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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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浦沢直樹「PLUTO」の感想とキャラ考察&シンギュラリティを考える

*この文章は「PLUTO」のネタバレ、その他エヴァンゲリオンや鬼滅の刃などのネタバレも少し含んでいますので、読まれる方は了承したうえでお読みください。


今週、ネトフリでの「PLUTO」のアニメ化が発表されました。

手塚治虫鉄腕アトム「地上最大のロボット」を基にした浦沢直樹の漫画が原作。

2、3巻までは読んでいたんだけど、そこから止まったままだったので、これを機会に復習&予習を兼ねて全8巻、一気に読みました。


あらすじと作品背景

人間とロボットが共存する時代。 世界最強といわれるロボットが次々と破壊される事件が起こる。 高性能刑事ロボット、ゲジヒトは犯人の標的が、自身を含めた7体の大量破壊兵器となり得るロボット達だと確信。 日本に渡り、限りなく人間に近い存在であるロボット、アトムと共に謎を追うことに。

舞台「PLUTO」STORY より

もっと詳しいあらすじ(というかほぼストーリー解説)、その他キャラクターの説明等を解説してくれているサイトはコチラ↓

上の解説・考察サイトをザーッと読みましたが、割とサラッと書かれているというか、「PLUTO」の作品内で語られてることに終始していて、その裏側にある部分の解説などは為されていないので、私的にはちょっと物足りなかった。

たとえば、トラキア合衆国ペルシア王国が、連載開始当時にあったアメリカ合衆国イラクイラク戦争を下地に描かれていることなど(これはwikiに書かれている)。

浦沢先生はビッグコミックオリジナル誌の連載においては、
「パイナップルARMY」ではベトナム戦争帰還兵の傭兵を主人公にし、「MASTERキートン」の頃はIRAやフォークランド紛争の話が出て来たり、「Monster」は東ドイツ、チェコを舞台に、冷戦中、冷戦後の犠牲者たちがカギになるミステリーと、連載当時、その時々の世界情勢、紛争などを取り入れた社会派ドラマ的な漫画を続けてきている。
(ビッグコミックスピリッツ誌の方はYAWARA、HAPPY、20世紀少年と、スポコン、エンターテインメント系でしょうか)

「PLUTO」も、ロボットマンガの形を取りつつも、その流れを継ぐ作品でもあるとも言えます。

連載に至る背景としては、単行本の手塚眞氏のあとがきに説明があります。

2003年4月7日
鉄腕アトムの誕生日。
それに向けて色々企画が上がる中、2002年冬に浦沢先生側から手塚眞さん(手塚先生の長男)に執筆の承認を求める話が行く。しかし眞氏は一旦断る。
しかし2003年3月28日、アトムの誕生日の直前に、再度の申し出により両者は直接会い、浦沢先生直々のプレゼンによって、「PLUTO」のプロジェクトが始動することになる。

2001年9月11日がアメリカ同時多発テロ
2003年3月20日にイラク戦争が始まり、アメリカ、イギリスがイラクへ侵攻開始。

まさしく同時多発テロからイラク戦争へ至る世界情勢にガッツリ重なる時期であり、フセインの「大量破壊兵器」が、「PLUTO」ではダリウス13世の「大量破壊ロボット」に置き換えられていくわけです。

最終的な巨悪の根源はトラキア側にいた…みたいなところも、
イラク戦争で大量破壊兵器は見つからず、結局のところ大義無き戦争はアメリカ側の覇権主義、石油利権や民主化による利権獲得、軍需産業の為、などなどの陰謀論、黒い噂と重ならなくもない。


キャラクターについて

各キャラの名前の由来を中心に考察していきます。
(私が一番言いたい所は「ボラー」についてのところです。そこだけでも見てチョ😉)

アトム

「PLUTO」2巻扉絵より

アトムは言わずと知れたアトミック=原子力から。
(実際はAtom=原子ですが、アトムは原子力エネルギーで動いている設定です)
ちなみに英名の「ASTRO BOY」のAstroは「宇宙」「天体」の意味。

鉄腕アトムの連載が1952年4月号 - 1968年3月号
「PLUTO」
の元である「地上最大のロボット」編が連載されたのは
1964年6月号~1965年1月号
まで「史上最大のロボットの巻」の題で掲載。

この連載時期と日本の原子力開発の歴史とを、ちょっと照らし合わせてみます。

*****興味ない方は飛ばして貰ってOK*****

日本による原子力発電のWikiによると
1945年 終戦。原爆を落とされたことで世界で最も原子力を意識せざる得ない国になる。しかしGHQにより原子力の開発は禁止される。 
1952年 サンフランシスコ講和条約 (アトム連載開始)
1953年 アイゼンハワーによる「原子力の平和利用」の国連演説後、日本による原子力研究再開。
1955年 「原子力基本法」成立
1956年 茨城県東海村に「日本原子力研究所」設立
1963年 初の原子力発電が行われる

原発が運用されるまでは、明るい未来のエネルギーとして割と好意的なイメージがあった原子力(原爆の被害国にもかかわらず)。そこにアトムのイメージを重ねるのは当時の世相の反映もあったんでしょう。

しかし、一方で反原発の気運も徐々に醸成されていく。
1954年 「第五福竜丸」がビキニの水爆実験で 被爆 
しかし、まだこの時点では原子力の軍事利用に反対する反核運動ぐらいで、平和利用である原発に対する反発はさほどでもなかった。

60年代に入り、原発建設問題などや労働運動、安保問題、いろいろな問題と絡み合い、徐々に反原発の気運も高まって行く。

1974年 原子力船むつの放射線漏れ 危機感高まる
1973年 石油ショックにより再び原発の有効性が認識され、原発推進が盛り返す。

その後の有名な原発事故
1979年3月28日 スリーマイル島原発事故
1986年4月26日 チェルノブイリ原発事故
2011年3月11日 東日本大震災 福島原発事故

アッ、原発の歴史が長くなってしまった(;^_^A。

**********

原発の平和利用への盛り上がりと衰退。
アトムの人気とその衰退。
私は当時を生きていないのでよくわかりませんが、少なからず符号していたような気もします。

「PLUTO」の連載が、アトムの誕生年である2003年から始まり、2009年に終わる。
そしてその2年後の2011年、東日本大震災、福島第一原発メルトダウンが起こり、日本において反原発の気運が過去最大に高まる。

鉄腕アトム連載当時の気運の波と同じような形を取ったことに、どこか運命的なものを感じなくもないです。

とにかく、平和利用と、人間に制御できないその暴走
原子力ロボット、両方にある光と影

その二つを結び付けて、ロボットにアトムと名付けた手塚治虫の凄さに驚くばかりです。


ウラン

「PLUTO」3巻扉絵より

アトムの妹。
しかしアトムが天馬博士製作に対して、ウランはお茶の水博士製作

ウランは原子力発電の燃料になる物質。ウランは惑星ウラヌスが由来。
更なる由来はギリシャ神話の天空神ウラヌス

ちなみにアトムの家族はウランをはじめ、
コバルト(弟)
エタノール(父親)
リン(母親)
チータン(ウランの弟)がいる。
全てアトムの後からアトムの為に作られた家族。


お茶の水博士

「PLUTO」6巻扉絵より

毎度おなじみ、お茶の水博士
私は最初、気が付かなかったんだけど、「PLUTO」のお茶の水博士は手塚治虫をモデルに描かれてると指摘してるサイトを読んで、なるほど!となりました。

原作のお茶の水博士は眼鏡かけてないけど、「PLUTO」のお茶の水博士は眼鏡かけてて、確かに手塚先生に似てます。


天馬博士

「PLUTO」4巻扉絵より

もうこれはエヴァンゲリオン碇ゲンドウをモデルにしてるだろうと皆さん言ってますよね。表情、サングラス、しぐさ、ソックリ!

天馬博士と碇ゲンドウの共通点…こちらのブログでも指摘されてる様に、
アトムは天馬博士に捨てられサーカスに売られる。
碇シンジも捨てられるとまでは言わないまでも、ほぼ放置状態見殺し状態は何度もある。ネグレクトする父親っていう共通点ですかね~(;^_^A。

天馬博士は自分の子供の代わりにアトムを作る。自分の欲望のために利用する。
碇ゲンドウも妻・碇ユイとの再会の為に息子シンジを利用する。
確かに似てる二人

で、ココで気になるのは、浦沢先生がエヴァからインスピレーションを受けたなら、エヴァの庵野秀明監督はゲンドウを作る時に天馬博士からのインスピレーションを受けていたのか?ということ。

それで庵野秀明 手塚治虫で検索掛けたら出て来ました。
庵野監督とはガイナックス時代に親交があったであろう岡田斗司夫氏!!

この動画の4:30ちょっと前ぐらいから、「火の鳥」におけるエヴァの匂いがある部分を紹介してくれてます。
火の鳥によって不死にされた男が、女性型ロボットを何体も何体も作って、失敗作が山積みになってる=綾波レイのクローンがいっぱいの場面…はこの辺から来てるのでは?と言っている。

庵野監督は1960年生まれなので、アトム連載時ど真ん中世代とは言い難いですが、同世代の岡田斗司夫氏が火の鳥なんかの影響を強烈に受けたと言っているし、庵野監督も手塚漫画に夢中になった時期があった可能性は高い。

で、どちらかというと庵野監督の師匠的存在である宮崎駿監督はどうだろうとググってみると、出てきたコチラのサイトが凄く面白かったです。

このサイトによると、宮崎駿監督こそがアトムど真ん中世代
手塚漫画の影響を多大に受けて、払拭するのに苦労したほどだと。

面白かったのは、やはりここでも手塚先生の負けず嫌いが発動し、手塚賞受賞にほぼ決まっていた漫画版「風の谷のナウシカ」が、手塚先生の言葉でひっくり返って無くなったんだとかwww

そしてこちらのサイトによると、
なんと手塚御大自ら庵野監督を褒め、彼の作品に自分のキャラを登場させてほしい旨を催促したエピソードが紹介されてます。
手塚先生にそう言われたら、後々の自分の作品エヴァに手塚キャラの影響のあるキャラを作っていても不思議ではないですよね。

というわけで確証は全く無いですが、
手塚治虫から宮崎駿、そして庵野秀明は地続きというか、殆どの漫画家は手塚治虫の子供、子孫みたいなものなので、もしかしたら浦沢先生はゲンドウのインスピレーションが天馬博士にあるという話を聞き齧っていたから、「PLUTO」天馬博士をわざと碇ゲンドウ似にしたという可能性もあるのかも?


アトム以外の世界最高水準のロボットたち

「PLUTO」1巻扉絵より

ゲジヒトはドイツ語で「顔・表情」ピクシブ辞典などに書かれています
これはなぜ顔・表情なんですかね?表情がグルグル変わってたのはゴジ博士っていうイメージですが…

それでいろいろ検索してたら、
「Gesicht」顔、表情 の意
一方、似た単語の
「Geschichte」歴史、物語 の意味(発音はゲヒトって聞こえました)

私は下の意味のゲシヒトのほうが、途中まで物語をけん引するストーリーテラーとしてのゲジヒトにはピッタリな気がするのですが…どうなんでしょう?

モンブランはお菓子の方じゃなくて、ヨーロッパ最高峰のモンブランからでしょうね。スイスの山案内ロボットという設定ですし、単純で明快なネーミング。

ノース2号のノースは何でしょう?手塚版では”スコットランドの北”にいる設定。イギリス、ヨーロッパの北の方にいるからノースNORTHなんでしょうか?
どうせスコットランドならキルト、キルト2号とかならわかりやすいですけどね。あのマントの下の殺人マシーンっぽい風貌。切る人KILL人でキルトみたいな?www

ブランドも結構謎な名前です。トルコのロボット力士
英語のBRANDの方はブランド、いわゆるブランド品やブランディングするとかの意味ですが、BLANDだと人当たりの良い、愛想の良いという意味があるようです。後者の方が「PLUTO」のブランドのキャラには合ってるでしょうか?
しかし、名前は手塚版から引き継がれてます。手塚版のブランドは海坊主みたいに海からニュッと出てきて戦って負けるだけで、愛想のいいキャラ感は皆無。どこから来た名前なのか…謎です。トルコ語なんでしょうか?

ヘラクレスはギリシャ神話の半神半人の英雄。
ギリシャ出身ロボットとして、剣闘士っぽいパンクラチオンスーツで戦う。
手塚版も剣闘士っぽい風貌。しかしギリシャ、ローマ時代の剣闘士というよりも、どちらかというと中世の甲冑の騎士ぽく見えます。

エプシロンはギリシャ文字の五番目。アルファベットでいったらEに当たる文字。電磁気学の誘導率や熱光学の放射率の単位であったりするようなので、その辺りから光子エネルギーを武器、原動力にするロボットになったのでしょうか。

こうやって見てみると、ギリシャ語ギリシャ神話由来の名前が多い気がします。
ゲジヒトの妻のヘレナもギリシア語のヘレネーがラテン語化したもの。元来はスパルタで信仰された樹木崇拝に関わる女神だった


プルートゥ


「PLUTO」
において、世界最高水準の7体のロボットを次々破壊していく最恐ロボット。

由来は、ウランの核爆発で作られる物質プルトニウムから。
プルトニウムは冥王星プルートーから。
さらなる由来はローマ神話の冥界の神プルートー
(ちなみにギリシャ神話ではハーデス

ハーデスは二叉の槍バイデントを持った姿で描かれるそうなので、
プル―トゥの二本の角はそこから来ているのだと思われます(私的考察)。
(ハーデスの弟のポセイドンは三叉槍トライデントを持っている)

プルートゥの別人格というか元ロボ格のサハド
サハドはアラブ語、イスラム語でPrinceの意味なんだそう。
実際はアブラ―博士が親ではあるけど、そもそもダリウス14世の依頼で作られたのなら、ペルシア王国のPrince=王子というのも納得かも。


ボラー


ボラーが何なのか、最後まで読んでもよくわかりませんでした。
いや、作品内の元々は緑化ロボットから転用されて大量破壊(殺人)ロボットへと転用された経緯とかは理解できてはいます。

ただ、プルートゥなどは名前の由来は大体わかりましたけど、
ボラーって何?どこ由来?ってのが最後まで意味不明。

それで英語で書いたら…Bolarかな?
Bolarで調べてみると、BoleClayに関連するもの…らしい。
Boleとは膠灰(こうかい)粘土。膠灰とはセメントのことらしいです。
Clayもまたですよね。

この訳でピン💡と来ました。

「PLUTO」のボラーは大きな赤ちゃんみたいな姿でしたが、
手塚版の本来のボラーはゴーレムのような姿、つまり土人形的な姿だったんです。
よってボラーとはそこから名付けられた名前だと考察します。

「PLUTO」でのボラーがあんまりゴーレム感が無かったので、ちっともわかりませんでした。まあ砂嵐に紛れて移動したり、「土」「砂」には関連してはいたんですけどね。

で、じゃあ、なぜ浦沢先生が「PLUTO」のボラーをあんな姿にしたのか?

私は大きな赤ん坊に見えました。
「ホギャア ホギャア」とも泣いていますし。
(「ボラーッ」って威嚇するところは、千と千尋のにも似てるからやっぱり赤ん坊(* ´艸`))

大きな赤ん坊みたいな敵で思い出すのは、
最近だと鬼滅の刃のラスボス、鬼舞辻無惨の最終形態ですが(余計なネタバレ、スイマセン(;^_^A)、
鬼滅の無惨もパクリって言われたりしてるらしい元ネタ、それは…

AKIRAです。

AKIRAのクライマックスで鉄雄が巨大な肉塊の赤ん坊のような姿になる。
(記憶が曖昧なのでちょっと違っていたらすいません(;^_^A)。

AKIRAでまたまたピ~ン💡と来ました。

その昔、手塚漫画の隆盛の後、漫画界にやってきたのは劇画漫画の波。
その中でAKIRAの作者の大友克洋は、その頂点とも言われる緻密な描写で新しい時代が来たと言われるほどの漫画家でした。

漫画の神様・手塚治虫はそんな劇画の人気に嫉妬したとも言われています。
それで劇画への挑戦として、画風も劇画風に寄せ、描かれたのが、
確かブラックジャックだったと記憶しています。

そういえば…手塚治虫が大友克洋にケンカ売ったというか、
何かそういうエピあったはず…とググってみると、

永らく漫画界の都市伝説だと思われていた、手塚治虫が大友克洋に初めて会った時に「僕は君の絵なら描ける。僕が唯一描けないのは諸星大二郎の絵だけだ」って言ったというエピソードは「BSマンガ夜話」で江口寿史先生が「本当の話だよ。俺、大友さんに聞いたもん」という証言で事実認定されました。

出典はコチラのサイト

浦沢直樹は勿論、手塚漫画の大ファンであるでしょう。「PLUTO」を描くぐらいですし。作風的にも手塚漫画の系譜、継承者と言われることもありますし。実際「MONSTER」と「PLUTO」で手塚賞獲ってます(まあ、これは作風あんま関係ないですけど)。

なので手塚治虫の弟子的存在の彼が、心の師匠・手塚治虫の最大のヒット作アトムをリメイクし、その中の最大の敵を大友克洋の代表作AKIRAから引用することで、師匠に代わって作品内でリベンジをする的な形を取る…という中々凝った造りだったと考察できるのではないかと。

またはもっと直接的に、あの世=冥府手塚治虫=マンガの神様 ということで、冥府にいる(漫画の)神様=冥府の神プルートー=ロボットのプルートゥ、つまり手塚治虫の化身としてのプルートゥに大友克洋の化身ボラーをやっつけさせるという図とも考えられなくもないw。

超負けず嫌いだったと言われる手塚先生へのオマージュは、作品のリメイクだけではなく、その悔しんだ想いまで昇華させようとしたのかもしれません。

実際、浦沢先生のスタイルって、手塚漫画ほどディフォルメされた絵柄でもなく、大友漫画ほど精緻な絵柄でもなく、ちょうど両者のバランスとったようなスタイルな気がします。両者のいいとこどり、ハイブリットに進化した形の漫画家が「PLUTO」を描いたことが意義ある、浦沢直樹なりの先達への恩返しだったのかなと。


ブラウ1589


人類を初めて殺したロボット、ブラウ1589です。

ピクシブ辞典によると、
鉄腕アトムの別エピソードに出てくる青騎士/ブルー・ボンという殺人を犯したロボットから作られたキャラだそうです。

ブラウとはドイツ語で
そして1589はフランスのブルボン朝が始まった年なんだとか。

青騎士は槍を持ち、馬に乗るロボット。
ブラウ1589が槍に串刺しにされてたのはそこから。
そして青騎士の骨格は蛇腹の様に伸び縮みする設定。
ブラウの方も腕の蛇腹部分など、その設定がそのまま踏襲されている。

左:「鉄腕アトム 青騎士の巻」より / 右「PLUTO」第1巻より
腕の形状や肋骨状のパーツが同じです

ところで、「青騎士」で検索を掛けた時に最初に出てきたのは、
カンディンスキーなどの画家がミュンヘン辺りを起点として集まった表現主義的画家たちの集まりの名称、および創刊した年刊誌の名前なんだそう。
それまでの伝統的な絵画から、印象派や抽象絵画へと画期的に絵画の世界が変革していった時期。

アトムの物語内での青騎士も、人間の世界からの独立を唱え、ロボタニアというロボットだけの国を作ろうとする。

新しい世界を創造するという共通点から、手塚先生が名付けたのかもしれませんね。


アレキサンダー大統領とダリウス14世

「アレキサンダー」って姓ではなくて名前のはずなので、最初ちょっと違和感ありました。

で、アレキサンダーで思い浮かぶ人物を探してみると、
やはりアレキサンダー大王が真っ先に浮かびました。

ここまでギリシャ神話やギリシャ語由来の名前が多いことから、
アレキサンダー大統領は古代マケドニアの王アレクサンドロス3世=アレキサンダー大王由来だと想定できます。

古代マケドニアは古代ギリシャ人が作った国であり、古代ギリシャという大きな国の一地方という感じ(マケドニアは今もギリシャの上辺りにある)。

アレキサンダー大王は、そこから東、中東~インド北部あたりまで征服していきます。そこで立ちはだかったのがペルシャ帝国(今のトルコあたりから中東、インド北部、エジプトまで広がる大帝国。そして、その時のペルシャの王がダレイオス3世

ダレイオス3世と、「PLUTO」に出てくるダリウス14世…似てますよね。
(ダレイオスは「よきものを保持する者」の意。これもダリウスが大量破壊ロボット=悪しきものを持ってると見せかけて、緑化ロボット=よきものを持っていたという部分と掛かっていて興味深いです)

ポンペイ遺跡のモザイク画「イッソスの戦い」
左端の人物がアレキサンダー大王、画面中央左の一番目立つ人物がダレイオス3世

アレキサンダー大王の覇権主義に巻き込まれて滅亡させられたペルシャ帝国
アレキサンダー大統領の覇権主義の策略で滅亡させられたペルシア王国

過去の中東情勢と現代の中東情勢を見事に重ねて物語が作られたのがよくわかります。
それにしても中東はいつの時代も攻められているんですねぇ…。


Dr. ルーズベルト

「PLUTO」第2巻より

ハイ、悪の総本山、Dr.ルーズベルトですw
トラキア合衆国が誇る超大容量の人工知能

ぬいぐるみ型の端末がテディベアなのは、テディベアがアメリカ第26代大統領セオドア・ルーズベルト逸話から名付けられて人気が出たことに由来するので、そこはわかりやすいですよね。

そしてセオドア・ルーズベルトのwikiを見ていて気になったのが、
インディアン民族に対する絶滅政策を支持していた」という項目。

インディアンに対する虐殺と土地の略奪について、
”それは回避不能だったし、最終的には有益なことでした”
”これほどまでに、まさしく正当で、有益な行いが、フロンティアで起こったのです”

民族浄化、ジェノサイドを肯定していた人物でもあるようです。

この点を「PLUTO」Dr.ルーズベルトと比べると、
Dr.ルーズベルトもまた、人類の大半が絶滅することを計画し、自分達ロボットがその正当な後継者として世界を支配することを企んでいました。この符号もなかなか興味深いところです。

「PLUTO」が連載始まる数年前の2001年、
スピルバーグの映画「A.I.」テディベア型のロボットが出てきます。案外この辺りからのインスピレーションもあったのかもしれませんよね。

そしてもう一点、
ルーズベルトはもう一人、フランクリン・ルーズベルト大統領もいます。
セオドア大統領は遠縁の従兄。 

彼は、第二次世界大戦の終戦少し前まで大統領をしていた人物であり(任期中に病死)、
原子力研究、原子爆弾の開発計画であるマンハッタン計画を推進した人物。

原爆投下は彼の後のトルーマン大統領の時ですが、その開発には彼の力が大きく関わっていたわけです。

この原子力=アトムとのつながりも想定して、二人のルーズベルト大統領からDr.ルーズベルトが命名されたのなら、本当に意味深なネーミングなのだと思わざるを得ません。


シンギュラリティ

「PLUTO」において、Dr.ルーズベルトのロボットによる世界征服というグランドスキームを垣間見たことで、私の頭に浮かんだのは最近耳にするようになった「シンギュラリティ」という言葉です。

シンギュラリティ(Singularity)は英語で「特異点」の意味。 「人工知能(AI)」が人類の知能を超える転換点(技術的特異点)、または、それにより人間の生活に大きな変化が起こるという概念のこと。

2045年頃に到達すると言われています。

「鉄腕アトム」や「PLUTO」の世界は、シンギュラリティを越えた世界だと思います。

「PLUTO」連載当時や、映画「A.I.」、古くは「ターミネーター」「ブレイドランナー」の頃から、人工知能が人類を越える話はずっと語られてきました。

当時の私は、そこまで現実味をもっては中々考えることが出来ず、まだまだSFの世界という感じでした。

しかしここ最近のA.I.の進化は目覚ましく、
A.I.によるイラスト自動生成アプリや、SiriやAlexaというA.I.アシスタントはこちらの質問に答えてくれたり音楽を流してくれたりする。

ここ最近のニュースだと、さらに進化したChatGPTでしょうか。

ChatGPTは単に知りたいことを教えてくれるだけではなく、質問に応じていくつかの選択肢を示したり、課題や懸念を伝えたり、よりよい状態に向けてのアドバイスをしてくれたりもします。

上記リンクサイトより

これらのA.I.の進化を目の当たりにしていると、2045年のシンギュラリティはいよいよ現実味を持ってきました。
何より発達した知識、技術を使って、どんどん加速度的に進化していくらしいので、あと20数年でも十分あり得そうです。

で、ここで怖くなるのが、人類を超越したA.I.の暴走ですよね。「PLUTO」のDr.ルーズベルトのような。

私は、いくら人類が予防線を張ろうとも、こればっかりは結局逃れられない現実になるような気がします。人間の頭脳の何倍も高性能の頭脳相手に勝てるわけない。

以前の記事で人類の未来に想いを馳せましたが、
人類というか、生物の進化の次なる到達点は、何も有機体である必要性は無いのではないでしょうか?
地球から発生した「何か」が別の惑星なり、別の星系に進出するのが流れ、神の意志なら、人類という存在を踏み台にして登場した人工知能搭載のロボットで良い気がします。
神はロボットを誕生させるために、アメーバーから人類までの進化をさせてきた…ということもあり得るわけです。

発達した文明における人口減少や、生殖能力の低下も問題になって来ているのも考えると、ロボットによらなくても、ロボットを誕生させたという役目を終えた人類は、最終的に繁殖できなくなり、絶滅していく運命なのかもしれません。

まあ人類を絶滅させるかどうかはわかりません。ロボットにも人類否定派と擁護派に分かれて、2大勢力の戦争とか起ったりするかも?

宇宙進出するには、歳を取らないロボットの方が寿命のある人類より現実的だし、過酷な環境にも適応できる。

人類が残った場合は、ロボットとの融合が進み、アバターのようにロボットが宇宙に行き、その元の人間は地球で動かして惑星開発する…なんて感じになりそうですよね。
メタバースの技術も高まってますし、それと似たような感じ。

健康医療も発展するので寿命も延びるだろうし、寿命が足らなかったら、世代を繋いで一つのアバターロボを操って遠くの星に行くとかもありそうです。

シンギュラリティを境にして、人類の未来は大きく変わりそうなのは間違いない。

それにしても原子力ロボットという、人類の脅威二つを引っ付けた「鉄腕アトム」という作品の奥深さ。私が幼少期に感じたのは、カッコカワイイだけじゃないアトムの悲しさと空恐ろしさ。その根源はこの辺りにあるんだろうと、今回「PLUTO」が炙り出してくれたように思います。

手塚治虫が医学を学び、戦争を体験したことで「命」について、その根源を見つめ続けた…そしてその自由な想像力で「命」についての数々の物語を紡ぎ出した。

生物としての「命」とはまた違う、ロボットとしての「命」を持つ存在は、未来で手塚治虫のことをどう評価するのか?
私が知ることはないですが、少し興味がありますねw。


追記:人類、そして人類を踏み台にしたロボットが宇宙に行くことを考えていた時に、松本零士先生が亡くなられたニュースが…

宇宙戦艦ヤマト、銀河鉄道999、沢山の夢を見せて貰いました。
謹んでお悔やみ申し上げます。
悲しい。けど、ありがとうございました。


感想

「PLUTO」ヨカッタです。
私的☆評価だと☆8/10ぐらいでしょうか?

自分的に良かった点は、まず…
浦沢漫画の見やすくて明快な絵。

最近の漫画だと鬼滅とか呪術廻戦なんかだと、戦闘シーンとか何がどうなってるのかチンプンカンプン。ものすごく想像力働かせて努力しないと、いや努力してもよくわからない時が結構ある(個人の問題かもしれませんが(;^_^A)。

その点、浦沢漫画はそれはまずない。絵で表現する。絵で人に伝える。この基本がしっかりしている安定の大御所。
やはり自分の世界感を絵で表現でき、絵で説得力持たせる漫画家は私的には評価が高いです。最近はその辺りがないがしろにされてる漫画が多い&評価されてる気がするのは私だけなんでしょうかね?

演出、展開とテンポの良さ。

これもスゴイ重要。
あまりに、それ重要?ってところで長々とされても読む方の集中力も切れてくるし、そこから醒めていく。
物語に惹き付け続ける展開力とテンポの良さは重要です。
「PLUTO」はこの辺りも上手く出来ていたと思います。

ただクライマックスの辺りは、もうちょっとじっくり書いてくれても良かった気もする。すこし駆け足、拙速感は無きにしも非ず。
アレ、浦沢先生の興味がもう別のに物に移っていて、早く終わらせたかったような感じにも思えなくもない😅。

でも単行本化することも考えると、あと一冊分も延ばせないし…ページ数問題もありますから、難しいところですよね。その辺の計算もしないといけない漫画家さんって大変!

話の長さ。

全8巻。ちょうどいいくらいの長さですよね。
「MONSTER」とかも好きでしたけど、やはり20巻とかになってくると、え~コレはなんだっけ?とか、え~コレ誰だっけ?とか、記憶力がク○な私なんかは付いていくのが大変だったりするんですよね(;^_^A。

長いと読み直すのも大変だし。
10巻前後ぐらいでまとめてくださるのは非常に読みやすくてありがたいw
「地上最大のロボット」を下敷きにしているとはいえ、そこは作家の匙加減次第でもっと深堀りして、なが~い物語にも出来たわけですから、そういう意味でもちょうど良かった。
まあ浦沢先生自身、いままで長~い連載が多くて、毎度しんどくなってたから今回こそは短くまとめるぞ!って思ってたのかもしれないけどwww

私にとってのマイナスポイントは…おっさんキャラが多すぎ!
ってことだったですかねwww

アトム&ウランとエプシロン以外、ほぼおっさんしか出て来ないでしょ?この作品。

サハドなんて、何であんなパッとしないオッサンキャラにしたんだろう?
エプシロンは金髪ロン毛イケメンキャラなんだから、それと対象になるような浅黒く漆黒のカールした髪のエキゾチック中東系イケメンキャラとかでも良かった気がする。悪い側にいるけど悲しい運命を背負ったイケメンなんて、みんな大好きなキャラじゃないですか?
いっそのこと、極端に少なかった女性キャラにしてみたりとかでも良かったかもしれない。

おじさんが花咲かせてもいいんだけど、やっぱり美青年or美女が花咲かせる方が絵になるっていうか、それはもう様式美じゃない?エッ、それはルッキズム?う~ん、でもなぁ…😅
花咲か爺さんならず花咲かおじさん、という日本の伝統に寄せたってことでしょうか?www

そして浦沢先生のおっさんの描き分け、私的には時々迷子になる。
みんな顔の中身はほぼ一緒。大きな鼻に小さい吊り気味の寄り目。
なので、場面転換して顔のアップから始まったりすると、誰だっけ、これ?ってなる。

それと、どのおっさんもどこか悪そうに見えるんですよね~。
お茶の水博士さえも何か腹に持ってそうに見えましたw
まあそれがミステリー度を高めて、だれが悪者?と混乱させるのに役立ってもいるけど(;^ω^)。

あと「PLUTO」の感想とか読んでいて、いくつか見かけたのは、

「浦沢直樹は風呂敷広げるのは上手くて最初はワクワクするけど、まとめるのがイマイチ…」的なことを書かれていて、そういう評価もあるんだ~と初めて知りました。

確かに、YAWARAとか20世紀少年とか、序盤の盛り上がりと人気に比べて、終盤、最後の終わり方とかは殆ど記憶に残ってない(;^_^A。

でも「Masterキートン」は、大まかな流れは有りつつも一話完結タイプだから気にならなかったし、「MONSTER」は好きでしたけどね。
でも言われてみれば最後の方は「PLUTO」同様、引っ張ったわりにアッサリ終わった気はします。

先述もしたけど、「PLUTO」もやはり最後のアブラ―/ゴジ博士の下りはセリフ読んでてもイマイチわかりづらかった(ゴジの人格は結局どの部分だったのか?)。ボラーも中東からどうやってトラキアの地下に移動したのか?どういうロボットなのかもよくわからないままで強引に終わらせた感は無きにしも非ず。

まあ難しいですよね。ページ数の問題もありますし、皆が納得するラストは中々…。でもそこが漫画家の評価を大きく左右する部分でもあるだろうし。
まあ今後、そういう世間の評価にナニクソ!と奮起して、誰もが感動する凄いラストの漫画を描いてくれることもあるかもしれない。私的にはゆる~く期待しながら見守らせて頂こうと思います。

でもNHKでやってる「漫勉」は良い番組ですよね。
漫画家の凄さを目の当たりにできるし、漫画家がどのように作品を作り上げていくのかというドキュメンタリーは毎回見応えある。安彦先生の回とか凄かったです。
漫画の歴史の記録映像としてもすごく貴重だと思うし。ライブラリーとして漫画記念図書館かなんかに収蔵すべき。


以上、長々と書いてきましたが、アニメの「PLUTO」も非常に楽しみです。

絵のクオリティが凄く高そう。声優さんの声が加わることで、おっさんだらけも区別しやすくなるだろうしwww

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