼすインパクトについてでした。
そんなある日、研究所にとても上品な日本人女性が現れました。後に「貞子母さん」と呼ぶことになる彼女の存在は、私にとって新鮮でした。所長候補と噂されるほどの人物でしたが、私は彼女のことを知りませんでした。彼女の落ち着いた振る舞い、明晰な思考、そして国際的な活動に触れ、「こんなすごい人が日本にいるんだ」と驚き、誇らしく思いました。
2. サンドイッチの限界を超える
ランチはいつも同じ。ケータリングか、学食のサンドイッチ。3年間、ほぼ毎日サンドイッチを食べ続け、ついに限界を迎えました。(しかもかなり大きい…)
唯一の楽しみは、月に一度販売されるタイ料理のお弁当。でも、それも売り切れが早く、なかなか手に入らない。学内は広すぎて遠くのハンバーガー屋に行く気も起きず、結局サンドイッチを食べるしかない日々が続きました。やがて、サンドイッチを買っても半分しか食べられなくなっていました。
今では学内に中華料理の軽食が増えたと聞き、ちょっとうらやましく感じています。
3. 貞子母さんとの大事な時間
そんな中、ある日貞子母さんとランチをする機会がありました。最初は彼女に興味津々で質問ばかりしていましたが、次第に彼女の人柄や活動、考え方に惹かれるようになりました。突然、「次の会議においで」と誘われ、これも度々ありましたが、その会議にはなんと元アメリカ大統領が友人として出席していたこともありました。
ある日、「今日は私がランチを持っているから一緒に食べましょ」と声をかけられました。久しぶりに肉料理かと思い、喜んで包みを開けると、まさかのサンドイッチ。しかもフランスパンにチーズとハムが挟んであるだけのシンプルなもの。「またサンドイッチか…」と思いつつ、「ありがとうございます」と受け取ると、貞子母さんは私を見つめニコニコしていました。
「どう?」と聞かれ、一口食べてみると、驚くほどおいしい。いまだにあの味には出会えていません。パリで食べたパンもおいしかったのですが、それよりもずっとおいしかったのです。
4. 大事なメッセージ
私は、「これはいつものと違うけど、まさかのサンドイッチですよね?」と率直に聞きました。すると貞子母さんは、「同じものを食べることで、いろんな国の人と同じ時間を共有できるのよ」と優しく微笑みました。
彼女の言葉の真意が分かったのは、ずっと後になってからでした。彼女は世界中の困難な場所で活動し、人々と共に時間を過ごし、助けてきました。その経験からくる言葉だったのです。
その後、彼女に教えてもらった大学近くの小さなサンドイッチ屋に何度も通い、たまに買っては貞子母さんとランチをしました。気づけば、彼女のことを自然と「貞子母さん」と呼ぶようになっていました。長い期間ではなかったものの、とても濃密な時間を過ごした気がしています。
5. 気づいたこと
彼女はいつも遠くからでも「ニコッ」と笑いかけてくれました。研究所を去るときも、「ニコッ」と握手をしてくれました。その笑顔が何とも言えず素晴らしいものでした。その笑顔が、どれだけの人を救い、どれだけの人の心に残ったのだろうと思います。
彼女が研究所を離れてからも、私は年に1回くらい近況を報告していました。事業を始める際にも報告しましたが、彼女は「あなたのことは信じてる」とだけ伝えてくれました。そして、「相手のことを感じなさい」とも。それだけで十分でした。
ビジネスの現場に復活してから気づいたことがあります。私たちは相手と会話しているつもりでも、名刺と話していることが多い。本当に相手と向き合うこと、それこそが彼女から学んだ大切なことでした。
6. 旅立ち
ある日、研究所の仲間から彼女が「旅立った」と連絡が入りました。東京の真ん中の教会でお別れの会が開かれると聞きました。
久しぶりに対面した貞子母さんは、あの頃と変わらず上品で昔のままでした。
一本の花を添えました。そこには世界中の著名人が集まっており、彼女がどれだけ多くの人に愛されていたのかを感じました。
そこに行くまでは気持ちがざわめいていましたが、久しぶりに彼女に会ったことで不思議と気持ちが落ち着きました。
教会を出た瞬間、ふと、そして強く「サンドイッチが食べたいなぁ」と思いました。それからというもの、私はいつもあのサンドイッチを求めています。いまだに、あの日のバゲットサンドの味には出会えていません。
これがサンドイッチが大好きになった理由です。
7. 終わりに
人と真正面から向き合うことで、自分自身への理解も深まる。この文章を書きながら、さらに別の視点でも書きたくなりました。これからも、いろいろな出会いや関係について綴っていきたいと思います。
あの笑顔が出来たらいいなぁ