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女の子になりたい、女の子でい続けたい、女の子たち/『純情クレイジーフルーツ』

私は漫画とほぼ無縁の家庭で育ったので、少女漫画をあまり読まずに大人になりました。
それで、少女時代を遠く過ぎてから改めて名作の数々を履修しているのですが、今LINEマンガで読んでいるのが桃苗あけみ先生の『純情クレイジーフルーツ』『純情クレイジーフルーツ続編』です。

この作画の端正さ、ファッションのかわいさ……!
一条ゆかり先生(のアシスタントをされていたそうですね)の『有閑倶楽部』がパリコレだとしたら、『純情〜』は国内DCブランドやカジュアルな原宿系のような感じでしょうか。ファッションに合わせたヘアアレンジもかわいい!

そして、小中高すべて共学だった私には知り得ない女子校の世界と、お気楽4人娘たちの日常が描かれているなかで、私が気になったキャラクターは沢渡くんと花子教頭でした。

背が高く骨ばった体型で、友達にはくん付けで呼ばれているけれど、中身は誰よりも乙女な沢渡くん。
恐らく還暦は過ぎているだろうけれど、作中で一番ロマンティックな服を着ている花子教頭。
つまり、ふたりとも「女の子」を切望しているキャラクターだったからです。

特に、普段は鬼の如く生徒たちを指導している花子教頭の秘めた切なさ。
恋と青春の時期を戦争に奪われた。
平和で豊かになった頃には、もう老いていた。
美しかった髪も、今では艶をなくして──
自分が失ったすべてを謳歌しているバブル時代の女子高生たちを見て、羨望とも嫉妬ともつかない複雑な思いを抱える花子教頭のことが、すっかり大人になった私にも人ごととは思えませんでした。
けれど、そんな教頭先生の胸の内など知らない、仮に知ったとて理解できないしする気もないであろう少女たち。残酷だけれど、人生の光のただなかにいる少女たちに暗がりの中が見えようはずもないのですよね。

実子(じつこ)と小田島先生のスキャンダル騒動のエピソードでは、そんな過去と夫(校長)への不満を募らせ、いつにも増して派手な服を着るようになる花子教頭。「きみは若い頃と服の趣味がずいぶん変わったようだ」と夫に言い放たれますが、最後は夫の深い愛に包まれ……。
大団円に見えるものの、花子教頭の寂しさは本当に解消できたのかな?と、ちょっぴり気がかりなエピソードでした(続編6巻に掲載されています)。

でも、別作品『カトレアな女たち』を読むと、ここで花子教頭の思いはすっかり昇華されているような気がします。年齢を重ねても堂々と好きな服を着倒し、自由奔放に生きる老女たちは、ある種女の子の理想の未来像でもあるでしょう。
夫の莫大な遺産使い放題、というファンタジックな条件がなくとも、このくらいのパワフルさで乙女ライフを全うしたいものです。

ともあれ、少女時代に少女漫画を読んでこなかったせいか、恋のときめきやキュンという感覚がいまだにわからず、恋愛ドラマやラブソングにもなかなか共感できない私。
もし青春を選べるなら、実子のように強くてけなげでいい女にもなってみたかったな、と密かに思うのでした。


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