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スタートアップの初めての人事データ分析

突然だが、「自社の自己都合退職率はどれくらいですか?」、「自社の適正人員数はわかりますか?」という問いに対して答えることができるだろうか。この問いに回答するのにどういった数値を見てどう算出すればいいのか、どう判断すればいいのか分からない方も少なくないと思う。

今回のnoteは人事不在、もしくはデータを活用した人事管理をしたことがない、どうすればいいのか分からないスタートアップ企業向けに、人事に関わるデータ分析を簡単に説明する。人事のデータ分析を理解することで、会社の状態が妥当であるか否かの判断、そしてそれらを社内・社外に対して数字で根拠を示すことが出来る。

もちろん会社によって様々なKPIがあり、それらも重要な経営判断の指標になる。一方で、「人材の管理」にフォーカスした指標や分析をそれらに加えることで、より正確な経営判断や合理形成は十分期待できる。人事のデータから算出できる数字は既存のKPIなどの代替案になるものではないが、今後の経営計画などに活用し、より企業の成長の追い風になれればと思っている。

読み解くべき人事データは企業によって違うが、今回は比較的社員数が少ない(30名未満)スタートアップや人事未経験の経営陣が人材管理まで担当しているスタートアップをターゲットとして想定し、以下を紹介・説明する。

・適正人員数
・人員構成ギャップ
・自己都合退職率

適正人員数

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あなたは、「現在の会社の社員数は適正か?」と聞かれて答えられるだろうか。もしかしたら会社の経営計画書や採用計画に各期ごとの採用人数や組織図が記載されており、それらを覚えている方もいるかもしれない。適正な人員数は企業の売上や利益目標を達成するために何人必要かを表しているため、社員一人当たりの売上や付加価値が必要になり、この数字は一般的に労働生産性と呼ばれている。

適正人員数は算出方法が多岐にわたるが、以下の計算式で今回は統一する。

適正人員数=付加価値÷目標生産性

付加価値は企業が新たに生み出す価値で、人件費、営業利益はもちろんのこと貸借料や、金融関連費用、租税公課も含まれる。(初心者向けの本などではほぼ粗利益と同じと解説されている)

統計調査によって算式は違うが、経済産業省の”企業活動基本調査”では以下の算式を利用している。

付加価値=営業利益+減価償却費+給与総額+福利厚生費+動産・不動産賃借料+租税公課

また、経済産業省の企業活動調査では産業別の労働生産性が発表されているので、ベンチマークの設定などの参考に出来る。

では、あなたの会社の目標生産性(※社員一人当たりの目標売上や付加価値)はどれくらいだろうか。もし仮に設定していない場合は、競合他社や業界で比較し検討するとヒントが見つかる。もしくは過去の自社の生産性を算出し、自社の今後の生産性の計画することもできる。NPOでない限り、企業は営利目的で活動しており、社員一人当たりの売上や付加価値が上昇しない限り、企業の収益も上昇しない。生産性は出来る限り経営陣に把握してもらいたい数値である。


このnoteを読んでいるスタートアップ経営陣、もしくは人事の方は一度目標生産性の設定・確認から自社の適正人員数を算出してほしい。適正人員数は部門や役職ごとでも算出可能なので、現在採用強化を検討している部署のみの人員数だけ確認するのもいいだろう。

適正人員数なのに、目標生産性が達成できない

しかし、「人数は丁度いいはずなのに、目標生産性が達成できていない」というケースはしばしば見られる。どういうことかというと、量的人数は計画通りだが、質的人数という観点では足りていないということだ。言い方を変えると、量的には1人でも質的には1人として勘定できないということだ。これは大企業の場合だと年功序列制度の結果、要件を満たしていない社員を昇格している場合によく見られる現象だ。しかし、スタートアップの場合は次のふた通りが考えられる。

・採用要件がそもそも適切ではなかった
・成果を出すための教育や環境が整っていない

採用要件については、こちらのnoteで詳しく説明しているため割愛するが、採用の失敗ではなかった場合、企業は真摯に従業員が能力を発揮するための教育や環境を見直す必要がある。実際、多くのスタートアップでは教育や環境を整える以前に既存の従業員では捌けない業務や知見がない業務を丸投げしてしまうケースが多いと思う。裁量を与えていると言えば聞こえはいいかもしれないが、単純に既存従業員が捌ききれない業務を投げているだけでは、新しく入った従業員が会社に馴染み、業務を円滑に進めることは困難ではないだろうか。もちろん個人の力量による部分はあるが、それはその個人の力量に甘えているため属人性が強く、根本的な問題を解消しているとは言えない。

適正人員数から見えてくるのは、一人ひとりの生産性や採用計画の達成率や実現性だけでなく、こうした企業が対応しなければいけない組織的課題が多いと言える。

人員構成ギャップ

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人員構成ギャップは、本来経営が必要としている体制と実際の体制のギャップのことを指す。しかしこれらは組織の管理職のポスト数分が決まっていたり、職務の難易度別など等級が決まっている会社でないと計算が難しい。管理職のポストの数や等級など決まっていないというスタートアップは多いのではないだろうか。

一方で、人材不足かつ組織図は検討段階の場合だと、特定の人材を採用するためにポストを作るというケースもスタートアップにはあるだろう。では、一度それらを仮に業務の難易度もしくは給与やタイトルに基づいた等級でグループ化してみるとどうなるだろうか。

人員構成ギャップは

(人材の種類別に必要な人員数ー実際の人員数)÷ 全体の人員数

で計算できるが、まずは等級別人員数による人員構成を見てみるとする。

※本記事は30名以下の規模のスタートアップを想定としているが、以下のグラフではより構成をダイナミックに魅せるために80名以上の従業員数で調整した。

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G1を部長、G2を課長などここでは数字が上昇するにしたがって等級が下がることを前提とする。このグラフを見ると、G1-G2の高等級社員の数が目立つ。これらはいわゆる”ベテラン過多”と呼ばれる状態だが、蓋を開けると簡単な仕事を遂行している可能性や人件費が余計にかかっている可能性がある。

では逆のパターン、つまりピラミッド型の場合はどうだろうか。

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一般的に高等級が少なく低等級が多いピラミッド型が望ましいと言われているが、裾野が非常に広いピラミッド型に関しては問題がある。極端に裾野が広いピラミッド型は比較的新しい会社や退職率が高すぎる会社に見られる傾向が高い。これらの人員構成は人材不足により積極的に採用した結果であり、若手~中堅の人員数が多い一方で、管理職・管理職候補が不足している。管理職・その候補が不足していると、一定期間をかけて高等級社員となりえる人材を育成するということが難しくなるため、自社にとって適正人員数を設定し、定期的に人員構成ギャップを観測することをオススメする。

自己都合退職率

スタートアップの自己都合退職率はフェーズによって大きく変わり、創業期などの初期のフェーズでは高い傾向にあるのではないだろうか。自己都合退職率とは1年間に在籍していた社員のうち、自己都合での退職者の人数の比率を意味する。

自己都合退職率=自己都合退職者÷在籍社員数

という算式だ。

自己都合退職率が高いと「労働環境が悪いからだ」という解釈をする方が多いが、これらは問題の本質的を捉えておらず、経営においてどういう影響があるのかを説明していない。

自己都合退職率以前に、社員には採用・教育コストが投下されている。それらが投下された社員が多く退職することは経営効率という観点で問題だ。しかし、日本では企業規模や業種、地域によって自己都合退職率が大きく異なる。2019年(令和元年)の厚生労働省の雇用動向調査結果によると、会社都合退職ならびに定年退職を含む離職率は製造業は9.6%、一方で宿泊業や飲食サービス業は33%を超えている。ではスタートアップ企業は自社の自己都合退職率から何を読み解き、判断すべきなのだろうか。

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例えば、自社の従業員数が50名とする。過去1年間の自己都合退職率は6%で1年間で3名が退職した。これらを単純に解釈すると、「企業規模を維持するために新たに3名採用する必要がある」ということになる。

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<厚生労働省による令和元年雇用動向調査結果より>

ではもう少し深堀してみよう。自己都合退職率は年代別によって変わり、特に20代が高い傾向にある。先ほど自己都合退職した3名が20代前半のインターン生であれば採用は比較的簡単かもしれないが、ここで20代後半の実力もポテンシャルも高い社員3名が退職したとしよう。その場合インターン採用や新卒採用ではなく、中途採用、尚且つ新卒採用より難易度が高い中途採用を行う必要がある。つまり”優秀な人材を採用する力”が問われ、尚且つ”優秀な20代社員が離職している”という問題に向き合わないといけない。
以上、

・適正人員数
・人員構成ギャップ
・自己都合退職率

を解説した。人事のデータ分析は会社の状況を把握するだけでなく、フェーズ毎の採用計画の見直しのきっかけや組織課題の気づきを与えてくれる。人事に関わる指標はこれ以外にもたくさんあり、賃金水準や人事制度、将来予測分析など多岐に渡る。

しかし、まずは本記事で取り上げた比較的分析しやすい指標から分析することをオススメする。人事の定量分析など、自社の人員構成や採用計画を本格的に見直したいというご要望があれば、ぜひ弊社にお気軽に「人事の件で相談したい」とお問い合わせいただければ幸いだ。

<ライター:鄭>

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