噓日記　11/1 健康診断

そろそろ会社の健康診断があるのだが、年々それが怖いイベントの一つになっている。
風呂上がりの鏡に映る俺が年々俺じゃなくなっているからだ。
年齢とともに緩んでいく体と自制心。
休日になると飲みに出掛けては、満腹中枢が壊れるまで飲み、そして食らう生活によって俺の体は少しずつ太ってきている。
3年前と比較すると約10キロくらい増えているんじゃないだろうか。
まずいまずいと思っていながらもストレスを散らすには酒と食しかない。
仕事を辞めてしまえば元の俺に戻れる気もするが、辞めてしまうと日々の糧がなくなるし、もういい歳なので周囲からの目もキツい。
俺が元に戻れる保証もないのでまぁ仕事は辞めないだろう。
ということで今の生活をベースにこれからを考えなければならない。
というのを毎年考えてはいるのだが、太って重くなった腰はなかなか上がらなかった。
だが昨日のハロウィンでのこと。
SNSに上がった男性のコスプレに目が留まった。
そして思わず、見惚れた。
俺は本来女性が好きだし、これからも女性が好きであり続けるだろう。
だが、そんな俺が同性を見て嫉妬を通り越して見惚れた。
細くしまった体で海外3Dアニメの王子役のコスプレをしている男性が非常に魅力的に見えたのだ。
そしてそこで何かがくすぐられた。
俺もやろう。
もういい年だがそれでも減量して、俺も次は王子様になろう。
そう思えたのだ。
SNSに写真をアップしても恥ずかしくない人間になろう、そう思ってからは早かった。
晩飯は焼いた豚ヒレ肉に根菜とキノコの炒め物、ついでに豆腐でできた素麺を足して食らう。
普段よりも幾らかヘルシーに仕上がっただろう。
明日からも俺はこんな生活を続けるつもりだ。
そしてちょっとずつ運動をして、締まった体を手に入れて来年にはコスプレをする。
誰かがそれを見て笑ってもいい。
ただ俺は昨日見かけた名前も知らぬ彼のようになりたい。
自分に自信を持った男の顔つきで写真におさまれるようになりたい。
目指すはとりあえず10キロ減。
それからは理想の彼のプロポーションに近づけていく。
身長は大体同じくらい。
なら俺でも彼みたいになれるはずだ。
とりあえず次の健康診断までに少しでも体重を減らしてやる。
スケジュール帳のカレンダーの3月のページに目標マイナス10キロと大きく書き込む。
ポジティブな欲求が沸々と湧き上がる。
そして今月のスケジュールにもマイナス2キロと書き込む。
その時に気付く。
健康診断来週じゃん。
なんか嫌になってきたな。