J2第42節 水戸ホーリーホック戦 レビュー
前節の結果で昇格が絶たれ、伊藤監督の退任も決まり悲しい一週間を過ごすこととなった。
伊藤ヴァンフォーレの集大成、監督を勝って送り出したい一戦となる。
1.スタメン
甲府
前節から2人の変更。
関口と宮崎に代えて須貝と中村を先発に起用した。
水戸
前節から2人の変更。
山根と藤尾に代えて奥田と安藤を起用した。
2.集大成
立ち上がりは共に敵陣の深くにシンプルにボールを入れていくこととなる。
最初のシュートは甲府。
2分に長谷川がカットインからシュートを放つが、牲川がパンチングで防ぐ。
6分にはボールをカットした新井がドリブルで40m近く運ぶことで水戸を押し込む等、甲府が勢いを持って試合に入る。
一方の水戸は2トップをターゲットにシンプルに前線に運ぶことを狙う。
積極的に2トップが背後へのランニングを繰り返すのに合わせ、DFラインからロングボールを使い、甲府の背後を狙っていく。
安藤が背後を狙い、中山がポストプレーを狙う形で2トップの役割を変え2列目の選手は近い距離でサポートして前線に厚みをもたらし、セカンドボールの回収を狙う。
だが、甲府は新井やメンデスがロングボールを跳ね返していき、ボランチがセカンドボールを回収することでペースを掴む。
7分には水戸に最初のシュート。
混戦から中山がボールを持ち出すと左足から強烈なミドルシュートを放つが、河田が防ぐ。
今節の甲府は可変をせず、ボールを動かしていくのに対して水戸は前線から積極的にプレスを掛けていく。
水戸のプレッシングは2トップ+ボールサイドとは反対サイドのSHで甲府の3バックに対し、同数で嵌め込む形でボールにアプローチを掛けていく。
だが、松崎のプレスの強度や立ち位置が甘くメンデスが持ち運ぶことで前進することが可能となる。
15分には水戸の442のブロックに対し、立ち位置でズレを作り素早いテンポのパスワークからサイドを変えるとメンデスが持ち運び、須貝のクロスに荒木が合わせる決定機を作る。
ピッチを広く使い、前進し崩しての決定機。
伊藤監督が積み上げてきたものが垣間見える場面を作る。
直後にまたも甲府に決定機。
スローインのリスタートからいち早く動き出したリラが背後を取ると対応した三國を交わし、クロスを入れる。
長谷川がコントロールからシュートを放つが、 牲川がセーブする。
このプレーで得たCKで水戸は中里が負傷し、交代を余儀なくされる。
21分には木村が投入される。
水戸のプレスに対し、甲府は回避し始めチャンスを作る時間帯となったが凌いだ水戸が徐々に流れを掴んでいく。
立ち上がりとは違い、水戸はビルドアップから攻め手を探れるようになる。
水戸の2CBに対し、甲府はリラがプレスを掛けていくが数的不利となっておりボールを動かす水戸に対し、甲府は野津田を前線に出す形で同数で嵌めにいき対策を講じる。
野津田が出てくると水戸はシンプルに前線へロングボールを送ることに切り替え、セカンドボールを回収しての攻撃へ狙いを変えていく。
30分には甲府が水戸のプレスを回避し、チャンスを作る。
甲府のビルドアップに対し、水戸はプレスを掛けていくが河田から須貝へロングパスを通すことでプレスを回避する。
須貝からパスを受けた長谷川がボールを運び、荒木を使うとカットインからクロス。
リラが合わせるが枠を外れてしまう。
相手を引き付けてプレスを掛けてきた背後からの前進。
これも伊藤監督が積み上げてきたものである。
ここから再び甲府がボールを握り、水戸のプレス回避やブロック内への侵入を試みていく。
だが、決定的なチャンスは作れずスコアレスで前半を終える。
得点は取れなかったが、伊藤ヴァンフォーレの集大成にふさわしい攻撃的なスタイルを示した45分となった。
3.花火大会
ハーフタイムに水戸は安藤に代え、伊藤を投入し後半に入る。
するとその伊藤がいきなり結果を残す。
一度ボールを奪うもすぐに奪い返され、松崎のパスに新里が抜け出してクロスを入れると伊藤が合わせ水戸が先制に成功する。
試合後の新里涼選手のコメントより。
前半と比べパワーを高めた水戸が幸先良く先制に成功する。
静かな前半から一転、ここから撃ち合いの幕開けとなる。
先制された甲府だが、49分にはリラがチャンスを作る。
荒木から斜めのパスが中村に入り、エリア内のリラを使うと反転から左足を振り抜くも惜しくも枠を外れてしまう。
逆足の選手をサイドに配置することのメリットはゴール方向に向かってパスやクロスが入ることにある。
荒木は前半にも内巻きのクロスからリラのヘディングシュートに繋げている。
右サイドに起用する意図が伺える場面であった。
すると54分に甲府が同点に追いつく。
左サイドでのパス交換から山田がリラへ縦パスを通す。
リラがタメを作り、ラストパスを送ると背後へ抜け出した山田が冷静にゴールに流し込む。
試合後の山田陸選手のコメントより。
共にボール付近の圧力は高く、前半同様球際が激しい展開となるが水戸は前線で中山が起点となることで時間を作る一方で、甲府はリラが単独では収めきれないことが多く甲府は水戸のようにシンプルに前線に預ける形が作れない。
そのため、得点シーンのようにリラの近くに関わっていけるかが重要となっていた。
59分に甲府は須貝に代えて関口を投入する。
これにより関口が右に入り、荒木が左に移ることとなる。
直後に甲府はミスから痛い失点を与えてしまう。
スローインの流れから大崎のパスに伊藤が抜け出す。
メンデスが対応するが、河田へ出したパスは松崎の元へ。
松崎のパスを受けた伊藤が冷静に中山にラストパスを送ると中山が丁寧にゴールに流し込み、再び水戸が勝ち越す。
しかし、わずか3分後に再び甲府がすぐに追いつく。
左サイドでのボール回しから野津田が背後へ抜け出した長谷川へパスを送る。
荒木が外ではなく、内を回り長谷川からパスを受けるとクロスを入れる。
ダイレクトでリラが合わせ、再び同点とする。
サイドからのクロスにダイレクトでコースを変えるリラの得意な形からのゴールとなった。
ゴールも見事ながら長谷川の動き出し、荒木の内へのランニングと前半に見られなかった形で水戸を崩した。
70分にはCKの流れから長谷川のクロスに新井が合わせ、ゴールに迫る。
共に中盤でボールを失うことが多くなり、徐々にオープンな展開が増えたことでゴールの匂いが増していく。
飲水タイム明けに両チーム2人ずつ交代を行う。
甲府はリラと野津田に代えて三平と鳥海、水戸は奥田と中山に代えて藤尾と金久保を投入する。
CKの流れから続けてゴール前にクロスを入れていく時間を作り、3点目を取り勝ち越したい甲府だが大きなチャンスは作れない。
すると再び、甲府の軽いプレーから水戸に勝ち越し点が入る。
縦パスを受けた松崎にメンデスが食いつき、反転から交わされる。
松崎のドリブルに合わせ、伊藤が背後に抜けると松崎からラストパスが出る。
落ち着いてゴールに流し込み、水戸が3度目の勝ち越しに成功する。
直後に松崎に代えてタビナスを投入し、水戸は5バックの形で守備を固めていく。
伊藤監督に勝ちをプレゼントしたい甲府だが、焦りからミスが増える。
86分にはビルドアップのミスからボールを失うと金久保から背後に抜け出した藤尾が河田と一対一の局面を迎えるが、河田が防ぐ。
88分に甲府は長谷川と山田に代えて宮崎と山本を投入する。
得点を取りにいきたい甲府は背後を突く動きが少なかったが、宮崎が積極的に裏抜けを狙い攻撃を活性化させていく。
終盤になり、連続してセットプレーを獲得するとアディショナルタイムに甲府がまたも同点に追いつく。
ロングスローのこぼれ球を山本が拾い、荒木を使うと荒木のクロスにメンデスが合わせる。
守備面では失点に繋がるミスも犯していたメンデスだが、得点でミスを取り返す。
追いついたことで会場の雰囲気も高まり、得点が入りそうな雰囲気が漂い出す。
すると94分に甲府に決定機。
荒木のCKに三平が合わせる、決まったかに思われたが牲川のビッグセーブ。
共に3点を取り合う派手な撃ち合いを演じた後半となったが、勝ち越し点は入らず勝ち点3を分け合う結果となった。
試合後の伊藤彰監督のコメントより。
前半戦の甲府であれば追いつくことはなく敗れていた可能性が高いのではないか。
自らのミスで勝ち点を失ってしまったことは残念ではあるが、伊藤監督の積み上げてきたものも発揮したエキサイティングな試合となった。
伊藤監督のコメントにもあるようにヴァンフォーレ甲府はこれからも続いていく。
伊藤監督が植え付けてくれたスタイルをベースに今後進化した姿を見せていきたい。
試合後の河田晃兵選手のコメントより
勝ち点80での3位は立派な成績であると思う。
一方で目標としていた昇格は達成することが出来なかった。
悔しいシーズンにもなった。
試合後の山田陸選手のコメントより。
シーズン通してチームは力を発揮してくれたと思う。
それでも目標に届かなかった。
来シーズンこそ達成したい。
試合後の秋葉忠宏監督のコメントより。
試合後の新里涼選手のコメントより。
試合後の伊藤涼太郎選手のコメントより。
水戸のコメントを見てみると良い面も悪い面も出たシーズンを象徴するような試合だったことがわかる。
秋葉監督の言うように勝負強さがあれば、もっと高い順位で終えられていたかもしれない。
来シーズン続投が決まっている中で課題として持ち越すこととなった。
4.MOM
伊藤涼太郎
後半開始から出場し、直後の得点を皮切りに2ゴール1アシストの活躍を見せた。
前線の選手として最も必要な結果で起用に応えたが、チームを勝利に導くまでは至らなかった。
だが、甲府の”伊藤”監督に注目が集まった一戦で最も光ったのは水戸の”伊藤”であった。
5.あとがき
結果としては最高の結果は得られなかったが、試合内容としては伊藤ヴァンフォーレ3年間の積み重ねの集大成にふさわしい試合だったのではないか。
引いて守り、攻撃は外国人ストライカーに依存するしかなかったチームはここまで成長することができた。
意図してボールを保持し、組織で崩していけるコレクティブなチームに伊藤監督は作り上げた。
贔屓目もあるかもしれないが、甲府はいいチームになったなと実感した試合でもあった。
吉田監督、上野監督が種をまき伊藤監督が水を与え成長したチームは後は花を咲かすだけである。
広島がペトロビッチ監督から森保監督、川崎が風間監督から鬼木監督とチームにまいた種をスタイルを継続させたことで花を咲かせたように今度は甲府が飛躍する時である。
伊藤監督との別れは寂しいことだが、このように惜しまれて去れることほど幸せなことはない。
別れがあれば出会いもある。
新たな監督の元で足りなかった勝ち点4を積み重ね、2023シーズン伊藤監督とJ1の舞台で戦いたい。
水戸も秋葉スタイルが成熟してきている。
若い選手を中心にアグレッシブに戦う姿は対戦相手としては恐いものであった。
来シーズン、秋葉監督の続投も決まっているだけに戦力の維持、上積みができれば飛躍を遂げるシーズンとなるかもしれない。
全試合のプレビュー、レビューを書くことができました。
お読みいただいた皆様、ありがとうございました。
ひとまずこれで一区切りとしたいと思っています。
ですが、続けて欲しいという意見もいただきました。
辞めるつもりでいましたが、揺らいでいる自分もいます。
一人でもそう仰っていただける方がいるなら続ける価値はあると思っていますし、そのように仰っていただけたことは素直に嬉しかったです。
伊藤監督の退任も決まり、新たなヴァンフォーレが作りあげられていくシーズンで再び書き続けたい意欲も出てきています。
まだ、来年の開幕まで時間はあるので再検討させていただきたいです。
オフシーズン中にもっと勉強し、わかりやすく伝わるものを書ける努力をしたいと思います。
続けることになったら今後もお付き合いいただければ嬉しく思います。
また、オフシーズンもいろいろと書いていきたいと思いますのでそちらもご覧ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。