馬のエンドトキセミア
正常な腸粘膜バリアと蠕動運動は、消化管内腔に存在するエンドトキシンの吸収を防ぐが、疝痛などの消化器疾患が起こると、粘膜が損傷し、エンドトキシンは急速に細胞内に浸透する。
そのためエンドトキセミアは、馬の消化管疾患の合併症として発症するリスクが高い。
治療
エンドトキセミアの治療目的は、以下に分けられる。
・組織損傷に起因するエンドトキシンの血液循環系への侵入防止
・心血管系の虚脱防止
・損傷を受けた腸管からのさらなるエンドトキシン吸収の防止
輸液
基本的な治療の一つであり、循環血流量の回復と、全身性アシドーシスの補正を目的とする。
主に平衡電解質溶液が用いられるが、エンドトキシンによる血管内皮の損傷およびタンパク質の血管外漏出は、血管からの水分漏出を引き起こし、肺で低換気、消化管で虚血のリスクを増大させる。
そういった症例では血漿輸液やヒドロキシエチルスターチ(HES)製剤が有効とされている。
しかし血漿輸液の副作用として、アレルギー反応、HES 製剤の副作用として、腎機能障害や凝固止血異常への影響があることは考慮すべきである。
昇圧剤
ドパミンおよびドブタミンは、エンドトキセミア発症時における循環機能の維持に有効である。生理食塩水に溶解し、2.5~5.0μg/kg/min の用量で用いられ、術中だけでは無く、術後の持続点滴にも利用可能である。
治療中は有効投与量の確認ならびに、不整脈の検出のため、心電図および血圧をモニタリングする必要がある。
エンドトキシン吸着剤
ポリミキシン B はエンドトキシンの一つである LPS(リポ多糖)と結合して、LPS と細胞の結合を防止し、炎症カスケードの進行を抑制することができる。
ポリミキシンB は8時間ごとに 1000~6000 IU/kg を静脈内投与するか、持続点滴に混和する。ポリミキシン B の副作用としては、腎毒性や神経毒性がある。
また DTO スメクタイト(Bio-Sponge)の経口投与による、消化管管腔のエンドトキシン吸着も実施される。500 g を水に溶かして、8 ~ 24時間ごとに経口投与、あるいは胃カテーテルを用いて経鼻投与されるが、イレウスが存在する場合は実施するべきではない。
NSAIDs
フルニキシンメグルミンは疝痛を有する馬に最もよく使用されるNSAIDsであり、エンドトキセミアの臨床症状を改善するのに有効であるとされている。疝痛治療時よりも低用量(0.5mg/kg)で投与するが、腎毒性、粘膜傷害を有する。
最近では選択的COX-2阻害薬の使用が研究されており、鎮痛効果に加えて、粘膜傷害の軽減も示されている。
DMSO(ジメチルスルホキシド)
DMSOはサイトカイン産生を抑制することで、炎症を軽減させる。0.2~1.0 g/kg の用量で、3~5 L の生理食塩水に溶解して用いられるが、高用量では溶血や肺水腫といった副作用を引き起こす。
まとめ
エンドトキセミアは極めて高い致死性を有し、単純な輸液療法のみでは阻止することはできない。あらゆる治療を組み合わせて対応し、早期発見早期治療を心がけ、可能であれば壊死した腸管を切除すべきである。