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所長コラム㉓働き方の多様性を守るために重要なこと

 こんにちは、VCラボ所長の松本です。 

 先日、とある企業の人事担当者と挨拶を交わしたときに、リモートワークの話になりました。その会社では、コロナ禍をきっかけに在宅勤務ができる環境整備を進め、2021年に在宅と出社勤務を社員が選択できる制度を導入したのだそうです。事前申請は不要として、勤務を自由に選択できるようにしたことで、社員にはとても好評だったようです。

 ただ、コロナ禍の収束とともに、多くの企業が徐々に出社勤務に戻す風潮が見られるようになりました。特に2023年頃からは、在宅勤務自体を廃止するアメリカ大手企業のニュースなども多く報道されるようになっています。実際、通勤電車に乗ってみても、最近は一時期よりも明らかに乗客が増えているのが感じられます。

 その企業では、若年層のメンタルヘルス不調の増加などもあって、今年度から特に新入社員に対しては、出社を求める方針に変えたとのことでした。当然、職場のマネージャーや指導役となる社員も出社することになるため、部門によっては「在宅勤務は原則週2日まで」と独自の目安を課すマネージャーも出てきているとのことです。

 人事担当者は、「実は私の部門も出社が増えていき、今では誰も在宅勤務はしていません」と笑っていました。社員の体調が悪いときに「今日は在宅勤務をします」と連絡がある場合はあるとのことでしたが、いまやデフォルトが出社勤務に戻ってしまい、「私は本当なら在宅勤務がしたいのですが、選択しづらくなってしまった」と溢していました。

 私が「せっかく素晴らしい制度があるんだから、人事が率先して制度を活用してみせる方がいいんじゃないですか?」と訊ねると、その担当者は「いやー、やはり上司が積極的に使わないと、社員としては使いづらいです」と話してくれました。事情を察した私は「あー、なるほど!確かに、そうでしょうね!」と唸ってしまいました。

 選択の自由を保障するのであれば、「出社したい人は出社してよい」という自由も当然保障されるべきと思います。ただ、マネージャーが毎日出社していたら、やはり部下は在宅勤務を選択しづらくなるのも事実でしょう。「自由に在宅勤務を選択していいんだよ」なんて伝えたとしても、マネージャー自身が出社している限り、在宅勤務は選択しづらいと思います。

 「在宅勤務は通勤時間が節約できるし、出社するよりも集中できる場合がある。妻や子どもの体調が悪いときも、在宅で働けるとすごくありがたい。ただ、日頃から在宅勤務をやっていないと、在宅での働き方の方法を忘れてしまう」と、もどかしい思いを吐き出すように話してくれました。

 このように「在宅勤務を選択したくても、選択できない人がいる」ということの想像って、マネージャーにはかなり難易度が高いことだと思います。「自由に選択してくれて構わないんだよ」と日頃から伝えているマネージャーほど、毎日出社している自分自身の行動に疑問を感じることはないものと思います。

 ただ、働き方の多様性を確保し、社員の働きやすさを高めていくには、マネージャー自らが率先垂範して、定期的に在宅勤務を活用してみせることが重要なのだと思います。「皆が自由」「自分も自由」ではなく、社員のことを積極的に把握し、組織として多様性を確保し続ける努力をすることが重要なのだと感じた出来事でした。

■著者プロフィール

松本 桂樹(まつもと けいき)
ビジョン・クラフティング研究所 所長
神奈川大学 客員教授

臨床心理士、公認心理師、精神保健福祉士、1級キャリアコンサルティング技能士、健康経営EXアドバイザー、日本キャリア・カウンセリング学会認定スーパーバイザー、SVネット登録スーパーバイザー。