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休みに働くという贅沢
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年末休みの朝、冬の冷たさが指先に染みる中、小さな山を登ることにした。大層な登山ではない。日常の中に埋もれた運動不足を埋める程度の行動だ。けれど、この季節の山は静けさに満ちている。木々の間を抜ける風が、乾いた枝葉を揺らし、足元では昨夜の霜がわずかに解けた気配を見せていた。自然のリズムに身を任せると、心の奥底に潜む雑念さえ、山の空気に溶けていくようだった。
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そんな束の間の静寂が破られたのは、スマートフォンのバイブレーションだった。ポケットから取り出すと、LINE通知が表示される。「エンジンブローした車を鈴鹿サーキットまで引き上げてほしい」という内容だった。休みの日に仕事――普通の人ならため息の一つも漏れたかもしれない。しかし、私は特に嫌だとも思わなかった。むしろ、無為に過ごす一日を有意義な何かに置き換えられることを、どこかで喜んでいる自分に気づく。
積載車のエンジンをかけ、鈴鹿サーキットへ向かう道中、年末の街並みが流れる。車窓越しに見えるのは、慌ただしく行き交う車、買い物袋を手にした人々。普段なら人々の喧騒が遠く感じられる私だが、このときばかりはその活気にわずかな温かみを覚えた。
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サーキットに到着すると、広大なコースが目の前に広がった。冷たい風が吹き抜け、エンジンブローを起こした車の周囲には、まだトラブルの名残が漂っている。作業は淡々と進む。エンジンの異常を感じつつも、慣れた手つきで引き上げの準備を整える。お客さんが「休みなのにありがとうございます」と頭を下げた。その言葉には、表面的な感謝以上のものが込められているように感じられた。仕事を終えた達成感と、感謝される小さな喜びが胸の中に残る。
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会社に戻った頃には夕闇が広がり始め、冷えた空気が骨の奥まで届くようだった。作業後に飲んだ缶コーヒーの温もりと苦味が、心を締めくくる。この日がなければ、きっと空虚な時間が過ぎていただろう。そう思うと、むしろありがたいのは私の方だった。年の瀬に働く自分を振り返りながら、静かにハンドルを握り締めた。