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それが邪欲というものだ

フリーランスになって、まったく縁遠くなったものがある。
年末恒例、ふるさと納税である。

フリーランス元年の住民税は、あまりの収入の少なさから、均等割と呼ばれる所得に無関係の税だけになった。
納税の義務を負う者として、いわば底値状態だ。

周知のようにふるさと納税は、居住地に納めるべき住民税を他所に振り向けることでその地を応援し、それに対する返礼がもらえる仕組み。
均等割のみの最低ランクの納税者には、他所へ振り向ける元手がない。

サラリーマン時代には、あれだけカニやアワビやワギュウにヨダレを垂らし、歓喜のナミダを流したというのに。
12月も後半になると冷凍庫がぎっしり卸売市場のようになっていたのに。

神戸出身、兵庫出身の僕にすれば、神戸、兵庫以上に愛する地はない。
つまり、僕にとってのふるさと納税は、他所の応援ではまったくなく、自らのヨダレとナミダのために税を他所に振り向けただけのものだ。
決まった収入からの天引きが悔しくて、いかに取り返すかを考える会社員にとって、ふるさと納税とは邪欲を満たすためだけの制度だった。
神戸市、兵庫県、ごめん。

しかし、フリーランスになって天引きがなくなり、納税は自分のがんばりの証明と思うようになった。
窮屈なサラリーマンと違って、がんばるほどに手取りは大きく増し、納税も少し増す。
なら増えた分を少しだけ、これまでお世話になった地に振り向けようかと、やっと本来のふるさと納税の趣旨にたどり着いた。
がしかし、がんばれど収益が上がらず、均等割の底値に落ちた。
結果、せっかく邪欲はなくなったのに、ふるさと納税から縁遠くなった。

あぁ…もうこのまま一生、カニもアワビもワギュウも目にすることがないかもしれない…

待てよ、今年は赤字の月もあれば、どかんと黒字になった月もある。
集計はまだだが、もしかしたらカニ脚1本くらいにはありつけるかも。
いや、ワギュウ50gくらいなら。
ナミダを流したい。
ヨダレを垂らしたい…

いやいやいや、それが邪欲というものだ。

——おーい、ヨコシマ!
『ビルマの竪琴』の一節が頭にこだまする。

(2024/12/3記)

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へんいち
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