見出し画像

低緊張型脳性麻痺児の離乳食問題

脳性麻痺の子供に離乳食を始めた頃、特定の食べ物を与えるたびに、子供は明らかに苦しみました。ニンジン、ジャガイモ、ホウレンソウといった一般的な離乳食の食材でさえ、全身が真っ赤になり呼吸困難に陥り、ぐったりとして死にかけるのです。意識を失い、チアノーゼを起こし、嘔吐し、けいれんを起こすこともありました。

それで病院に運ばれても、「脳性麻痺にありがちな発作で原因不明」と言われて治療方法はないと言われました。「だって脳性麻痺なんだよ?こんなの当たり前だよ」と言われるだけ。当たり前なのに対処方法がないんです。

「脳性麻痺は一生良くならないから研究しても無駄なんだよ!治し方なんてあるわけないんだから言ってこないで!どんな医者だって治せないよ!むしろ死んでから連れてきて!」と怒鳴られたんです。

私は愕然としました。

癌もエイズも不治の病ではなくなりつつあるというのに、脳性麻痺の世界だけこんなにも遅れているなんて…。

離乳食で食べられるものがない

子供に障害が残ると言われた当初「2歳以上は生きられない」といわれました。同時に「長期授乳をしてください、限界まで長く母乳を与えてください」といわれていた意味を離乳食が始まった頃になると理解できました。

食べられるものが見つからなくて困るからです。

脳性麻痺の子供は、脳の障害によって代謝に問題が出ることがあります。その現れ方は子供によって異なり、極端な場合、食べられるものが非常に限られることがあります。何が食べられて何が食べられないのか見極める前に母乳をやめてしまうと、「食べられるものが何もない」という状況になり、子供は食べること自体を恐れて、ほとんど何も口にしなくなることがあります。

普通は粉ミルクでもいいじゃないかと思うと思いますが、市販のミルクが合わないことは往々にしてあります。脳性麻痺の子供専用の粉ミルクが発売される時代が来ればまた違いますが、「健康な子供にとってバランスの良い栄養の配合」と「脳性麻痺の子供の体のための栄養の配合」は全く違います。少なくとも市販の粉ミルクでうちの子に合うものは1つもありませんでした。世の中はまだそこまで時代が追い付いていないんです。

「何がいけないのか?なぜ苦しんで死にかけるのか?」と悩んでも、すぐに答えは見つかりませんでした。

同じ病気のお子さんに粉ミルクを与えているお母さんの中には、「いつもこんなものよ」と平然としている人もいましたが、明らかに飲まされた子供は苦しんでいるのです。しかし、苦しむことが日常になると、違和感を感じなくなるのか、何も思っていない人がたくさんいました。

病院の先生も療育施設の先生も栄養士さんもお母さんたちも「病気の子供なんだからしんどそうな顔をしてるのは普通」みたいな認識がどこかにあって普段との違いに気づいてない人がいっぱいいたんです。

その時、私は「障害児を育てるってことはこんな世界で生きていくってことなの?」と驚いたんです。ノウハウがほとんど確立されてないんです。

・ミルクを飲ます
・離乳食を食べさせる

そんな当たり前のことですら、あやふやな状態だったんです。

「いやでもおかしいよね?!だってこれ食べたら子供苦しんでるもん!」っていうと、「お母さんそんなんじゃダメですよ、離乳食を与えるのが下手なのを言い訳するのにそんなこと言っちゃ。嫌がる子供にも無理に食べさせないとちゃんと育たないですよ」とか言われるんです。

「そうじゃないんですよ!親が子供に食べさせるテクニックがなくて困っているのでははなく、子供に食べさせたら苦しむんです。具合が悪くなって困るんです」と、伝えても全く誰にも伝わっていなかったんです。

だけど周りには先生たちの言うことを聞いて苦しむ食べ物を真面目に食べさせたお母さんの先輩方が大勢いて、その子供たちは大きくなっても誰も健康じゃないんです。ずっと病気のままなんです。そして大きくなってもやっぱり食後苦しそうにしてるんです。

なぜ食べ物によって病気の子供たちはこんなにも苦しむのか?
なぜ苦しんでいる子たちに大人は平気で与え続けているのか?

この問いの答えを誰に聞いても知らないし、皆知らん顔をしてるんです。

それで私は自力で子供が食べられるものと食べられないものを調べ始めました。


食べられる食材探し


食品成分表をダウンロードして食べられたものとそうでないものにチェックをし始めました。

・食べたら明らかに苦しんだもの
・食べるのを嫌がって食べなかったもの
・食べたけれどその後ちょっと具合が悪くなったもの
・1度は食べたけどその後は食べなかったもの
・2回に1回は食べてくれるもの
・毎回食べているもの
・好きでたくさん食べるもの

こういう分類で見てみると面白いくらいページごとに食べられないものが偏っていました。

それは双子葉合弁花という野菜でした。トマト、レタス、きゅうり、コーン、オートミール、セロリ、胡麻、大豆、サツマイモなどがそうです。オリーブオイルとかがそうですね。考えてみれば野菜と果物の8割以上がそうです。

双葉で芽が出て、なおかつ花びらの根本がくっついている植物です。アサガオのようなラッパ型をしているわかりやすいものもあれば、キクやヒマワリのような根元がくっついてるかどうかわかりにくいものもあります。野菜や果物の花に詳しい人でないとこの言い方は伝わらないかもしれません。

このころから私は自閉症や発達障害のお子さんの食事を観察させてもらっていました。するとうちの子供が食べると苦しむ食材と同じものを、嫌いで残したりする子は大勢いました。障害児にありがちな「特殊な食癖のある障害の1つ」として受け止めている人たちもいましたが、健常児も同じような好き嫌いをしている子が大勢いたんです。

次第に「この問題は脳性麻痺だけじゃないのかもしれない」と、思うようになりました。むしろ大人も子供も元気な人も病気の人も皆共通の、人間そのものの問題なのではないかと考えるようになったんです。

そして「人間には生まれ持った体質があり、その体質ごとに食べることができない成分(生体異物)が存在するので、食べられない食品が人によって違う。特に病気の子供は生体異物が正常な発達を阻害するため苦しむ。それを好き嫌いと言ってはいけない」という考えに至りました。

このような経験から、私は子供の体質に合わせた食事療法、『生体異物除去食』の理論を考案しました。この理論では、体内で代謝しにくい『生体異物』となる特定の食品を避け体質に合った食材を選ぶことで病気の発症を抑えたり薬の効果を高めたりすることができるのではないかと思ったのです。

次は、具体的にそれがどのようなものなのか見ていきましょう。


生体異物とは何か?

生体異物(せいたいいぶつ)とは、生体内に存在しない、または通常は存在しない物質のことを指します。主に外部から体内に入るものを指し、以下のようなものが含まれます。肝臓の酵素(CYP450 など)で分解され、尿や胆汁として排出されます。一部は蓄積し、毒性を持つこともあります。

✅ 化学物質

  • 医薬品(アスピリン、抗生物質、バルプロ酸)

  • 食品添加物(保存料、着色料、香料)

  • 環境汚染物質(農薬、ダイオキシン、重金属)

  • 人工化合物(プラスチック由来の化学物質)

✅ 生物由来の異物

  • ウイルスや細菌のタンパク質(ワクチン抗原など)

  • 移植臓器や組織(免疫による拒絶反応の対象)

  • ナノ粒子やPM2.5(大気中の微粒子)


生体異物はいろいろありますが、今回低緊張の子供の体に関わっているものは植物が持っているガレクチンという生体異物です。

植物は草食動物に食べられてしまうと絶滅してしまうので、動物をやっつけるための毒を持っています。その毒は食べるとすぐにバタリと死んでしまうような毒ではなく、動物を癌にしたり、不妊症にしたり、子供の発達を遅らせたりするような緩やかな毒です。特に種を食べられたら絶滅まっしぐらなので大体は種の周りにたくさんその毒は存在します。

・とげがあるから動物が食べにくい
・辛みが強くておいしくないから動物が避ける

そういったやり方で草食動物から身を守っている植物も世の中にはあります。

しかし種にガレクチンを多くもつ植物はむしろ、

・甘いから動物にたくさん食べてもらえて動物をやっつける
・いい香りがするから動物に好まれてやっつけられる
・味がおいしいから動物に好まれてたくさん食べられるけれど、動物を沢山病気にさせられる

という、やり方を選択したのです。おいしい野菜や果物になることで人類に育てて食べてもらえば絶滅せずに済みますからね。


ガレクチン排出の経路

生体異物は、主に肝臓の機能によって処理されます。

🔹 第Ⅰ相反応(酸化・還元・加水分解)
→ CYP450(シトクロムP450)が関与し、異物を化学的に変化させる
🔹 第Ⅱ相反応(抱合反応)
→ グルクロン酸抱合などにより、水に溶けやすくして排出を促進

その後、腎臓 → 尿として排出されたり、肝臓 → 胆汁として排出(便へ)されます。

ガレクチンの場合は主にCYP3A4という酵素によって排出されています。

ただしこの酵素は、たくさん体に持っている人と持っていない人が存在します。

簡単に言うなら、

・CYP3A4を沢山持っている人=ガレクチンを食べても割と平気な人
・CYP3A4を沢山持っていない人=ガレクチンをちょっと食べるだけでもめちゃくちゃしんどくなっちゃう人

普通の人はこのくらいのふり幅ですが、低緊張型脳性麻痺の子供の場合は「ちょっと食べただけでも生命の危機」というくらい苦しみます。

その理由は、CYP3A4という酵素が「筋肉の量を決めるホルモン」や「炎症を抑えるホルモン」の量に関係があるからです。

ガレクチンを多く食べるとCYP3A4の量が減ります。

すると筋肉や粘膜や脳で障害が重くなるんです。

・男性ホルモンの量が減る➡低緊張が強くなり、呼吸をするための筋肉も働かなくなり困難に。体を維持するための筋力が低下し、側弯などが重症化する
・炎症を抑えるホルモンの量が減る➡脳内の炎症を抑えられず、てんかん様発作などを起こす。風邪をひいたときなどの炎症を抑えられず重症化する
・女性ホルモンの量が増える➡脳のダメージの周りにこれらが集まり脳細胞の正常な発育が阻害される

ですから、低緊張型脳性麻痺は必ず「CYP3A4の値はほどほどに高くキープする」ということが重要になってくるので「ガレクチンを多く含む植物を食べることはできない」ということになります。

でもこのガレクチンはなぜ毒なのに人類によって食べ続けられてきたのでしょうか?それはCPY3A4が多すぎる体質の人たちにとってはこれを減らしてくれる薬のような役割をしてきたからです。本来は毒のように働くものですが体質によっては薬のように使うことができたんです。

ただし自分の体質があらかじめどちらなのか知らなければこれをうまく使いこなすことはできません。

そしてガレクチン高含有の植物こそ「栄養がある」と言われている食べ物なので、人は良かれと思って食べています。CYP3A4が多い体質の人達は「健康に良く栄養がある」と言われている野菜が本当に体に良いですがCYP3A4が少ない体質の人は体に良いと言われている野菜が毒のように働き病気になってしまうんです。


筋緊張の強さはCYPで決まる!

これは言い換えると次のようになります。

CPY3A4が少ない体質の人はガレクチンを食べると排出できず毒のように働いて炎症を引き起こし、ホルモンのバランスが崩れることによって病気を発症します。

逆にCPY3A4が多い体質の人はガレクチンでそれを減らさなければ病気になってしまうし、ガレクチンを食べすぎればCPY3A4が少ない人と同様毒として働いてしまうので病気になってしまいます。適度にガレクチンを取らなければならないというのはなかなか難しいですよね。

どちらが簡単かというと、全部除去するほうが難しく考えなくて済むので楽です。ですがすでにガレクチン高含有食品のおいしさを知ってしまっていれば「大好物なのに食べることができないなんて」と考えてしまうので食べなくすること自体がとても難しいです。


特に低緊張型脳性麻痺の女児は35歳を過ぎたあたりから筋緊張が強くなりすぎて不自由になる人がいます。これは更年期にさしかかる前くらいから、女性ホルモンの量の変化が間接的に男性ホルモンの量に影響を与えて筋緊張を強くしてしまうのでしょう。

ですから低緊張型脳性麻痺の子供のお世話をする人はこの図式をよく理解したうえで、一生をかけて食事の内容について考えなければならないのです。

また筋緊張が強いタイプの脳性麻痺であっても、脳のダメージの仕組みやケアの方法は同じです。ホルモンの偏りによって症状の出方が違うだけなので、食べ物や薬の影響でこれは変化します。

生体異物除去食の考え方ではガレクチン以外の生体異物もたくさんありますが、「ガレクチンが食べられるかどうか」という点に関しては特に重要です。ガレクチン以外にも動物性のレクチンなどもありますが、日本人の現代の食生活というのは植物を食べることが多いので影響が凄く大きいんです。ですから今回はガレクチンを中心のお話になります。


双子葉合弁花類以外の植物について

植物で人間が食料として食べているものの多くは次の4種類です。

・双子葉合弁花
・双子葉離弁花
・単子葉植物
・アブラナ科の植物

これらはガレクチンを食べられるかどうかに加えて男性と女性で食べられる組み合わせが異なります。

(ここに植物の体質ごとに食べれる種類の図を公開しますが体質の判別に関してはまた改めて詳しく説明します。今回は簡単に。)

うちの子供は元々Aタイプだったので、食べられる植物は「大根とキャベツと白菜とネギと、玉ねぎ、生姜、茗荷、わさび、ホースラディッシュ、りんご、山ブドウ、大棗(なつめ)、あんず、プルーン、ミカンの一部」で終わりです。少ないですよね。

Aタイプが低緊張が最も強く出る時の体質です。もちろんCタイプやDタイプの人がこの部分に体質が偏ると同じように低緊張になります。

・もともと持って生まれた体質
・食べ物や薬などで偏った体質

この2つを考慮に入れながら食べ物を選択する必要がありますが、低緊張であるならABに偏っているわけです。


ガレクチンが多い場所は種です。種に近い芽とつぼみと花も多く含まれます。ガレクチンの正体は灰汁です。苦かったり渋かったりします。

・含まれている場所:種、芽、つぼみ、花

ですから双子葉合弁花類の種や果菜類が食べられません。


ほとんどの穀物、ほとんどの豆、ほとんどのナッツ、ほとんどの果物などです。なぜほとんどという言い方をしたのかというと、稀に例外があるからです。生命の神秘ゆえに例外があります。

アブラナ科が食べれれるならブロッコリーが食べれないの?とよく聞かれます。ブロッコリーは蕾なので食べられません。ブロッコリーのスプラウトも芽なので食べられません。なおかつ過熱をしなければ食べられないものはアブラナ科でも食べられないので葉物野菜でも食べられないものがたくさんあります。カラシも種なのでマスタードは食べれません。

調理方法とデコイ

料理をする人ならわかると思いますが、水で洗った時にたくさんアワが出る植物があると思います。このアワはガレクチンが多く含まれている食品に見られる特徴なので、目安になります。

ガレクチンは過熱をしたら壊れて食べられるようになると世間で言われていますがそれは健康な人の話であって、病気の子供はそれに含まれません。過熱してしてもダメなことの方が多いです。

たとえば、調理方法によっては食べやすくなるかもしれませんが完全ではないのでお勧めしません。たぶん苦しみます。

・水に長時間つけてあくを抜きながら何度も水を替える
・高温で調理をする(油で揚げる、オーブンで180度など)
・長時間調理をする(8時間煮込む)
・高圧で調理をする(圧力鍋で調理)
・発酵
・塩蔵
・冷凍
・フリーズドライ

そもそも、レクチンは糖とタンパク質が結合した化合物であるため、調理過程で糖やアミノ酸、脂質と結合させることで無害化できる可能性があります。しかし、その加減は非常に難しく、試行錯誤が必要です。

例えばガレクチンが多い食品として「小麦」があります。小麦粉に糖である砂糖を加え、脂質やアミノ酸を含む卵やバターを足してベーキングパウダーなどを加えて高温のオーブンで焼けば小麦のガレクチンの形を変えることが理論上は可能ですが、重要なのは配合の妙です。

スポンジケーキの配合ならうちの子供は食べられませんが、卵の分量の多いカステラにすれば食べられます。これはガレクチンをきちんとデコイできる配合なのだと思います。生クリームをいっぱいはさんだクレープは食べるけどクッキーはダメとかね。小麦粉+砂糖+卵+バターの4つの組み合わせはなかなかに難しいけれど100%ダメというわけでもないんです。

大豆はガレクチンが特に多い危険物質ですが、発酵させて味噌や醤油になっていれば食べられます。豆乳や煮豆、豆腐、湯葉などは食べられます。油揚げは物によります。納豆は発酵の度合いによるので、賞味期限が切れるくらいの過発酵気味なものでちょうどいいです。

このように調理方法によっては少しマシになるものもあるけれど、過信は禁物です。おいしいものを大人は知っているからこそ「ちょっとでも食べたいな、食べさせてあげたいな」と思って食い下がるんです。でもそれが命取り。無理をせず食べられるものを食べているのがいいと思います。

今思えばうちの子はAタイプだから、離乳食は鶏もも肉をゆでてペーストにしたものを食べさせていれば苦労はなかったのだと思います。でもなぜか日本の離乳食のレシピは「夏野菜や根菜のペースト」がほとんどなんですよ。スタートが肉料理っていうのはちょっと一般的ではないですよね。でも間違いなく、低緊張でコルチゾールが高い状態の子供が野菜を食べられるわけがないんです。

アミエビをゆでて食べさせたらよく食べたし、白菜のお浸しは大好物だし、キャベツを炒めたものもよく食べました。鮭をそぼろにしてごはんに混ぜたらよく食べたし、わかめも好きだし。お寿司や海鮮丼はよく食べます。シジミ汁もよく飲みました。海苔や鰹節は大好きだし生体異物除去食Aタイプは普通の和食なんです。ただ夏野菜とか果物が食べれられないだけであとは普通なんですよ。焼肉屋ステーキ、ラーメンも好きです。餃子やハンバーグも大好き。野菜を食べないと言ってもネギやキャベツなどは食べられるので全然食べてないわけではないです。

でもいろんな食養生が世の中に既にたくさんあってそれによるトラブルがあるせいで、よく知らないうちから行く先々で、「気持ち悪い食事療法をするジャンルの人」という扱いを受けがちでした。宗教上の理由で食べない食材が多い人だと勝手に誤解されたりするんです。

そのせいでその偏見が子供の命を危険にさらすことがたくさんありました。

世間の常識と「食べられないのは可哀そう」という押し付け

生体異物除去食を実施すること以上に大変なのが周囲の人に理解をしてもらうことです。

世の中の殆どの人が「野菜は体にいいのよ、果物はおいしいわ。栄養がたくさんある食べ物を食べるほうがいいのよ」と思っていて、親切で食べさせようとしてくれますが、低緊張型脳性麻痺の子供はそれらがすべて毒として働きます。

これを家族や親せきや周囲の人に理解してもらうことが、とても大変なんです。今までの常識の正反対だから。隠れてこっそり食べさせられて救急車を呼ばなければならなくなることもよくあります。

一番困るのが食べてすぐに具合が悪くならないことです。大体12時間くらい経過して症状がでるので、食べさせた本人に「自分が悪いことをしたのだ」と自覚させることすら難しいので何度でもされます。「ああいってるけど、変な食事療法をやってるお母さんが悪いのよ。普通に食べさせたほうがいいに決まってるわよ」と言われることもあります。

具合が悪くなっても「もともと脳性麻痺なんだから具合が悪くたって当然でしょう」と考えられて自分の責任だと思ってくれる人は少ないんです。

今の世の中、アレルギーなのだと伝えれば理解してもらいやすいですが、レクチン不耐症はほとんど知られていません。医者や教師に伝えることもとても難しいです。どんなに一生懸命伝えても、「お母さんはああいってるけど栄養は沢山取ったほうがいいし、こんなにおいしいトマトやニンジンが食べられないのは可哀そうよ」といってこっそり食べさせられ、そのせいで子供が何か月も寝たきりになるということを何度も繰り返してきました。

皆良かれと思って勝手に人の子供の口に野菜という名の毒を突っ込んでくるんです。


だからこそ上手な伝え方を考える必要がある

私のようにならないためには、一般常識と脳性麻痺の子供のケアはあまりにも違うのだということを周囲に伝えて上手にコミュニケーションを取って行く必要があります。

その時に伝え方が大事だと思うんです。自分なりに一生懸命伝えようとしても相手に寄り添っていなければ伝わらないです。

 ・論理的に説明したほうが伝わりやすい人
 ・熱意を込めて説明したほうが伝わりやすい人
 ・時間をかけて説明すればわかってくれる人
 ・図や写真があればすぐ理解してくれる人
 ・解決策だけを知りたがる人
 ・リスクについて主に説明したほうが行動を変えてくれる人
 ・ストーリーを交えて語ったほうがすんなり受け入れてくれる人
 ・自分が調べたり考えたりする時間を用意してあげたほうが早く納得してくれる人

いろんなタイプの人がいるので、相手の人にあわせて伝え方を考えたほうがいいと思います。

誰も悪意があって危険な食べ物を食べさせようとしているわけではないんです。ただ常識の範囲にないことを言われたときに、「嘘をつかれてる」とか「からかわれる」と感じる人が意外とたくさんいるので「変なことを言うお母さんだから言うことを聞かなくていいだろう」と反発されやすいんです。

特に「栄養があるものを食べましょう」なら皆が応援してくれるのだけど、「この子にとって毒になるものがあるから食べれないんです」と言われても毎日それを自分が食べていると「え?」ってなりますよね。

この問題をうまくクリアしていかないと本当に大変なんです。だって子供の食事ってお母さん一人が与えるものでもないからです。家族や親せきや友達やお世話に関わる人たちは大勢いるので、うまくやって行かないと本当にトラブルになりやすいです。

でも圧倒的に「低緊張とガレクチンとCYP3A4の関りのメカニズム」は科学的な事実なのでゆるぎないことです。

ただ小児科の先生でCYPについて正しく知っている人は少ないです。なぜならそれについて大学であまり習っていないから。「薬物代謝酵素でグレープフルーツと一緒に食べたらダメな薬があるよね」と言うくらいしか知られていません。お医者さんなら35歳以上の人は教科書に載っていなかったので、なんとなくしか知らないはずです。CYPについて詳しいことがわかってきたのは最近のことなんです。レクチンに関してもそうです。「難しい特殊なジャンルの研究」と思われていて、簡単に口にすると反発されても仕方がないかもしれないです。

・レクチン不耐症であること
・CYP3A4という酵素の問題であること
・筋肉の発達や動きを決めるのはホルモンの量であること

この3つについて、皆が知らない中でこれを伝えていくのはすごく大変です。

用意したものだけ絵を与えてもらう

給食などは食べられないのでお弁当を持っていくようになると思います。その時になぜそういう食事をしているのかということをうまく伝えられないと、むしろ「アレルギーです」と言ったほうが早く解決します。アレルギーがまだ知られていなかった時代にそれを啓蒙していった人たちってすごく大変だったはずですね。気持ちがよくわかります。命にがかりわるのに知らない人たちはあっけらかんとして「好き嫌いなんてダメよ!」と言いながら食べさせようとしてくるんです。それが心底恐ろしいわけです。

なおかつレクチンに関する情報が少ない時期に発売された本などには事実と違うことが多く書かれています。それがベストセラーになってしまったりすると、レクチン不耐症に対して理解を示したいと思った人が良かれと思って「アボガド食べられるんでしょ?レクチンフリーダイエットの本に書いてあった!だから食べさせてみたよ!」なんて言い出しちゃうんです。そしてその日の夜救急車を呼ぶ羽目に…。「種はダメだとあれほどいったのに!お弁当以外は食べさせないでとあれほど…」と泣く羽目になります。

だから究極は「用意したもの以外を食べさせないでください」ということをいかに徹底できるかにかかっています。それさえやり切れば、うっかり食べられないものを与えられて子供が苦しんだり発作を起こして命の危機に直面するかということを防げるはずです。


可哀そうって言わないで!

ある程度子供が大きくなってくると、「これが食べられないなんてかわいそう」なんていう人がいると子供が「食べてみたい」というようになります。食べると苦しむことを「救急車乗りたくないよね?また心臓止まるの嫌だよね?」と説明しても「可哀そうって言われたくない」という気持ちが先に立って親の見ていないところで誰かに「食べたい」といって食べさせてもらうということがあります。

普段レクチンを食べつけていない人にとっては、レクチンの味は大体おいしくないんです。苦かったり渋かったりするので。脳の栄養になるものは甘くおいしく感じるけれど、毒になるものは味が悪いんです。だから食べても平気な人は苦みを強く感じていないはずです。レクチン不耐症の状態だと食べてもおいしく感じないので、全然可哀そうじゃないんですよ。

食べてみて「おいしくなかったし、呼吸止まって怖かったからもう食べたくない」って思っているのに何度でも周囲の人が「こんなにおいしいのに」というと「何度か食べてたらおいしくなるのかな?」と子供は思ってまた食べてしまうんです。家になければ食べれないけど、喋れれば「食べてみたい」と人に伝えてしまうんですよ。ほかの人も「食べさせてあげたい」と思っていれば親に内緒でこっそり買ってきてしまうんです。そして救急車を呼ぶ羽目になるんですよ。



上手く説明するコツ!

だから周囲の人に説明するときは次の点について気をつけておけばいいと思います。

順番でいうと、

「食べるとどのような恐ろしいことが起こるのか?」(リスクの提示)
・レクチンという成分が多く入っている食品を食べると、呼吸が止まったり心臓が止まってしまうから絶対にダメ
・発作が起きたら救急車を呼ばなければならなくなるし、その後も入院したり家から出れないことが何か月も続いて学校もいけなくなる

「禁止事項」(してはならない行為の説明)
・食べていいものを用意するのでそれ以外の食材は与えないでほしい、誤飲しそうな環境に子供を連れて行かないでほしい
・食べさせたいものがあるなら確認を親にとってからにしてほしい、事後承諾でいいとは思わないでほしい
・「食べられないから可哀そう」とか「こんなにおいしいのに」という言葉を子供に聞かせないでほしい

「なぜそうなるのかを説明する」(作用機序)
・レクチンによって炎症が起きると炎症を抑えるホルモンが分泌されるから筋肉を維持するホルモンが減るせいで呼吸をする筋肉が上手に動かなくなってしまう。脳でも異常な働きが起きてけいれんなどの発作が起きる
・レクチンが多く入っているのは野菜なので、野菜は健康に良いというイメージがあるがこの子にとっては違う

「強い思いを伝える」(感情的な理解を求める)
・何度も死にかけて何か月も回復するまで寝ずに看病しないといけなくて、親も体力的に消耗するし子供もしんどい思いをしてきたので、二度と発作は起こしたくない
・発作が起きて、息ができずに苦しんで死にかける姿を見ることはだれでもトラウマになるほどすさまじい様子なんです。それをいろんな人に見せたくはないし、自分が与えた食べ物でそうなってしまったという罪悪感で長い間ツライ想いをする人を増やしたくないんです

言葉のクッションを上手に使う(相手の気持ちに寄り添う)

特に重要なのが、「レクチン不耐症はアレルギーのように重大な事故が起こりかねないものなのに、まだあまり知られていないことが恐ろしいことなんです」と、伝えることです。

なぜなら自分が知らないことを説明されたときや、よくわからない専門用語を出されたときに、ただそれだけでムカついて反発したがるタイプの人間は意外と多いんです。だから「これは大勢が知らないことなので」と最初に言葉のクッションを入れることで相手のプライドを傷つけることがなければ、案外「そうなのか」と納得してもらいやすくなります。

それが特に医師の場合は「この件について自分は知らないし習っていないから、お母さんが本当のことを言っているかどうか確認するためにも、一度実際に具合が悪いところを見てみないとわからない」と考える人もいます。

これ恐ろしいでしょう?嘘なんかつくわけがないんですよ。こんなに大変なお世話の日々で、嘘をつかないといけない理由もそんな余裕もあるわけがないじゃないですか。でも伝え方が上手くいかないと、入院中、私が見ていない隙に看護師がニンジンを口の中に入れたりするんです。

だからこそ、うまく説明をしないと簡単に子供の命が脅かされます。


タバコ・お酒も合弁花類

タバコは直接食べはしないけれど一応双子葉合弁花類なんです。だから家族で吸う人がいたら、その人の肺から出てくる呼気に含まれる成分で子供はてきめんに具合が悪くなると思います。目の前で吸わなくてもよくないです。

レクチンは体内に入ると粘膜に取り付いて結合をしてはがして炎症を起こして潰瘍を作って血流に乗って、血管内で赤血球と結合して血栓を作ります。そしてそのまま血液脳関門を突破して脳の中にも入ってしまいます。もともとのレクチンのサイズは大きいですが、この一連の過程でどんどん小さくなっていくんです。砕けてて割れた破片が流れていくのをイメージするとわかりやすいかも。

タバコは息を吸っているだけのように見えて実は結構高威力が強いので、低緊張の子供が家にいるなら禁煙大事です。


食事療法の実際/原疾患を優先する

今回お知らせしている内容は「低緊張型脳性麻痺」を中心にした食事療法の概念ですが、脳性麻痺の子供というのはたまたま不幸なタイミングで事故が起こって障害が残る場合と、生まれつき病気を持っていて原疾患の影響で脳にダメージができた場合とあるはずです。

食事の内容を考えるときに、原疾患がわかっていればそれに応じて何を食べさせたらいいかがわかると思いますが子供の病名がすぐにわかることは少ないです。食事制限を必要とする病気は意外とたくさんあるんです。病名がわかっていて食事制限があるのであればそれを優先したり、考慮に入れながら調整すべきです。アレルギーがあればそれは一番に考えたほうがいいです。

当然生体異物除去食を食べさせたときに原疾患の影響で合わないということもあるかもしれません。柔軟に対応していただければと思います。

食べられるものが少ないからといって、過度に食事制限をすると、栄養不足になる可能性があります。食べられる食材の中から、バランス良く栄養を摂取できるように工夫しましょう。


離乳食を始める際の食材選択フローチャート

  1. 子供の体質を判別する

  2. 各体質に対応した「食べられる食材リスト」を参照する

  3. リストにある食材の中から、消化しやすいものを選ぶ

  4. 少量から試し、体調の変化を観察する

  5. 問題なければ、徐々に量を増やす


体調が悪くなった時の対処フローチャート

  1. 症状(発疹、呼吸困難、嘔吐など)を記録する

  2. 直前に食べたものを特定する

  3. 疑わしい食材を除去する

  4. 症状が改善するか観察する

  5. 食材を「安全」「注意」「危険」の3段階に分類し、リスクレベルを明確にする

  6. 各食材について、調理方法や注意点などの補足情報を加える。食物アレルギーがなどが原因であるのか不耐症なのかを識別するために検査などを実施する

それ以前にできれば早い段階で、全ゲノム解析を受けて病気のリスクを知ることで食べ物の選択も容易にできるようになるはずです。

そうすれば体質の判別も容易になります。



まとめ



脳性麻痺児の代謝問題: 脳性麻痺の子供は代謝に問題を抱え、食べられるものが極端に限られる場合がある。特に市販のミルクや離乳食が合わないことが多い。

  • 生体異物(ガレクチン): 植物に含まれるガレクチンは、一部の人にとって毒となり、特に低緊張型脳性麻痺の子供に深刻な影響を与える。

  • CYP3A4酵素: ガレクチンを分解する酵素CYP3A4の量が少ないと、ガレクチンの影響を受けやすい。低緊張型脳性麻痺の子供はこの酵素量が少ない傾向がある。

  • 体質に合わせた食事: 体質によって食べられる植物が異なり、特に低緊張が強いAタイプは食べられるものが限られる。

  • 調理法の工夫: 加熱、発酵などによりガレクチンをある程度無害化できる場合もあるが、過信は禁物。

  • 周囲の理解: 周囲に「野菜=健康」という常識を理解してもらうのが難しく、誤って食べさせられることが問題となる。アレルギーとして伝えるなど、伝え方を工夫する必要がある。

  • 原疾患の考慮: 脳性麻痺の原因となった原疾患がある場合は、その食事制限も考慮する必要がある。

  • 徹底した管理: 親が用意したもの以外は食べさせないことが重要。

  • 子供への説明: 年齢に応じて、食べられない理由を伝え、周囲に食べさせてもらわないように伝える必要がある。


現状ではレクチンやCYP3A4について十分な知識を持つ医療従事者は少ないです。詳しい人は研究者などで、外来で患者を診ているお医者さんにはまずいません。しかも日本でレクチンについて専門家に相談したくてもほとんど見つかりません。私が相談した人は海外の研究者ばかりです。そして食べ物の話をしているので誤解されやすいですが、栄養学ではなく非栄養学なので栄養士に相談しても何もわかりません。

研究機関のウェブサイト、海外の論文サイト、専門家の書籍などから最新の研究動向を常に把握し、自身の知識をアップデートする必要があります。勉強は大変に違いないですが、食べれる食べ物に気付いて、具合が悪くなることが減って発達するようになったらお世話の質が変わって生活がかなり楽になると思うんです。最初は大変かもしれませんが、「食べれる食べ物を探す旅」というのは決して無駄ではないはずです。

  • 自身の観察と記録: 食事内容と子供の体調の変化を詳細に記録し、どの食品がどのような影響を与えているのかを把握し、細やかに対応する。

  • 信頼できる情報源の精査:レクチンに関する情報はまだ研究段階であり、出版されている本などの中には誤った情報も多く存在します。信頼できる情報源から正しい情報を入手するように心がける。

このようなことに気を付けながら、私はずっと勉強してきました。わからないこともたくさんありましたが、目の前にいる子供が「食べて苦しんだかどうか」は見たらわかることなので、それが答えです。ガレクチン以外の生体異物を見つける時にも、親の観察力以上に確かなものはありません。

「なんかいつもと違うな、苦しそうだな」
「どうしてこんな顔してるんだろう?」
「これ絶対食べてくれないな…」

そんな小さな気づきが子供を救うヒントになると思います。

毎日のご飯のことなんて、母親にしかできないことですよ。



「脳性麻痺は治らない病気だから」といって医者が治してくれなくても、母親が治せる病気になったらいいじゃないですか。

私はそんな世界を作りたいんです。



次回は体質に関して詳しく見ていきましょう。





【キーワード解説】

  1. 双子葉合弁花: 双子葉植物は、種子が二枚の葉(子葉)を持つ植物のことです。合弁花は、花弁が合わさって1枚に見えるタイプの花で、花弁が互いにくっついている特徴を持っています。

  2. 双子葉離弁花: こちらも双子葉植物に分類されますが、花弁がそれぞれ独立している(離れている)タイプの花です。代表的な例としては、ナデシコやサクラなどが挙げられます。合弁花と対照的な特徴を持っています。

  3. ガレクチン: ガレクチンは、糖鎖(糖分子が結びついた構造)を認識して結合するタンパク質です。主に免疫反応や細胞間相互作用に関与しており、細胞の認識や接着、さらには炎症反応などに重要な役割を果たしています。

  4. レクチン: レクチンもガレクチンと同様に糖を結びつける性質を持つタンパク質の一種で、細胞間での認識や免疫反応、さらには病原菌への対抗に関与しています。レクチンは、糖鎖と結びつくことで特定の細胞と相互作用します。

  5. 生体異物: 生体異物は体内に入ってきた外部の物質や微生物を指します。これには、ウイルス、細菌、化学物質、または移植された臓器などが含まれ、免疫系がこれらを排除しようと働きかけることになります。これに対する生体の反応は免疫応答です。

  6. CYP3A4: CYP3A4は肝臓で主に発現する酵素の一つで、薬物の代謝に関与しています。薬物を体内で分解し、排泄可能な形にするために重要な役割を果たしており、薬物の効果や副作用に影響を与えることがあります。

  7. デコイ: デコイとは、騙しの手段やおとりのことを指します。生物学的な文脈では、免疫系や細胞内で「おとり分子」として働く物質を指すことがあります。たとえば、病原体が免疫系の攻撃をかわすために、誤ったターゲットを提供することがあります。

いいなと思ったら応援しよう!