「人を上手に慕う」ことの極意〜関容子「銀座で逢ったひと」
80代の現役名エッセイスト、関容子先生の最新作。関先生は雑誌記者からエッセイストに転身され、主に文学者や俳優の聞き書きエッセイで、エッセイストクラブ賞、講談社エッセイ賞、読売文学賞など数々の賞を受賞された名手です。最新刊は、「銀座百点」に連載されたエッセイ「銀座で逢ったひと」をまとめたもの。文士から歌舞伎役者、俳優、落語家、画家、音楽家まで(音楽家は岩城裕之さんと五十嵐喜芳さん)37名の著名人との交流が、南伸坊さんの雰囲気のある似顔絵と共に紹介されています。
直接お話ししたことがないので、あくまでご本からの印象ですが、関先生はとてもチャーミングな方のようです。知的で好奇心に富んでいて、「人」への興味が深く、温かい。(でなければ交友録で本はできないし、丸谷才一から中村勘三郎、池部良から古今亭志ん朝まで、錚々たるメンバーが心を開くはずがありません。究極の「聞き上手」なんだと思います。人を上手に慕う方なんですね。爪の垢を煎じたい。
そして、「人」からたくさん学ばれる。丸谷才一さんからは、「文章はテクニックの問題ではなく、生き方の姿勢」ということを、井上ひさしさんからは、「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに書く」ことを学ばれたという。全くその通りで、これにはただただ頷いてしまいました。
この本の大きな魅力は、人と人との交流の手触りでしょう。相手の雰囲気、空気感、その人との間に紡がれた時間を、滑らかですが「はっ」とさせる文章で綴ります。その背景がまた華やか。文壇バー、帝国ホテルでの出版パーティ…まさに、古き良き時代。
最近読んだあるベストセラー作家の作家指南の本に、「長者番付の上位には、一滴もお飲まない作家が大勢いる」「文壇バーは、出版社のお金で飲みたい作家の行く場所」「出版パーティは、自費出版するお偉いさんのもの」とあって、確かにそうだよな〜とこれも頷いていたところ。正直、そういう時代になりつつあるので、この御本を読んで、「文士」の時代の空気を思い出したのでした。
関先生の聞き上手の出発点は、51歳の若さで亡くなられてしまったお兄様との関係にあるようです。小さい頃、お兄様が、夜寝る前に色々な話を聞かせてくれて、それがとても楽しく、お兄様にとっても妹の反応が良くて張り合いがあったよう。「思えばこれはインタビューの極意で、興味を示して話し手を励ますこと、感謝と敬愛を惜しまず話すこと。そうすればもっと素敵な話が聞ける、ということを、私はここで学んだのかも知れなかった」。
素晴らしい。
関先生は、このお兄様のことを一度きちんと書きたい、と思っていらしたそうなのです。それをこの本で「ようやく果たすことができました」。
お兄様、あちら側で、さぞお喜びのことでしょうね。
本の内容はこちら。
https://www.chuko.co.jp/tanko/2021/09/005466.html
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