[過去記事特集まとめ] ベトナム戦争の公式的記憶問題
以前に「ベトナムの外交方針を表す一文とは?」の記事で「Khép lại quá khú, hướng tới tương lai=過去にフタをして未来へ向かおう」という方針について解説しました。
では、なぜベトナムはこの方針を採用しているのでしょうか。その理由の一つは、「戦争の歴史を持つ多くの国々との関係性にもかかわらず、現在はそれらの国からの経済援助が必要であり、経済発展が国民の統合に至る最良の手段となるから」です。
二つ目の理由は、「南ベトナム政権側の人々や、その政権に強制的に徴兵された人々、または政治的立場を明確に示さなかった人々などが現在でもベトナム中南部に住んでおり、過去を掘り起こすと彼らの不満が増大し、反共産党政権の動きが出現する可能性があるから」です。
そして、これら二つの理由に基づいて、ベトナム政府の戦争記憶に対する根本的な概念が存在します。それは、戦争の「公式的記憶」です。今回はベトナムに根強く残るこの問題について考察した過去記事をまとめました。
ベトナム戦争の公式的記憶とは
今井昭夫『歴史の力か、歴史の重荷か―ベトナムにおける『戦争の記憶』の構図』では、ベトナムの戦争の 「公式的記憶」について以下のように述べています。
また、伊藤正子『戦争記憶の政治学―韓国軍によるベトナム人戦時虐殺問題と和解への道―』でも、ベトナムの「公式的記憶」 を以下のように定義しています。
つまり 「公式的記憶」とは、「正義の守護者ベトナム VS 悪の侵略者アメリカ」という二項対立を簡略化した、ベトナムが主役でアメリカが悪役の勧善懲悪の戦争記憶のことを指します。
この「公式的記憶」は国家、つまりベトナム共産党によって定義され、絶対的な位置を占めています。ベトナムにおける戦争記憶は、この「公式的記憶」を基盤に形成・展開してきました。
公式的記憶の表れ方
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