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プリンとチーズケーキ【百合小説】


雨上がりの昼下がり。
ほんの些細な事だった。
「すぐに洗わないならせめて水につけておいて」
「どうせ皿洗いは私なんだからどうでもいいでしょ!」

昼食のお皿を流しに置いて、仕事のメールを返していた真琴は菜々に小言を言われ、ついカッとなってしまった。
まったく、学生の頃はあんなに可愛かったのに。
イラっとして財布とスマホを手にして家を出てきたけど、真琴はどこに行こうか悩んだ。
仕事の連絡は全部返し終えていたし、しばらく帰らなくてもいいだろうと駅と反対方向に歩き出した。

お気に入りの喫茶店でカフェオレを頼むと、真琴は自分の幼稚な反論を思い出して恥ずかしくなった。
確かにほぼ皿洗いは真琴がやっていたが、それもこれも菜々が美味しい食事を作ってくれるからだ。お互いを思いやっていかないと同棲生活はすぐに破綻する。
それもわかっていたのに、せっかくの有休に部下からひっきりなしにくる連絡にイライラしていた真琴はつい、彼女にあたってしまったのだ。いい年をして恥ずかしい。
学生のころから、ずっと菜々が隣にいてくれるから、私はつい彼女に甘えてしまう。
彼女は周りに「お母さんか!」などと言われていたけれど、母のソレではない、自分にはない憧れの温かい女性だった。

(帰ったら謝らないとなぁ)
空になったカップをソーサーに戻すと、店員がメニューを持ってきてくれた。
「真琴さん、テイクアウト、どれにします?」
いたずらっぽく笑う彼女に、また恥ずかしくなってしまう。
「…理沙さんはなんでもお見通しなんですね……」
耳を赤く染めながらメニューを受け取り、どのケーキにしようか考える。
「心ここにあらずで、ちびちびとカフェオレ飲んでるときって、大体菜々さんと喧嘩をしたときでしょう?」
くすくすと笑う店員に、『コレ』とチーズケーキを指さした。
理沙は「は~い」と返事をしてカウンターの奥に消えていった。

そういえば、喧嘩をするといつもここにきて、カフェオレを飲んでいた気がする。あまりに無意識の行動で、自分でも覚えていなかった。
日も傾き、オレンジに染まる街中を歩き、真琴は家に戻った。
シンと静まる家の中には、テーブルの上にごめんねと書かれたメモに、プリンが添えられていた。駅前の私が好きなカフェのプリン。
探しに行ってきてくれたのだろうか…。

寝室では涙の筋を作った菜々が丸くなっていた。
髪をそっと撫で、ごめんねとキスを落とす。
ケーキもプリンも、冷蔵庫にしまった。ケーキには『私こそごめんね』とメモを添えて。
二人一緒がいい。笑顔で、明日謝って一緒に食べよう。


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