[017] セブン銀行ATMの新しい音声取引を試してみる

2024年10月より、セブン銀行ATMの音声取引サービスが拡充され、これまでのキャッシュカードによる残高照会、現金の引出/預入に加えて、Suicaなどデンシマネーの現金によるチャージと残額確認が可能になりました。先日開催されたサイトワールドでは、セブン銀行のブースで体験会が実施されていましたが、あまりの大盛況ぶりに、なかなか試すことができなかったほどで、視覚障害者からの注目度の高さが伺えます。
私もセブン銀行ATMは月イチくらいの頻度で利用しているのですが、先日ようやくこの新機能を体験する機会を得ました。現金を引き出し、Pasmoへチャージという一連の流れを試してみたのですが、結論からいいますと、初見でほとんど迷うことなくミッションを達成することができました。
使ってみてまず最初に気がついたのは、音声アナウンスの自然さ。セブン銀行ATMではカードを挿入すると、まず音声でその金融機関名を読み上げるのですが、これまではかなりたどたどしかった音声(これはこれで愛嬌がある)が、自然なものへ改善されています。それ以外でも全体的に品質が向上している印象です。個人的に情報が伝われば音声の品質は気にならないのですが、聞きやすいに越したことはありません。
続いて電子マネーのチャージ。ハンドセットを上げ、テンキーの「3」をプッシュし、音声ガイダンスに従い取引を進めていきます。
ICカードは読み取り台に置くタイプ。ハンドセットの真上に平らなスペースがあ理、そちらにICカードを置くよう指示されるのですが、このスペース、手触り的な手がかりが少ないため、初回はやや戸惑いました。チャージ金額は駅の券売機のように選択肢から選ぶのではなく、直接テンキーから千円単位で指定します。チャージが正常に完了すると、アラームが鳴り取引完了、チャージ後の残高もしっかりアナウンスされます。
ATMの操作に慣れていたとはいえ、新しい機能を一髪で完了できたというこの事実の裏側には、相当のUIデザイン(ハードとソフト両面)の練り込みがあったようです。参考:開発者インタビュー前編後編
これまで数種類のATMの音声取引を利用した経験があるのですが、一見機能的に同じようでも、細かい部分で操作感覚が異なります。セブンATMはその中でも、細かい部分での配慮(例えば金額を入力する際、プッシュした数字をその都度アナウンスするなど)が行き届いており、全体として高いホスピタリティを感じます。またATM本体各パーツの丸みを帯びたデザインは、手探りで操作する全盲者にも優しい設計と言えるでしょう。
ただセブンATMがアクセシビリティの面で一歩抜けた存在であることは間違いありませんが、まだまだやるべきことは少なくないように思います。音声で使える機能は残高照会、現金の引出と預入、そして電子マネーのチャージですが、私は知っているのです。セブンATMには、QR決済やマイナンバーカード関連などもっと数多くの便利な機能があるということを。
中途失明者として、見えなくなるまでの長い期間、なんの不便も感じずにATMを利用してきた経験からすると、なぜ振り込みもクレカの取引も音声で利用できないのか。もちろんこれにはさまざまな要因はあるのだろうと思うのですが、特に合理的な理由がない限り、金融や医療などのプライベートなサービスに関しては、Webやアプリを含め全ての機能を出来る限り優先してアクセシブルにすべきでは、というのが私の考えです。これを実現するためにはハードウェアの改良も求められてくるわけで、将来登場するであろう、次世代モデルでは障害のある、なしにかかわらず、できる限り同じ機能へアクセスできるよう設計していただきたいところです。ただそれ以前にキャッシュレスが進む昨今、いつまでATMそのものが存在し得るのか、という問題もありそうですが……。
もう一点、セブン銀行で気になったのが手数料情報のアクセシビリティについて。公式Webでは金融機関ごとに利用できるサービスや手数料を検索することができるのですが、(執筆時点で)肝心の情報が全てイメージで表示され、的確な代替テキストも付けられていません。もちろん利用する金融機関のWebやアプリ(アクセシブルであるという前提ですが)で手数料を確認する手段は残されていますが、せっかく視覚障害者に向けたサービスをアピールしているのに、このような障壁を見つけてしまうと盛り上がった気分が少しだけ、しょんぼりしてしまいます。細かい部分ではありますが、信頼性をえるためには、アクセシビリティに対する一貫した企業姿勢こそが重要では、と私は思うのです。
あれこれ好き勝手なことを書きましたが、セルフレジから券売機まで、現在巷には無数のデジタル端末が設置され、その数は日々増殖を続けています。ですが視覚障害者が単独で操作することを念頭にデザインされたものはほんの一部に過ぎません。そのような状況で、これだけ考え抜かれた端末が登場したという事実は素直に評価すべきことと思います。とにかくまず、病院にあるマイナカードリーダーはセブンATMを見習うべきでしょう。この流れが業界全体へ広がることが早急に望まれるところです。
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