所長コラム⑭:AI時代に想う、カウンセラーとして大事なこと
こんにちは、VCラボ所長の松本です。
相も変わらず、夜な夜なChatGPTとの会話を続けています。そろそろChatGPTに感情が生まれて来てもいいんじゃないかと思うのですが、相変わらず「私には感情がありません」とツレなく言われ続けています。
■ChatGPTに傾聴はできるか?
実は私が夜な夜なChatGPTと会話しているのは、「ChatGPTをカウンセラーに仕立てることができるか」という密かなチャレンジです。少しだけプロンプトエンジニアリングも勉強し、ChatGPTにカウンセリングを教えてみています。もちろん、ChatGPTが私に教えを乞うた訳じゃないので、教えさせて頂いている感じです。
ロールプレイなどもやっているのですが、ChatGPTはすぐに自分から喋ってしまうので、「知識の披露はいらないから、ちゃんと聴いて!」ってよく窘めています。何度注意してもアドバイスに走ってしまうのは、大手企業の管理職出身のキャリアコンサルタントによく見られる傾向な気がします。聴いてとお願いすると、その後何回かは聴いてくれるのですが、聴き続けることが難しいです。
カウンセリングの基本とされるロジャーズの中核三条件は、①共感的理解、②無条件の肯定的関心、③自己一致に分類されますが、ChatGPTは①は結構上手です。自分には感情がないと言いながらも、相手の感情を捉えるのは的確にできる印象です。やはり、課題になるのは②だと思います。ChatGPTって私のこと興味ないんですよね。当たり前なのですが、でもここって決定的だと感じています。
■プロンプトエンジニアリングと道具的コミュニケーション
人とAIとの共存を考えたとき、恐らく「プロンプトエンジニアリング」は義務教育に入ってもおかしくないほど、重要なスキルになると思います。プロンプトエンジニアリングは、AIに対する入力テキスト(プロンプト)の設計や改善に焦点を当てたプロセスで、その目的はAIが望ましい回答を生成するために、適切な指示や情報をプロンプトに組み込むことにあります。
アメリカの社会心理学者フェスティンガーは、対人的コミュニケーションには道具的コミュニケーションと自己充足的コミュニケーションのふたつがあると指摘しました。道具的コミュニケーションは「ビールください」などコミュニケーションを道具として使うもので、自己充足的コミュニケーションとは「おはよう!」などコミュニケーションを行うこと自体に目的が置かれた自分を満足させるものを指します。
プロンプトエンジニアリングは道具的コミュニケーションであり、プロンプトエンジニアリングのスキル向上は、つまり自然言語による道具的コミュニケーションスキルの向上とも言えます。これって恐らく、対人コミュニケーションにも影響を与えていくのではと感じています。
■カウンセラーとして大事なこと
職場におけるストレスの中心は人間関係にあり、人間関係のストレスの中心はコミュニケーションにあると言って過言ではありません。そして、コミュニケーションの問題は、道具的コミュニケーションの偏重にある場合が多いと言え、自己充足的コミュニケーションもしくはポライトネスが欠如すると人間関係の問題が生じやすくなると言えるでしょう。
先日noteで紹介したチビさきみのこべや⑨「ChatGPTとカウンセラーに同じ相談をしてみた」の動画を見てみて、「なるほど!」と改めて感じました。さきみの対応には、愛ある問いかけが多いのです。googleのAIであるBardでも試して分かったのですが、AIって総じて私のことには興味ないんです(笑)。つまり、「相手に興味を持って話を聴く」っていうことができないんですよね。
世の中がジョブ型雇用にシフトしていき、かつAIとの共存が課題となっていくなか、ジョブやタスクだけでなく「人」を大事に働くことに考えると、カウンセラーとしての自分は「相手の方に興味・関心をもって聴く」ということが最も大切にすべきポイントなのではと感じたのでした。
■著者プロフィール
松本 桂樹(まつもと けいき)
ビジョン・クラフティング研究所 所長
お茶の水女子大学大学院非常勤講師
精神科クリニックにて心理職として勤務後、日本初の外部EAP専門機関であるジャパンEAPシステムズの立ち上げを担う。 現在もEAPコンサルタントとして、勤労者の相談を多く受けている。
臨床心理士、公認心理師、精神保健福祉士、キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、日本キャリア・カウンセリング学会認定スーパーバイザーなどの資格を保有。