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かなりリフレッシュできたかな

出張でやられた。
合間の夜が徹夜になる、あの2日間の仕事だ。
正直フラフラで頭なんて正常に回らない。

神戸の震災の30年の大切な節目は、その徹夜明けで迎えた。
地震発生の10分前に仕事の手をいったん止め、大急ぎで追悼の記事を書き上げ、5:46になんとか間に合わせて投稿した。
僕の中で一生かかっても拭えないズシンとした重みを持つその瞬間を、決してそんなやり方で迎えたくはなかった。

出張が明け、手つかずの仕事もどっさりあったが、そのままそれらの仕事に向き合えるような心理状態ではない。
少し場を変え、違う空気を吸いたくなった僕は、芦屋の〈ヨドコウ迎賓館〉に足を運んだ。

今でこそヨドコウ迎賓館というが、元は山邑家住宅。
旧帝国ホテルを設計したアメリカ近代建築の巨匠・ライトが、灘の酒・櫻正宗の当主・山邑太左衛門の求めに応じて大正7年に設計した別荘だ。
庶民はまだ薪炭を求めて山に入っていたというこの時代に、すでにオール電化だったというから驚きが隠せない。

緩斜面に沿って建てられた階段構造の邸宅は、大谷石やマホガニーをふんだんに使って丘の緑に馴染み、自然との融和を旨とするライトならでは。

建築学生が教授に率いられて訪れていた。
全国的にも有名なこの建築は、見学者がひっきりなし。

応接間は開口部が広く取られて明るい。

上にずらりと並ぶ採光口からの光は天井に明るい筋を映し出して部屋を広く見せる工夫もある。

観音開きの戸を開けると3部屋並ぶ和室。

ライトの設計にこの座敷はなかったようだが、当主・山邑の強い求めに応じてライトの弟子達が苦労して埋め込んだらしい。
全体の調和を乱さぬよう、欄間にはこの邸に共通する植物の葉をモチーフとした飾り銅板がはめこまれている。

廊下も大きく窓が取られ、とにかく明るい。

はめこまれた飾り銅板が、まるで木漏れ日のように光を演出する。

書斎にはライト設計の社長机と椅子(復元)が。

細かなRの造作が、人工物の直線に自然な歪みのアクセント。

屋上のバルコニーからは270°の展望が広がる。

ハイソで瀟洒な芦屋の町並み、さらに神戸の港、大阪湾を遠望。

ふと後ろを振り返れば、六甲の山並み。

山と海が近接したこのエリアならではの絶景だ。

邸内あちこちに映し出される、飾り銅板を通したシルエット。

澄みわたる快晴が、邸にあふれる緑と青と茶の3色をさらに鮮やかにした。
ライトが提唱した「有機的建築(organic architecture)」という設計思想は、まさにこのアースカラーに象徴されるのだろう。
直線や幾何学的な造りが多用されたコンクリート建築なのに、中を歩いているとどこか懐かしく、祖母の木造の家にいるような心地に包まれた。

三宮に戻って〈茜屋珈琲店〉へ。
ゆったりとクラシックを流す老舗の喫茶店だ。

看板には「六百円」とあるが、ずんずん上がって今は「九百円」。

階段を上がって、駅前とは思えない温かい空気に満ちた店へ。

ずらりと並んだカップ(このほか、上にもたくさんぶら下がっている)から客の雰囲気に合うカップを選んでくれる。

僕にふさわしいと選ばれたのは…
ウェッジウッドの〈フロレンティーン ターコイズ〉。
そう? そんな感じ?

ブレンドはなんとも優美な香りとまろやかな苦み。
旨い旨いとあっという間に飲み干してしまった。
もったいないぞ。
ドトール3杯分やぞ。

脇に「高いが旨いお菓子」と店が言い切る手作りのチョコケーキを添えて。
ほどよい甘みと苦みのハーモニーにやられる。
今僕は口にまた問題を抱えていて、まともに食べることができないのだが、この「高いが旨いお菓子」はほとんど噛む作業要らずでホントに旨かった。

ちょっと、いや、かなりリフレッシュできたかな。
さぁ仕事だ。

(2025/1/19記)

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へんいち
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