[未亡人の十年] _002 ある日届いた突然のメールは夫の訃報だった。
その日のことから書きはじめてみようとおもう。
そこからはじまる流れがもっともしっくりくる気がするからだ。
その日。
それは、わたしが「夫の死を知った日」のことだ。
その報せは、ある冬の朝、とつぜんやってきた。
一通のメールが、わたしのPCに届いたのだった。
" ○○君逝去のお知らせ "
件名にはそう表示されていた。
驚いた。
・・・いや、違う。
夫の名前と「逝去」という2文字がすぐには結びつかなかった。
常識的な理解を超えていた。
どうして、妻である自分に「お知らせ」なんかが届くのか、わからない。
とっさに、タチの悪いいたずらかと考えた。
が、夫の名前が記してあるのが気になった。
まずは件名にひっかかり、それから送信者を確認した。
表示はアドレスだけで送り主はわからなかった。
メールを開封した。
送り主は夫の、会社の同期だった。
彼は共通の友人でもあり、わたしたち夫婦を引き合わせてくれた恩人でもある。
急速に動悸が高まるなか、一読して、驚いた。
「僕にも事情がまだ入ってきてないのだけど、
昨日の朝、○○君が亡くなったらしい。
きみの連絡先を誰も知らないので、自分がメールを送っている。
確認したら携帯に連絡をください」
とあった。
昨日の朝・・・?
ということは、夫の死から1日が経過しているということ?
ひっかかりつつも、そのとき、まずは連絡しようとおもいたった。
が、自分の携帯が見つからない。
置いてある場所すらまったく浮かんでこないのである。
フリーズし、同じ場所に立ちつくした。
頭が真っ白になるという表現があてはまるような自失ぶりだった。
我に返ると、からだが小刻みにふるえているのがわかった。
携帯をあきらめ、固定電話からかけることにした。
何度もボタンを押し間違えては、受話器をリセットした。
経験したことがないほど手がこわばり、ふるえていた。
何度も、夢のなかで経験していた場面だった。
誰かに連絡をとろうとしているのに、何度も何度もボタンを押し間違える。
それが現実になった。
からだが震えているから、ちいさなボタンが押せないのだと知った。