ホーチミンメトロの開業遅延3/6|ホーチミンメトロ1号線の現状と課題
ホーチミンメトロ1号線は、約43兆7000億ドンの事業総額のうち80%を日本の円借款で賄いながら、開業が大幅に遅れています。
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事業総額と資金調達
ホーチミンメトロ1号線の事業総額は約43兆7000億ドン(約2727億円)です。約80%が日本の国際協力機構(JICA)による円借款です。2007年に208億8700万円、2012年に443億200万円、2016年に901億7500万円の円借款が供与され、2014年に着工されました。
工事と車両の進捗状況
三井住友建設と現地建設企業、清水建設と前田建設、住友商事と現地建設企業のコンソーシアムが受注。車両は、2020年10月に1編成目が到着し、2022年5月までに全17本が搬入済みで、車両の搬入は、車両基地の工事を待って行われました。
2022年12月には最初の試運転が実施されましたが、これは営業運転を想定した試運転ではなく、メーカーによる入線試験でした。実際の運行には必要な設備が整っておらず、運行管理センター(OCC)は2023年3月に引き渡されたばかりです。
円借款と開業予定
2023年12月には、同プロジェクトに対して4回目の円借款として412億2370万円が供与されました。この借款は、事業完了までの資金需要に対応するもので、進捗に応じた追加借款が行われたことを示しています。開業予定時期から5年も遅れて新たな借款があることに驚かされます。
ホーチミン市人民委員会鉄道局(MAUR)は、2023年8月に車両の地下区間への入線が完了し、2024年7月の開業を公表していました。しかし、最後の借款供与から半年後に開業するのは現実的ではないと考えられます。
ベトナムの鉄道プロジェクト遅延の背景と影響
開業遅延の現状
ホーチミンメトロ1号線の開業が遅れている原因として、運行に必要な乗務員の訓練や試運転が進んでいないことが挙げられます。今年5月下旬の時点でも、乗務員のハンドル訓練や実際のダイヤに基づく試運転は実施されておらず、メーカーによる走行試験のみが行われている状況です。試運転は1日1〜2往復程度で、十分な運行テストが行われていないのが現状です。
インフラとシステムの進捗
地下駅では「HITACHI」のジャケットを着た作業員が見られ、システム調整が行われています。インフラの進捗率は公称で90%とされていますが、システムの統合が未完成であることが分かります。日立製作所は一刻も早くホーチミン市人民委員会鉄道局(MAUR)に引き渡したい意向を持っていますが、ベトナム側の事情により引き渡しが遅れています。これにより、開業予定時期から最大6年遅れており、日立側は人件費や維持・管理費、インフレによるコスト増分を負担しています。そのため、賠償請求が行われています。
過去の遅延プロジェクトとの類似性
ベトナムには、2011年に着工し、2015年に開業予定だったハノイメトロ2A号線の事例があります。このプロジェクトも開業が6年遅れ、2021年にようやく開業しました。ハノイメトロ2A号線は、中国のODAで建設され、2018年にはインフラ部分がほぼ完成していましたが、行政手続きや許認可の遅れが原因で開業が遅れました。
ホーチミンメトロ1号線の状況は、ハノイメトロ2A号線とほぼ同じです。具体的な遅延原因は以下の通りです。
土地収用と立ち退き補償の遅れ、土地価格の高騰
ベトナムでは強制収用が行われておらず、民有地を避けて建設されているものの、地下区間での土地収用に時間がかかりました。また、計画当初と比較して土地価格が急騰し、コストが30兆ドン(約1872億円)以上増加しました。
手続きの遅れによるプロジェクトの停滞と未払いの発生
- 行政手続きや許認可の遅れがプロジェクトの進行を妨げています。プロジェクトの遅れによる運営会社の資金枯渇
- プロジェクトの遅延により、運営会社の資金が不足しています。第三者機関によるシステム・安全性評価認証の問題
- システムや安全性の評価認証が遅れており、開業の準備が整っていません。
まとめ
ベトナムの鉄道プロジェクトにおける開業遅延は、土地収用や手続きの遅れ、資金不足、システム認証の問題など、複数の要因が絡み合っています。ホーチミンメトロ1号線の開業も、これらの課題によって影響を受けており、開業時期の見通しが立たない状況が続いています。これらの問題は、今後のプロジェクトにも影響を与える可能性があるため、関係者は早急な解決に努める必要があります。
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