サキミの事例インタビュー⑤『社員愛を真の対応力に転換する』
サキミ:
6回目の今回は、休職可能な期限間近でも危機感がみられない社員への対応事例をE社の人事Cさんとともに振り返ります。
これはまずい!火がついたのは…
Cさん:
正直、最初はイライラしてもどかしかった事例です。サキミさんに職場復帰支援を担当してもらっていたBさん、休職期間満了まであと一ヶ月半というときでも、まだ二度寝をしていました。起きられないんじゃ、復帰に向けたトレーニングも何もないと思って。
サキミ:
BさんのEAP相談予定の当日に、Cさんから先回りでご連絡をいただきました。
Cさん:
Bさんから依然として二度寝をしていると聞いて、「EAPからも期限を意識させて二度寝しないように諭してほしい」とお願いしました。私が何度連絡しても一向に変わる気配がないので、EAPからも一枚岩で発破をかけてもらおうと思いまして…。
サキミ:
Cさんはいつも細やかにご対応してくださっていて、そのときもEAPを活用しながら、直接Bさんともやりとりをしてくださっていましたよね。
Cさん:
サポーターは多い方がいいと思いますし、うちの社員ですから、自分たちも動かないと。
Bさんも復帰トレーニングをようやく開始したのに、二度寝をして午後から動き始めていると知って、これはまずい!と火がつきました。それで、すぐに本人に連絡をとり、何時に起きれば間に合うのかを確認し、翌週から毎日私がその時間に電話をかけることにしたんです。週明けから水曜までは電話で起きていましたが、その後は電話にも出ない状態で、午後に寝ぼけた声で折り返しがかかってくるという状況で。
サキミ:
Cさんのお気持ちに着いた火は、さらに熱く燃え上がりー
Cさん:
そうなんです!本人は「あと一ヶ月以上ある~」くらいに思っていたかもしれませんが、一ヶ月なんてあっという間です。しかも、このコロナ禍で退職となってしまったら、すぐに次の仕事が見つかるかどうかわからないでしょう。全く危機感がない!私だったら必死で復帰に向けたトレーニングをしますよ!…と、今でも思います…。
本人は自分で何もしていない…
サキミ:
確かにCさんでしたら、最初から二度寝をすることなく復帰に向けたトレーニングに全力で取り組んだことでしょう。
それに、あの頃、コロナ対策で貴社では勤務形態を原則テレワークになさって、マネジメントも試行錯誤で工夫を重ねて、Cさん方はいつも以上に大変ご苦労なさっていた時期でしたね。
Cさん:
そうでした。新しい出退勤の打刻方法を忘れる社員が続出で、なんでこんな簡単なこともやらないんだろうと、あちこちでイライラして大変でした。まあ、今では新しい方法も浸透して落ち着いたので、ホッとしています。
サキミ:
今は、Cさん方のご配慮や意図も社員の皆様に伝わっていますが、どうしても時間は必要ですね。
職場復帰を目指すBさんとの温度差も大きかったように思います。
Cさん:
本当に…。あちこちで温度差があって、私のストレスが溜まっていました。社員に関する愚痴や本音を言えるのは、守秘義務があるサキミさんたちEAPくらいだから、結構延々と話してしまいましたよね。
サキミ:
それだけCさんが、社員の皆様を一生懸命サポートなさっているということだと改めて感じました。Bさんにも、何とか復帰してほしいからこそ、「全く危機感がない!」という言葉が出てきたのだと思います。
Cさん:
あのとき、サキミさんから「Bさんに危機感がないと思うのは、どういうところからですか?」と訊かれたんです。最初、「へっ?!」と拍子抜けしました。サキミさんも同じ認識で説明する必要がないと思っていたので、ちょっとキレ気味に「だって、こちらの電話以外に本人は自分で何もしていない。全然焦っていなくて、他人事のようでしょう!」とこたえると、サキミさんは「私もそう思います。Bさんはご自身で何も対策をしていません」と。
サキミ:
そうでした。「あれっ?!」という感じのCさんに、さらにもう一つ、「Bさんが仮にCさんからの電話により2週間起きられて復帰したとして、その後、どうなるでしょうか?」と尋ねました。
Cさん:
「そりゃあ自分で何もしていないんだから、私が起こさなければ、すぐに起きられなくなって休むでしょう。それで落ち込んで調子を崩しますよ!」とまくし立てて...、アッと思いました。
サキミさんの「そこを見越してみると、今どうしましょうか」という問いかけには、食い気味で「もう、本人のやりたいようにさせます。何も手を出しません!」と宣言していました。
サキミ:
このとき、Cさんの思いがBさんに伝わってほしいなと強く感じたことを覚えています。
Cさん:
サキミさんが応援してくれる気持ちは感じていました。やってしまった…と後悔の念が強くなっていたので、「休職中は孤立感が生じやすいので、これまでのご対応はBさんにとって大きな支えになっていると思います」という言葉で、救われた思いがしたんです。
もろもろ落ち着いたところで、「じゃあ、あとは本人任せで」となるのではなく、「Bさんが正しく危機感を持って、望ましい行動をするために、どう話していこうか」と一緒に考える時間をとってくれましたね。
思いと行動をわける
サキミ:
お気持ちが落ち着いたCさんは、「私はBさんの復帰を諦めたわけではないです。Bさんが自分で何とかできると思うから、電話はやめると伝えてみます」と穏やかに、かつ力強くおっしゃいました。Bさんの立場になって考えてみれば、突然電話をしなくなるのは不自然ですものね。
Cさん:
なんの説明もなく連絡をとらなくなってしまったら、本当に見放されたと思って具合が悪くなってしまうのではないかと心配でした。それに、Bさんだけで本当になんとかなるかなと、やっぱり不安も拭えず…。
サキミさんが「私は信じて待っているから、Bさんは引き続きEAPを存分に活用して頑張ろう」と、私の思いを汲みつつ、Bさんが頼れるところを強調するような表現を提案してくれて、そこはBさんにとってもだろうけれど、私自身も心強かったです。
サキミ:
その後のCさんも踏ん張りましたよね。Cさんから電話がかかってこなくなってからのBさん、一週間まるまる起きられず…。それでも、Cさんは励ますことに徹していらっしゃいました。あのときこそ、もどかしかったのではないですか?
Cさん:
いや、そうですよ、本当に。でも、もう腹をくくりました。ここで手を出したら、同じことの繰り返しだと思って。自分が最大限できることは、「復帰できると信じて、励ますこと、待つこと」と言い聞かせて対応していました。
サキミ:
さすがに危機感を覚えたBさんは、EAPと相談しながら複数の目覚ましを遠くに置くなど自ら工夫し始めて、一週間ほどで起床できるようになりましたね。
Cさん:
本人から「起きられるようになりました!」ってメールが来て、「当たり前のことだぞ!」と思いつつも、嬉しくなりました。その辺りからは、「大丈夫かも」と思えるようになって…。
サキミ:
本当に大丈夫でしたね。Bさんはすでに体力は回復していましたし、何より、Cさんの親身なサポートによって、ミスをして大きく膨れ上がった雇用不安が解消されたので、短期間で復帰トレーニングを完遂でき、無事復帰を果たされました。
Cさん:
怪我の功名ってやつでしょうか…。
サキミ:
それこそ、Cさんの良さが発揮されて、Bさんへの適切なサポートにつながった結果です。
実際、復帰が決まったとき、Bさんは「人事のCさんが親身になってくれたこと、特に信じて見守ってもらえたことが大きな支えになった」と仰っていたことをお伝えしましたよね。Bさんがまた仕事に向き合う自信を取り戻せたことは、これからのBさんの職業人生においても重要な意味を持つと思います。
Cさん:
そうだと思いたいですね。でも、手を出しすぎては逆効果になることも、今回勉強になりました。信じて見守るのは難しいけれど、先を見越すと状況がよく見えてきますね。思いと行動をわけるということはどういうことか、経験してみてよくわかりました。
サキミ:
その後も、Cさんがこの事例をいかしたご対応は素晴らしいです!
Cさん:
「思いと行動はわける」「先を想像して、今最適なサポートを考える」という合言葉ですね。自分でも、頭の中でしょっちゅう繰り返しています。
サキミ:
日々、メキメキ対応力が進化しているCさんに負けないように頑張ります!
実際に、サキミは人事の社員愛と対応力に感服すると同時に、自分も精進せねばと気を引き締めたのでした。
■サキミのプロフィール
ビジョン・クラフティング研究所 シニアコンサルタント
臨床心理士・公認心理師・
1級キャリアコンサルティング技能士