[011]「コード化点字ブロック」体験@ 錦糸町パルコ
2024年11月1日より、東京・錦糸町駅前にある楽天地錦糸町ビル(錦糸町パルコ)1階で、コード化点字ブロックの実証実験が始まりました。商業施設での実証実験は今回が初とのことで、およそ3ヶ月間、手持ちのスマートフォンを用いて誰でも体験することができます。早速私も、サイトワールドの帰りに立ち寄ってみました。なお現地ではNPO 日本インクルーシブ・クリエーターズ協会の方にレクチャーしていただきました。
コード化点字ブロックは、金沢工業大学・松井くにお研究室とW&Mシステムズ合同会社の共同研究により改発されている、点字ブロックを活用した情報提供システムです。
凸点に黒いリング状のマーカーを貼り付けた点字ブロック(警告ブロック)を、スマートフォンのカメラでスキャンすると、マーカーの組み合わせに応じて情報が取得され、音声で読み上げられます。またリング状のマーカーとは別に、直角三角形のマーカーも敷設されており、これによりユーザーがどの方角を向いているのか(4方向)を判断します。
1枚の警告ブロックあたり、約3,000万種類、さらに4方向あわせ1億3,421万7,728通りのパターンがあるとのこと。現在、金沢近辺に約200か所、首都圏では、川崎市視覚障害者情報文化センターや日本点字図書館入り口など、およそ150か所へ設置されています。
実際に体験するにあたり、まずはiPhoneへ「Walk & Mobile」アプリをインストールしておきます(Android版はこちら)。あとはコード化点字ブロックが設置されている場所でアプリを起動し、警告ブロックを背面カメラでスキャンすれば良いわけです。音声でアナウンスされるため、気になる場合は骨伝導イヤホンなどを利用すると良いでしょう。私は右手に白杖を持ち、左手に持つスマートフォンは点字ブロックをキャッチしやすいよう、やや低い位置、かつ垂直から前方へ傾けたポジションで構えました。もちろん警告ブロックに気付いてからスマホを向ける方法もありますが、スキャンしながらの方がスムーズに歩けるような気がします。
この状態で点字ブロックを辿りつつ歩いていると、警告ブロックの数歩手前でアラームが鳴り、それに続いて合成音声によるアナウンスが流れます。私が試した範囲ではレスポンスは非常にクイックで通り過ぎてしまうようなこともありませんでした。アナウンスの内容は、その場所からどちらの方向にどのような施設やお店があるのか?など、その場に応じて自由に設定できるようで、歩行する際に注意するポイントなども教えてくれます。もちろん同じブロックでも、向いている方向により内容が変わることも確認できました。
なるほど、これはわかりやすい。なれない場所でどこに何があるのかわからないような状況では大きな助けになるでしょう。また警告ブロックへ到達する直前にアナウンスされることで、分岐点の見逃しが軽減されるというメリットもありそうです。今回体験した範囲では確実かつ高速にマーカーを認識するという基本性能は安定しているように感じました。あとはプッシュする情報の内容次第で使い勝手は変わってくるような気がします。
さて、点字ブロックを活用したシステムとしては、どうしても「shikAI(シカイ)」が思い浮かびます。こちらもコード化点字ブロックと同様、スマートフォンアプリで警告ブロック(こちらはマーカーではなくQRコード)をスキャンし情報を取得するシステム。現在、東京メトロの数駅で実用化されており、実際に利用することが可能です。
両者を比較すると、使い方やレスポンスなど共通するところもありますが、大きな違いはその用途にあるように思います。shikAIがまず目的地を指定し、あとはひたすらユーザーを導くのに対し、コード化点字ブロックはその場その場で情報を提供します。つまりナビゲーションかインフォメーションかの違いと言えるかもしれません。
もちろんメンテナンスやデータ処理など内部的には違う部分があるとは思いますし、shikaiで情報提供したり、コード化点字ブロックで道案内することも可能であるかもしれないのですが、現在の私の印象として結構、棲み分けできるのではと感じています。
個人的な意見として、余程致命的なコンフリクトがないのであれば、複数の技術が混在しても良いのではと思うのです。結局のところスキャンするアプリが統一されれば良いわけですし、どんどん競い合って世界をマーカーで満たしていただきたいところです。
一方私の浅薄な経験なりに、ぼんやりと思いついた範囲ではあるのですが、これらの点字ブロックを用いるシステムには大きく分けて2つの課題があるように感じています。
まず、これらのシステムが点字ブロックの敷設を前提としているため、どうしても設置できる範囲が限られてしまう。これは金沢工業大学の報告書(PDF)でも指摘されていますが、敷地の管轄による調整が非常に難しく、そのため歩道の点字ブロックがお店の入り口まで繋がっていないなどの状態になってしまうわけです。これはなかなか解決に時間を要する問題であり、点字ブロックから入り口までは別のソリューション(画像認識やnavilensのようなマーカーの活用など)と組み合わせるなどの対策が必要かもしれません。
もうひとつが、これはコード化点字ブロックに限らず他の視覚支援アプリ全体に言えることではあるのですが、スマートフォンを用いることでどうしても両手が塞がってしまう。コード化点字ブロックの開発段階では一時白杖に取り付けるカメラが用いられていたようですが、使い勝手が悪く結局スマートフォンに落ち着いた経緯があるようです。とはいえ片手に白杖、もう片手にスマートフォンというスタイルはどうしても不自由に感じてしまう。将来、スマートグラスなどのハンズフリーデバイスが実用化されてくれば、このようなシステムの利便性は格段に向上するのではないかと思います。それまではスマホを前傾させて固定できるケースなどがあれば良いかもしれません。
金沢工業大学はコード化点字ブロックを、多言語対応などを通じ視覚障害者だけでなく、より幅広いユーザーへ広めることを目指しているようです。視覚障害者に限らず、あらゆる人が点字ブロックを意識することでその重要性が周知され、利便性が知られれば敷設の加速にも繋がる可能性もあります。機会があればぜひ体験してみてください。shikAIと使い比べてみるのも面白いかもしれません。
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