当才馬における麻酔
FOAL ANESTHESIA: THEY'RE JUST SMALL HORSES RIGHT?
Dee Ann Wilfong, BS, CVT, VTS-EVN Littleton Equine Medical Center Littleton, CO
https://www.cabidigitallibrary.org/doi/pdf/10.5555/20123231145
子馬や新生子馬の麻酔は困難な場合があるため、麻酔プラン、薬剤選択、慎重なモニタリングが非常に重要である。
ここでは、子馬は生後6ヶ月未満、新生子馬は生後1週間未満と定義する。
なお生後6ヶ月以上の馬における麻酔は、成馬と同様に実施することができる。
生理学
子馬と成馬には生理学的に多くの違いがある。
循環機能
心拍数(HR)は心拍出量(CO)に直接関係しており、子馬では特に心拍数が重要である。
CO=HR×SV(一回拍出量)
平均動脈圧(MAP)は著しく低く、動脈管の完全な線維化が2~3週まで認められないことから、心雑音の存在は一般的である。
呼吸機能
成馬と比較して動脈血酸素分圧(PaO2)は低く、また酸素消費量は多い。
また肺の弾力性は成馬と比較して低いため、子馬は高い呼吸数でそれを補う。
なお呼吸抑制作用がある薬物は、この補正を妨げる可能性がある。
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体温調節機能
子馬は脂肪がなく、皮膚が薄い、また体表面積が広いことから、熱損失が大きい。
さらに新生子馬は震えによる熱産生能力がほとんどないため、タオルやブランケット、温めた点滴、暖房などで、体温を維持すべきである。
腎機能・肝機能
一般に薬物は、腎臓や肝臓により代謝・排泄されるため、その機能は麻酔において重要な要素となる。
子馬において腎機能は成熟していると考えられているが、肝機能は未熟であり、肝代謝に依存する薬物の使用には注意が必要である。
術前検査
子馬の評価には注意深い身体検査が必要だが、成馬とは異なり忍耐がないため、母馬に触れさせながら、最低限の保定で実施する。
血液検査は必須であり、CBCの他、PCV、TP、血糖値を評価する。
なお固形物を食べていない子馬において絶食の必要はなく、ストレスを減らし、血糖値を保つために、母馬と一緒にして授乳させておくべきである。
前投与
子馬における前投薬では、年齢と健康状態を慎重に考慮する必要がある。
新生子馬ではジアゼパム、週齢の進んだ子馬ではα2作動薬(メデトミジン等)を使用するが、α2作動薬は心拍数を減少させ、心拍出量を低下させるため、正確な用量で使用すべきである。
オピオイド(モルヒネ、ブトルファノール)は鎮痛効果に加えて鎮静効果もあるため、有用な補助薬である。
なお危篤な子馬は、新生子馬に近い扱いを受けるべきである。
また子馬は母馬に反応するため、母馬も落ち着いていなければならない。
母馬の鎮静薬はキシラジンとアセプロマジン、あるいはデトミジンが用いられ、
処置が長引く場合は、鎮静薬を筋肉内と静脈内に投与することで、長時間にわたって落ち着かせることができる。
母馬は、子馬の麻酔導入まで帯同させる。
導入
ケタミンとジアゼパムの併用が、実用的である。前投与でジアゼパムが使用され倒馬に至った場合、ケタミンのみ投与する。
またプロポフォールも子馬の導入に用いられているが、作用時間が短いことが欠点である。
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維持
吸入麻酔薬としてイソフルランやセボフルランが用いられるが、子馬(特に新生子馬)では最小肺胞濃度(MAC)が低く、イソフルランのMACは成馬で1.3%から1.6%だが、子馬では0.84%に減少することに留意すべきである。
また人工呼吸器を使用する場合、高すぎる換気圧による肺損傷が起こる可能性があるため、気道内圧にも十分注意すべきである。
モニタリング
子馬の容体は麻酔中に急変する可能性があるため、注意深いモニタリングが重要である。
血圧
非侵襲的なモニタリング法は侵襲的な方法と比較して精度は劣るが、測定が容易である。オシロメトリック法が用いられ、尾にカフを装着し、複数回の測定を行って、正しく測定されていることを確認する。これは、手術の準備中、急患、あるいは動脈留置が困難な症例に最適である。
侵襲的なモニタリング法は動脈留置が困難なものの、正確であり、平均動脈圧(MAP)に加えて、収縮期圧、拡張期圧に加えて動脈圧波形を表示できる。
また動脈留置を一度設置すれば、動脈血の採取にも便利である。
パルスオキシメトリー
パルスオキシメーターは心拍数と動脈血中の酸素飽和ヘモグロビンの割合を評価することができる。しかし測定には適度の末梢拍動が必要であり、しばしば測定不能・過小評価することがある。
動脈血の血液ガス測定と併用することで、信頼性を上げることができる。
カプノメトリー
終末呼気中のCO2分圧(ETCO2)を数値化する方法であり、換気状態の評価や、適切な気管チューブ挿管の確認ができる。
pHおよび血液ガス
換気状態や酸塩基異常を評価する標準的な方法であり、ヘパリン加シリンジを用いて嫌気的に採取する。
体温
低体温になっていないことを確認するため、処置中は断続的に直腸温を測る。
強心薬
MAPを上昇させることで組織灌流を改善させるが、子馬の場合、心拍数の上昇のみ認められることがある。エフェドリン(0.03~0.06mg/kg)やドブタミン(1~5μg/kg/min)を使用する。
輸液療法
子馬も例外無く、すべての全身麻酔において維持輸液を実施すべきである。
また可能であれば、脱水や貧血症例、あるいは尿腹で高K血症の子馬は、麻酔をかける前に輸液療法を実施して状態を安定させるべきである。
健康な子馬では10~15mL/kg/hrの速度で実施するが肺水腫を起こしやすいので、注意深くモニターすべきである。
必要に応じて、子馬の血糖値を高めるためにブドウ糖を輸液に添加したり、MAPの低下やTPの低下に対応するためにコロイドを加えたり、貧血症例のために輸血を実施する。
覚醒
子馬は暖かく暗い部屋で、耳にコットンを入れ、目にタオルをかけ覚醒させる。
再鎮静は多くの場合不要であり、起立補助もヘッドロープのみで十分である。
繁殖牝馬と子馬は、子馬が安定したらすぐに再会させ、また母馬のいる馬房内で覚醒させる場合は、子馬とスタッフを保護するために仕切りを使用すべきである。