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mRNAワクチン最前線を日本語で解説。

Rubinの科学者としての一面が、でた。この記事を書こうと思った理由は、Natureで発表されたmRNAワクチンに関する最新情報を日本の皆さんにも伝えることで、少しでも貢献したいと思ったからである。科学に詳しくない人でもわかるように、かみ砕いて説明していく。わからないところは、コメントやDMください、必要に応じて情報付け足します。(元の記事:https://www.nature.com/articles/s41573-021-00283-5.pdf)

※書いてあるままのニュアンスをできるだけ変えずに伝えたいので、普段のThinkerとしてのRubinのテイストとは異なる。

1)記事を理解するための前提知識1

始めに、これだけは押さえておかなければ、この先読んでもわからないだろう前提知識をイメージでつかんでもらう。(注1)

①ゲノム:タンパク質の設計図を保管している図書館。細胞の奥深くで厳重に守られている。

②mRNA:設計図を書き写して図書館(ゲノム)から持ち出したノート。ノートは鉛筆がこすれて読めなくなるのと同じように、mRNAにも生きていられる時間に限りがある。

③タンパク質:ノート(mRNA)を見ながら作った機械。これが何かしら働きを持っている(ワクチンの場合、)

図書館からノートに写した情報を持ち出して、機械を作る。これが体の中でゲノムからタンパク質をつくることだと捉えればここでは十分。

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2)前提知識2(免疫)

ゲノム(図書館)というのは、ヒトだけが持っているものではない。ウイルスにもゲノムが存在し、人の図書館とは違う種類の本を収容している。ウイルスのゲノム解析とは、そのウイルスの図書館に陳列されている本の題名と場所をすべて把握した状況と同じだと考えて良い。

そのウイルスのゲノムからつくられた、ウイルスのタンパク質をヒトの細胞にさらしたとき、細胞はそれらを排除する方法を備えている。

④免疫細胞:体に異物が入ってきたときに、それらを処理する軍隊のようなもの。
ー異物のかけらを見て情報解析する部隊(ヘルパーT細胞)
ーその情報を受け取り異物に目印をつける部隊(B細胞)、
ー目印のついた異物を食べる進撃の巨人部隊(マクロファージなど)、
などたくさんの種類の細胞が存在する。

⑤免疫記憶:異物の情報を後世に伝えるべく、生き残った軍人(メモリーT細胞、メモリーB細胞)が次の異物の襲来に備えておくこと。

④により、短期的にウイルスを殺すことと、⑤により、次に同じウイルスが入ってきたときにより早く殺すことができる。これが免疫獲得のメカニズムである。

3)mRNAワクチンとは?

お待たせしました、mRNAワクチンとは何か。簡単に言うと、ウイルスの一部の特徴を持つ異物の設計図(mRNA)を体に投入し、その設計図にのっとって作られた異物に対して免疫記憶を作るという概念だ。

mRNAに含まれているウイルスの一部の情報というのは、COVID-19の場合、ウイルスの表面に存在しているスパイクタンパク質だ。これは、COVID-19ウイルスが来ている服みたいなものだと考えればよい。免疫系は、この服(ウイルスの一部)を感知して服を着た異物全体(ウイルスの全体)を処理するように働くとされている。

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4)mRNAワクチンの発展

実はこのmRNAワクチン、ここまで聞いたら、化学や生物に精通した人なら簡単に思いついて作ることができそうに聞こえるかもしれない。しかし意外にも、COVID-19ワクチン(BNT162b2)が、この世で最初に人間への緊急的使用を許可されたものなのである。

2019年12月8日 中国当局が存在を認めた最初の感染者の確認
2020年12月11日 Pfizer-BioNTechのワクチンがFDAにより緊急使用承認(最初のmRNAワクチンのヒトへの使用)
2020年12月18日 ModernaのワクチンがFDAにより追加で緊急使用承認
2021年6月18日 までに、臨床試験に入っていたmRNAワクチンは19個。
(mRNAワクチン以外のワクチンも含めれば、185のワクチン候補が開発され、102個が臨床試験に入っていた)

COVIDワクチンが開発される前までは、mRNAワクチンという技術の臨床での使用までは、少なくとも後5-6年はかかるといわれていた。COVID-19以外の感染症対抗策として、2019年末までに3段階ある臨床実験のうち、3段階目に突入していたものは一つもなかった。こう考えると、SARS-COVID-2に対するワクチンの発展がいかに迅速かわかる。

引用元の論文は、ジカウイルス、HIVウイルス、RSウイルス、エボラウイルス、Rabiesウイルス、Plasumodiumなどに対するmRNAワクチンの発展についても述べているので、興味ある方は読んでみてください。

4)COVIDワクチンの現状課題・未解明部分

課題や未解明部分はしばしば強調されがちだが、すべてがわかっている薬なんて存在しないので、医療薬学分野において課題があるのは普通のこと。この論文では全体を通して4つの課題と2つの未解明問題を取り上げている。

課題①ワクチンの保存条件

問題の提示
保存条件や保存期間が容易ではない。
例1:Pfizer-BioNTechのワクチン(BNT162b2):-60℃
例2:Modernaのワクチン(mRNA-1273):4-8℃で1か月
これらは、まだこの環境を用意するのは難しい多くの国や地域があるので、より保存のきくワクチンの開発は課題だといえる。
解決方法
高温でも保存できるワクチン候補の研究:例えば、CureVacのワクチン候補が5℃で3か月、室温で24時間保存可能だとわかり、現在臨床試験中である(引用1)。他にも引用2など。

課題②副作用(アナフィラキシー)の軽減

問題の提示
Pfizer-BioNTechのワクチン:4.7人(100万人当たり)
Modernaのワクチン:2.5人(100万人当たり)
これらは、ほかの認可済みワクチンに比べ2倍から4倍。
現状の解決方針
1)原因の解明:実はワクチンには、mRNAのほかに、それを保護するカプセルとしての役割があるPEG脂肪というものが含まれている(これも体にとっては異物)。PEG脂肪は今までも使われてきた技術で安全だとされてきたが、一部の人にはリスクがありうると考えられている。
2)アレルギー反応のある患者には投与を避ける。

課題③変異ウイルスの出現とその対応

現状と問題
同定されている変異株(B.1.351とP.1)はワクチンの来ている服(スパイクタンパク質)に違いがあることがわかっている。
1)現状認証されているPfizer-BioNTech、Modernaの両ワクチンは、幸運にも、どちらに対しても抗体を作り出すことができるとされている。
2)しかしその効果は元の株に対する効果と比べて低い。
解決方針
1)Modernaは3回目の摂取のためのワクチンとして、既存の服と変異した服を着たウイルスの両方に対応するワクチン候補を評価している。
2)各社、異なる特徴をターゲットを見つけようと研究が進んでいる。

未解明①ワクチンの効果持続期間

現状
1)Pfizer-BioNTechのワクチンは、2回の摂取で12週間はB細胞が活発に働くとされている。(これは季節性インフルエンザワクチンよりは優れている。)
2)Moderna製のワクチンは2回接種後6か月は抗体反応を引き起こすことができることがわかっている。その後はわずかに抗体反応は低下するが、依然として高いウイルス対策能力が全ての年齢層に対して確かめられている。
方針
これらはmRNAワクチンから作り出されるたんぱく質(抗原と呼ばれる)の種類によりさまざま。ワクチン接種は世界中でまだ始まったばかりで、長期的な観察のもとデータを集めてよりさらなる向上を目指す。

未解明②妊娠中の母体へのワクチン投与による胎児への影響(ここでは特にSARS-CoV-2ワクチンについて)

現状
子宮内感染による胎児や新生児への深刻な悪影響はほとんど報告されていないが、まだまだ調査が必要だ。

課題④ワクチンに対する人々の不信感

現状
ワクチンを受け入れる人は各自治体や会社報告によると55-90%。
解釈
1)これは過去のほかのワクチンと比べて、高い。(アメリカでは、臨床試験の非常に良い結果が効果を示したのではないかとみられている。)
2)集団免疫を獲得するのに必要な80-90%にはまだ不十分。
解決に向けて
これらは政府や公衆衛生の動きに頼むところが大きいが、科学者としてはより安全で効果の高いワクチン開発に尽力することで彼らの人々の説得を助ける。

5)まとめ

以上、科学者はmRNAワクチンは進展を目指して取り組んでいる。mRNAワクチンは人類史上、始まったばかりにもかかわらず、初めて開発された2つのSARS-COVID-2ワクチンは、今までのワクチンとは比べ物にならない速さで人々を守ってきた。まだ課題はあるが、原因解明と解決に向けて、今も研究者は必死に汗を流している。

6)Rubinが思うところ

人には様々な考えがあって、それぞれ尊い意見で尊重したいと常に思っている。私は他の考え方に出会った時にそれを本当に真剣に考えて、妥当性を判断するよう努めていると同時に、ほかの皆さんにもそうあってもらいたいと思っている。

「科学は完璧ではない。副作用や個人差などにみられるように、思い通り働かない場合も存在する。が、それも含めてデータを整理された科学は、ほかのよくわからない証拠よりはマシだ。」と私は思っている。

研究者は自分の研究が評価されると嬉しいから、当然前向きな解釈を提示することはある。ただし、偽装がない限り、データはうそをつかない。
真実を追求したい・人を救いたい・大発見をして名誉と地位を得たい、様々な思いで研究に携わる研究者。人々の全力の報告に目を向けることもなく、「根拠ないでしょ?」というのだけはやめてほしい。あとは個人的な希望だけど、科学の発展を応援してほしい。


研究者Rubinより♪

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注1:この記事に必要な免疫系のみ示しており、実際にはもっと多様な機構が存在する。

引用1:Kremsner, P. et al. Phase 1 assessment of the safety and immunogenicity of an mRNA- lipid nanoparticle vaccine candidate against SARS-CoV-2 in human volunteers. medRxiv https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.11.09.20228551v1 (2020)
引用2:Zhang, N. N. et al. A thermostable mRNA vaccine against COVID-19. Cell 182, 1271–1283.e16 (2020)

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