子馬の感染性関節炎

子馬では、出生直後から出生後30~45日齢までに罹患した感染症(臍・呼吸器・腸管)が、感染性関節炎を引き起こすことがある。

子馬の感染性関節炎は以下の4つに分類される。

  • S型(滑膜性)

  • E型(骨端性):骨端の軟骨下骨に感染が存在

  • P型(成長板性):成長板骨幹端側に感染が存在

  • T型(手根・足根骨性):手根・足根骨の感染を含む

一般にはS型とE型が多いが、他の型も散発する。

臨床所見と診断

典型的な臨床症状として、跛行、発熱、関節の腫脹がある。近位の関節では腫脹が分かりづらいが、触診により圧痛を示す。

診断には血液検査やX線検査、エコー検査の他、関節液の細胞診が有効である。

診断は比較的容易だが、他の疾病と鑑別できない場合、感染性関節炎を念頭において、確定診断前より広スペクトル抗生物質の全身投与を行う。

治療

子馬の感染性関節炎の治療は感染のコントロールを第一義とする。

使用される抗生物質は獣医師の判断と薬剤感受性試験の結果によって異なるが、第一選択薬として、主にアンピシリン、ペニシリン、オキシテトラサイクリン、ゲンタマイシン、アミカシン、セフチオフル、セファゾリンが用いられる。

一部の症例では、第三世代セファロスポリン、イミペネム/シラスタチン合剤、バンコマイシンを使用することができるが、薬剤耐性の観点から使用は極力控えるべきである。

また、フルオロキノロン系抗生物質(エンロフロキサシン、マルボフロキサシン)の使用には細心の注意が必要である。
特にエンロフロキサシンは、軟骨に悪影響を及ぼす可能性があり、幼若動物への使用は推奨されていない。
またエンロフロキサシンは、関節液貯留や腱弛緩を伴うことがあり、これらの症状が認められた場合は、直ちに使用を中止すべきである。

薬剤感受性試験に基づいて、これらの薬剤を使用する必要がある場合は、軟骨保護剤を併用すべきである。

滑膜内の感染性関節炎には関節洗浄も実施される。

実施にあたっては、術野を剃毛・消毒してから、関節の最も腫脹している部分に注射針(14-16G)を刺入し、関節液を吸引、あるいは滴下により採取する。
このサンプルについては薬剤感受性試験と細菌培養を実施する。

その後1本目の刺入部位からできるだけ離れた位置に2本目の針を刺入し、抗生物質(ゲンタマイシン or アミカシン)添加生理食塩水で関節洗浄を実施する。

最後にアミカシンを少量(3-5ml)注入し、刺入部位を被覆する。

抗生物質の全身投与が有効でない場合は、Regional Limb Perfusion(RLP)が実施できる。

駆血帯を患部の近位に巻き、動脈と静脈の閉塞後、表在静脈に留置針を刺入する。
この時、幅の広い(肢の直径より20%広い)駆血帯を使用することで、下層組織への悪影響を減少させることが可能である。

抗生物質の最適な投与量には議論があるが、一般に1日の全身投与量の1/3が推奨されている。

薬物投与から25-30分後に駆血帯を解除する。
全身毒性が知られている抗生物質(アミノグリコシド系など)は、駆血解除後に血漿中濃度が大幅に上昇する可能性があるため、毒性の閾値を超えないように抗生物質の全身同時投与を遅らせるか、血漿中薬物濃度をモニターすべきである。

四肢のRLPは、通常1日1回から2-3日に1回程度実施すべきである。

その他の治療としては、関節への外科的なアプローチがあげられる。

予後
早期に発見され、最初に投与した抗生物質が原因菌に有効であれば、感染性関節炎の予後は一般的に良好である。

感染がコントロールできない場合、あるいは骨に損傷がある場合は、関節が骨髄炎に進行し、病的骨折を引き起こすことがある。

感染性関節炎には早期発見と積極的な抗生物質治療が重要である。


いいなと思ったら応援しよう!