雨の星空
【呑屋日記5/22】
雨の合間にふらりあらわれた文筆家のFさん。
「紹興酒を三杯ほどのんできたのですが、それにつづくお酒をなにか。」
「わかりました」と迷わず少し離れた冷蔵ショーケースに向かい、オロロソを取り出し切子のグラスに注ぐ。
マホガニー色した美酒。ほのかな酸味と胡桃感のある熟成シェリー。
繋ぎに最適。キレと深みがあるから食後酒かつ仕切り直しにもなる。
Fさんはキュッと一口、
「あゝうまいっ」と倍音ヴォイスが漏れタンッとグラスを置いた。
ここまでの情景は粋な酒場の凛とした空気感。
ところが頻伽ではそうはならない。
粋な酒場は呑客と大将が少ない会話のなかで行間を読み合ったり、間をとりあい、気で場を慈しむ。
ところがビンガではお酒を美味しそうにのむお客様を見ると、店主が嬉しくなりあれこれとどめなく喋りだしてしまう。
なぜこの酒にしたのか、なぜ常温でなく冷やしてあったのか、紹興酒とサンルーカルの地酒の共通項、もつ焼きではチレにあわせると最高だとか、ペラペラペラペラ一万語。
幸いFさんは好きなものを楽しそうに語るマニアな人間を面白がってくれるかたなのでいつも甘えさせてもらっている。
「つぎの酒を。ゆだねます。」
腕がなる。どちら側にいこうか迷ったが最近マルティニークに寄りがちだったので、新しい体験の方向へお連れしよう。
カガミクリスタルの酒器に古代製法のスモーキーなメスカルを。
「おぉ、これはおいしい!」とすかさずもうひとくち。
「おいしいなあ」
「でっしょー!これはね、私も最近はまったんだけどピニャってのをさ、あーしてこーしてペラペラペラペラ…」
今度はFさんの番。
あがた森魚の2001年のアルバム『佐藤敬子先生はザンコクな人ですけど』をかけながら、無類の音楽好きFさんのアルバム解説がはじまる。
タイミングよく酒と音楽好き仲間のOちゃん登場。
向かいのまつさんでおいしいものと日本酒を堪能してからビンガへのドアtoドアなので傘がなくても濡れてない。
三人でFさんのストーリーのある曲解説に笑ったり頷き合ったりしながらビンガにこだまするすばらしい歌詞とメロディ。
今度はOちゃんの番。
Fさんへのアンサーソングは工藤裕次郎のアルバム『団地の恐竜』
Fさんはいたく気に入り「このかたは詩人ですね。」とじっくり聴いておられた。
世代をこえた三人の共通の好きな曲は「プカプカ」それぞれ歌い手は違えど名曲は受け継がれてゆく。
雨なのに星空がかがやくような夜でした。
FさんOちゃんありがとう。