[013] BentoMuseum:日本科学未来館を指先で探索する重箱型触地図
視覚障害者が初めての場所を訪れる際、その場所の空間的情報を得る方法として最も一般的なのが、触地図=凹凸化された地図です。誰もが駅構内や商業施設の入り口などで一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。しかしこれらの触地図の品質は、実のところ結構バラバラで、音声案内がついたものもあれば、現在地すら判別が難しいものもあります。目が見える同行者がいれば、触れているポイントを言葉で説明してもらうことで理解を進めることができるのですが、これらの触地図を単独かつ即座に理解できるようになるためにはかなりの訓練が必要です。直感的で単独でも理解できる触地図は、視覚障害者の自立的な外出を実現するためにも長年にわたり求められていると言えます。
「BentoMuseum: 3D and Layered Interactive Museum Map for Blind Visitors」は、東京都江東区にある日本科学未来館による、3次元建築モデルを用いて視覚障害者へフロア構造を伝えることを目指した研究論文です。
「BentoMuseum」と名付けられたユニークな立体地図は、重箱のようにフロアごとのマップを積み重ねる仕組みを持ち、複雑な日本科学未来館の構造を指先で立体的に理解しやすいよう様々な工夫が施されています。これに加え、分解したフロアマップをIpad Proのタッチパネル上に乗せ、ダブルタップによる音声解説再生機能を実現しているという点も、大きな特徴と言えます。
一般的に屋内構造を視覚障害者へ伝える手段として、先に述べた触地図が広く採用されており、また建築物の外観を伝える方法としてはブロンズなどで製作された触知模型が知られています。BentoMuseumはこれらを融合させ、さらに音声フィードバックを加えることで、視覚障害者がより直感的かつ誰の助けもなしに空間情報を取得できることを目指しているようです。
実は私も一度だけ、このマップのプロトタイプに触れたことがあります。2022年のことでしたが、この論文を読むとさらにアップグレードされていることがわかります。また、重箱構造を持つ建築モデルとしては、他にも東京高田馬場の日本点字図書館でも触れたことがあり、こちらは音声フィードバックこそ持たないものの、触察しやすいよう、実際よりも構造をシンプルにしたり小さいスペースを拡大するといった工夫が見られました。
これらの3次元地図に触れてみると、平面的な触地図と比べ明らかに理解度が高いわけなのですが、おそらくメンテナンス的な問題もあるのでしょう、なかなか一般に公開されることが少なく残念なところです。
視覚障害者に対し、空間情報を効率的に伝達する上では、各個人の空間認知能力や触察スキルなどの影響も少なくなく、その場所の構造や目的、訪問頻度などによっても大きく異なってきます。なかなか難しいところですが、人的サポートを含め、より効果的なソリューションが求められてくるのではないでしょうか。
私個人としては、身体運動の体験をリアルタイムに反映できるため、説明を受けつつ、持ち歩きできる触地図を利用するというスタイルが好みなのですが、BentoMuseumのような技術は建築物全体を立体的に把握でき、全体像を一括でイメージするのに適しているように思います。これだけあれば良いというものはないわけで、個人のニーズと特性にあった複数のソリューションが用意されていることが理想でしょう。
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