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Vによるテロ

 敦賀市役所の防災センターは、表向き、消防と連携して有事の市民対応を標榜している。無論、嘘だ。重要防護施設の最上級である原子力発電所。敦賀市は「原発銀座」と呼ばれる。この田舎町が「アジアの火薬庫」であることに、中国と韓国、そして「北」は気付いている。しかし日本人で、気付いている者は? 自衛隊の「別班」、ZERO以外の者達は、何も考えていない。

「仕方ないわ。先の大戦で、士官学校を首席で卒業しただけのお坊ちゃんに、日本は宗教を奪われたのだから」

 日本にとって神道は、脊髄だ。天正の時代、海の向こうの奴等が初めて仕掛けてきた。対して、豊臣は直ちにバテレンを追放し、二十六聖人処刑で国を守った。

「でもやっぱり、戦は負けちゃダメよね。勝つ必要は無いけど、負けないように振る舞わないと」

 フミは鼻歌を歌いながら、五つのスクリーンを見た。市役所内でも隔離された防災センターは、職員が他部署と直接、顔を合わせる必要がない。お陰で、フミは防災センターのスタッフ全員を裁断したが、VRスーツ搭載の機能で、電話は変声で対応し、モニターは変装することなく、顔面をスタッフに変えてみせた。

「同志諸君、将軍へ忠誠!」

 モニターに映る工作員五人に、フミは真顔で、そして滑稽な行動で言ってみる。

「「「「「将軍へ忠誠!」」」」」

 返事を聞き、フミは笑顔を浮かべた。内心は、ヘドが出る。北にいる将軍も工作員達も、さっさと皆殺しにしたい。だが、その時期ではない。「作戦名・アンナ」のために、今は忠誠心を見せねばならない。

「松澤同志。天然痘でいいのではないか? 飛沫感染し、一人に感染させるだけでよい。すでに偉大なる祖国は、天然痘の兵器化に成功している。凍結乾燥させれば、片手で持ち運べるが?」

 フミはウンザリしたが、顔に出さなかった。「北の奴等は軍部も諜報も科学も、根から腐っている」。

「同志、天然痘のワクチンは存在している」

「しかし、松澤同志。ワクチンを打った日本人など、皆無ではないのか?」

「同志。天然痘はロシア、フランス、そしてアメリカが保持している。在日米軍の伝手で、自衛隊と一部の警察官、消防、海上保安庁の隊員達は接種済みだ」

「しかし、松澤同志。天然痘の潜伏期間は最短でも、九日ある。我々が散布してなお、戦略的撤退は可能だ」

 フミはウンザリ顔を隠すのに、苦労した。口では将軍への忠誠を誓うが、最後に可愛いのは常に、我が身だ。

「同志。警視庁はすでに、判別キットを実用段階にした。感染の有無は容易に判断され、治療や隔離で、防がれて終わりだ」

 一人の工作員が黙ると、もう一人の工作員がキャンキャンと喚き出した。

「松澤同志、炭疽菌でいいのではないか?」

「先と同じ理由で、通用しない」

 どうしてバカどもは、すでに使用済みのバイオテロに拘るのか? フミは頭痛がしたが、愚かな工作員どもの相手をすることにした。

「松澤同志、ボツリヌス菌毒素でいいのではないか?」

「先と同じ理由で、通用しない」

 「どいつもこいつも、WHOやCDCが対応可能な案ばかり言ってきやがる!」。怒鳴りつけたいのを堪え、フミはお喋りに付き合う。工作員どもが愚かでもいい。どのみち、皆殺しだ。今この時、そのタイミングでは無いというだけ。

「同志諸君!」

 フミは声を張り上げた。全く、ヘドが出る。海を渡っても、北の臭いは消えない。その悪臭は世界を覆い、鼻を腐らせる。

「Vしかない! そのため、同志諸君はカルト教団を捏造したはずだ!」

 フミは声を張りながら、滑稽でならなかった。Vによるテロを起きたとき、日本人はきっと、捏造したカルトの所業だと思い込む。山梨で実験した際、日本警察は無関係の男を身柄拘束したではないか!

「Vによるテロでしか、将軍様は満足されない! ヒトラーですら使用を躊躇したバイオを、我々が用いるのだ! これ以上の名誉は無し!」

 四人の工作員達は目に涙を浮かべながら、口々にフミを称え、拍手している。だが、眼鏡をかけた一人だけは、冷静だった。

「しかし、松澤同志。大宮の化学防護隊は、すでにVへの備えを終えている」

 一秒前までフミを称えていた工作員達が、サッと静まり返る。朝鮮民族の、これが本質だ。事の真実を見る目がなく、ただ感情だけで動く。猿の方が、まだ利口だ。

「化学防護隊は世界一優秀な部隊だが、しょせんは自衛隊。敗戦後に押し付けられた負け犬ルールで手枷足枷をはめられ、日本国民どもは唾棄している。さらに、今の総理大臣は中国の傀儡だ。化学防護隊とて、迅速な出動など不可能」

 さらに、静まり返る。耳が痛いほどの静寂。それは歓喜と狂気。その熱量は、朝鮮人から感情を奪うほどだ。

 そして事態は、フミの言ったとおりになる。その前に震災が発生するのだが、VRスーツで地層を把握していたフミにとって、それは想定内だった。

「同志よ! 将軍様のために!」

「「「「「将軍様のために!」」」」」

 日本において、サリンテロが勃発することが決まった瞬間だった。

 フミは、自衛隊を侮っていない。彼等が衆愚政治を無視して動き出せば、世界制覇も可能だ。そこで「作戦名・アンナ」のため、二重三重の作戦を用意した。「作戦名・福井麻生」と「片側破壊」だ。けれど今のところ、両作戦を実施する必要は無さそうだ。

 フミはシャットダウンして、後に皆殺しにする工作員達の顔を消し、一人、クスリと笑った。

 フミは知らず、気付いていない。想像以上の早さと精密さで、ZEROが文革とリンクしたマヤで、自分を追っていることに。

そして日本には「本間雅晴」がいることに。

本間はフミと同じく、福井にいる。

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