カニエ・ウェストは死んだ 【REVIEW】 Vultures 1 - ¥$
さて、どこから切り込もうか。
例のごとく散々リリースが延期されるうちに関心は一切なくなり、リリースの翌朝に1周だけ聴いた。アルバム丸々1周聴いたのは、今のところその日が最初で最後だ。この作品に対する私の関心は、つまりそんなもんだ。
YouTubeでヒップホップのレビューをしているチャンネル「Dead End Hip-Hop」の『Vultures 1』のレビュー冒頭で、こんな問いが投げかけられる。
「いつになったら出来の悪いアルバムはカニエ・ウェストの名声を貶め始めるのか?」
直訳すると変な感じだが、つまり、完成度の低いアルバムを出すことによって、そのアーティストの名声や神秘性は失われうるのか?それはいつなのか?という問いだ。
この問いに対する私なりの答えは、「今」だ。『The College Dropout』(2004) や『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』(2010) 、『Yeezus』(2014) で魅せた革新性は、もうカニエからは生まれてこない。期待もしていない。彼は今や、常に間違ったことをやり続けるただのインディペンデント・ビリオネア・アーティストだ。
たしかにこの20年間、カニエ・ウェストがいなければ、ポピュラー音楽は全く別のものになっていたかもしれない。カニエ・ウェストがいなければ、ストリートファッションは再定義されなかったかもしれない。カニエ・ウェストがいなければ、この世の誰かのメンタルヘルスは永遠に壊れてしまったかもしれない。音楽ファンは皆、彼に恩がある。それは揺るぎない事実だ。
しかし『Vultures 1』は、そんな彼との訣別の匂いがする。ハゲワシ(ヴァルチャー)は腐肉を貪るわけで、彼にもう「生」の匂いはない。カニエ・ウェストは死んだ。少なくとも私の中で、カニエ・ウェスト神話は途絶えた。
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