【疎開日記2021】#15 無気力からの脱却
7月5日(月) 疎開生活35日目
日記を書かぬまま一週間経ってしまった。
ネタはいろいろあるのに、書く気にならなかった。
気がついたら7月、疎開生活も1ヶ月を過ぎた。初めは1ヶ月くらいだろうと予想して来ていたので、サイゴンから持ってきた物が底をつき始めている。クイックルワイパーのシートも、コンソメも、こちらでは買えそうにない。
何もない生活の中でも楽しい事を考えるのは得意な方なので、あの手この手で娘を笑わせる努力をしてきたのだが、だんだん楽しめなくなってきた自分がいる。
知的好奇心が刺激されない単調な日々。
どっぷりはまって抜け出せないほど楽しい本が読みたい。貪り読みたい。寝る間も惜しんで読みたい。活字中毒の末期症状。
このまま書いていると、どんどん落ち込みそうなので、気持ちを切り替えて最近の小ネタをまとめてみる。
スイカ味ポッキー。食指動かず。
こちらもスイカ味。もちろん買わなかった。
赤鉛筆が短くなってきて宿題の丸付けがしにくいので探しに行くも、どこにも売っていない。鉛筆自体も少ないベトナム。小学生は鉛筆というルールがないので、みんなボールペンを使う。間違えても消せないボールペン、さぞかしノートは汚いことだろうと小学生男子のノートが心配になる。
赤鉛筆はないので、色鉛筆のセットを買うか、ボールペンにしろと言われる。仕方がないので、ボールペン購入。しばらくはこれで我慢するしかない。
ベトナムでは正式な書類には青ボールペンでの記入が求められるので、赤いのの他に青いのも買っておいた。一本30円くらい。
リビングの電気が切れた。
ちょうど娘がオンライン授業を受けているダイニングテーブルの上なので、暗いと困ると思い、管理人さんにすぐに交換をお願いした。
が、管理人さんがエンジニアを連れて来たら、つくようになった。そして、帰った後にまた切れる。
何というか…ドリフっぽい感じ?
母ちゃん!母ちゃん!と呼ぶと居なくなる幽霊みたいな。
他の電気が切れたら、また呼ぼうと待っていると、タイミングよく隣が切れた。
で、呼んだらまたついた、の繰り返し。てんどんは3回までにしてほしい。
後で切れた隣の電気は変えてもらったけれど、最初に切れた幽霊電気はそのままついたり消えたりを繰り返している。
切れたら「シムラー、うしろー!」とでも言って楽しむ他ない。
そう言えば、「シェフは名探偵」というドラマで、ちょいちょい出てくる志村ネタが嬉しい。ニヤニヤしながら見ている。
電気工事の後は、いつも剥がした天井のかけらや、切ったコードの残骸が散らばる。ベトナムあるある。
山を登るたびにオブジェに名前をつけよう活動は順調に続いている。娘はこの活動に乗り気で、先週は3回登った。
最初のこの子、名前は「ぷんぷり」、怒っている感満載。
次につけたのは隣のこの子「ふえっぺ」、口笛を吹いているからだそう。
目が大きいから「めくりん」、クリンとしたおめめが可愛いらしい。
何か目的があると山登りも楽しい。小一時間かかるコースを汗だくになって歩くと、帰って来た後ものすごく足がだるいが、達成感があって満足している。
持って来た服が洗濯のダメージで毛玉だらけになったので、こっちにいる間はダメになってもいい安い服で過ごそうと決めた。スーパーで娘のワンピースと自分用のパンツを買うことにした。
無地のシンプルな物でいいのに、実はそういう物を探すのが一番難しい。
ファンシーなイラストがプリントされた物で溢れている洋服売り場で、妥協に妥協を重ねてなんとか見つけた。これらにパーカーを合わせれば、外国人だとは思われまい。ブンタウにいる間に着古してしまおう。
他にもいろいろあったけれど、まぁ、こんな感じの一週間だった。
先週、ホーチミンは市内一斉にPCR検査が始まった。スクーリングの結果、毎日数百人もの感染者が見つかっている。大都市で住人を一斉に検査するって、やる方も大変だろうに。本当にすごいと思う。
封鎖箇所はどんどん増え、スーパーに行くにも入場制限、市場に入るにも整理券が必要だとか。まだデリバリーが使えるからいいものの、引きこもっている人達のストレスは大変なものだろうと思う。
初めは「ブンタウ疎開なんて可哀想に」と同情してくれていた友人から「ブンタウ疎開して良かったね」と言われるこの頃。言いたい気もわかるが、言われるたびに複雑な気分になる。
確かに感染する可能性はホーチミンの方が高い。けれど、それでも住み慣れた我が家で暮らしたい。使い慣れた調理器具、お気に入りの食器類、安心して眠れるベッド、それらが何もないブンタウで心休まらない生活をしている。
通い慣れたスーパーで、買い慣れた食材を買って、いつもと同じ食事を用意したい。いつものバスルームでゆっくりシャワーを浴びたいし、トイレにも落ち着いて入りたい。
そういう当たり前の生活ができていないストレスは、楽しそうな日記を書いているとなかなか伝わらないのだろう。KPPは治ったものの、ずっとあちこちが痒い。吹出物パラダイス&便秘三昧。
引きこもりストレス、感染の恐怖にさらされているホーチミンにいるのと、一体どちらの方が良かったのか。
考えても仕方がない。ブンタウで良かったと思おう。そう言い聞かせていたのに、先週ついにブンタウ方面も怪しいことになって来た。隣のバリアブンタウ省で感染者が出て、地域の封鎖が始まったのだ。感染者はホーチミンの市場に出入りしていた人らしい。
夫の職場にも自宅待機の人が出た。工場で感染者が一人でも出たら、その工場は封鎖。稼働中に陽性という検査結果が出れば、従業員はそのまま帰れなくなる。
万が一のことも考えて、着替えとタオルを持って出勤したほうがいい。そう、備えあれば憂いなし。準備していれば、最悪の結果は回避できるような気がする。
「ちゃんと準備してるじゃん、つまんないの」って神様がいたずらするのをやめるかもしれない。
ブンタウまで来て、マンションが封鎖されたりしたら、それこそやっていけないな…そんなことを考えていたら、不安で歯軋りがひどくなった。眉間の皺が一層深く刻まれた。
結果、工場封鎖は免れたが、まだまだ油断できない状況。
笑いの力でストレスを発散しようと「イケメンタル」のビデオを繰り返して見てみた。山田孝之さん、ありがとう。これであと少し頑張れそうです。
変な遊びを考えて、娘と一日一回は大笑いできるようにしている。
変な植物を考えるゲームや、架空の動物を想像してオスとメスの違いを言うゲーム、どちらも大喜利っぽくて頭を使う。他には肩甲骨を動かす体操をしながら、変なポーズで止めて一言言うゲーム。もう訳がわからない。
けれど、何でもいいのだ。娘が笑ってくれさえすれば、それでいい。
次は『ぼのぼの』に出てくる「かいぽぽ遊び」でもしようか。
そんなこんなで、無気力と向き合う日々。
このままではいけない、何か目的を見つけて外に出ようと、昨日はソース探しの旅に出た。日系の輸入品ばかりを扱う店へ向かったが、お望みのウスターソースも中濃ソースもなかった。
意地になって、もう一件はしごする。見つけたのは、小さなたこ焼きソースだったが、それでもいい。我が家の三人は無性にコロッケが食べたいのだ。300円もする小さなたこ焼きソースを買って、少しだけやる気が出て来た。
今週は絶対にコロッケを作ろう。食べたいものがあるうちは大丈夫。
そう、きっと大丈夫。
夏休みが終わる頃にはサイゴンに戻れるはずだ。希望は捨てない。
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