繁殖牝馬の子宮内膜炎に対する治療法

繁殖牝馬の子宮内膜炎において、
・子宮防御機構の是正
・病原性細菌の排除
・交配後の炎症コントロール
が、治療を成功させるためのファクターとなる。

細菌性または真菌性の子宮内膜炎に対しては、子宮洗浄と抗生物質(局所・全身)により治療を実施することが一般的だが、すべての子宮内膜炎が子宮洗浄と抗生物質に良い反応を示すわけではない。
生殖器の解剖学的異常、過度の子宮粘液による抗生物質の失活、微生物によるバイオフィルムなどにより子宮が汚染され続け、治療の効果が認められないことがある。

本稿では、従来の治療に加えた粘液溶解剤、キレート剤、ステロイドについて記述する。

粘液溶解剤

子宮粘液は炎症や、感染、子宮の収縮能低下で増加することが知られている。
また慢性子宮内膜炎では、上皮細胞が消失し、子宮内膜の粘膜が肥厚、細胞内外の粘液の染色性が上がる。

過度の粘液はアミノグリコシド系抗生物質を不活化するなど、抗生物質の効果を抑制し、さらに精子の卵管への輸送を妨げる可能性があり、粘液溶解剤による治療が試みられる。

一般に使用される粘液溶解剤には
・DMSO
・ケロシン(灯油)
・N-アセチルシステイン
などがある。

DMSOは30%溶液で用いられる。DMSOを子宮内に注入した研究では、DMSO群は、生理食塩水を注入した群よりも受胎率が高い傾向があり、さらに子宮内膜の組織スコアが改善されたという報告がある。

ケロシンは約50mLを子宮内に注入する。ケロシンを子宮内に注入した症例では、注入後、中等度から重度の内膜炎、重度の浮腫、血漿様滲出液の排出が認められ、また管腔上皮の軽度から重度の壊死を認めた。
繁殖牝馬は次の発情で交配されたが、驚くべきことに、生検スコアがカテゴリーIIまたはIIIであった繁殖牝馬の50%が出産まで至った。

N-アセチルシステイン(NAC)は3.3%の溶液で用いられ、ムチン・ポリマー間のジスルフィド結合を破壊し、粘液の粘度を下げさせるため、粘液分泌が過剰な牝馬の精子輸送を改善する可能性も推測される。
また、NACには抗酸化作用の他に抗菌作用も有すると考えられている。

キレート剤

馬の子宮から分離されるバイオフィルムを形成する病原体には、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、および酵母や真菌などがある。

これらの微生物による感染症は治療が困難で、抗生物質に抵抗することが多く、薬剤耐性菌が子宮に定着する可能性もある。

他の動物種や繁殖牝馬での研究から、Tris-EDTAが抗生物質の作用を増強し、粘液を溶解、バイオフィルムを破壊する可能性があることが示されている。

例えば、慢性子宮内膜炎を呈する牝馬の子宮から採取された緑膿菌の分離株は、Tris-EDTA溶液に暴露されると、増殖性の低下や死滅を示した。

また、ゲンタマイシンにTris-EDTAを加えると、ゲンタマイシンのみで殺菌するよりもin vitroで緑膿菌の殺菌力が1000倍に向上することも示されている。

ペニシリン、アンピシリン、オキシテトラサイクリン、ネオマイシン、アミカシンへのTris-EDTAの添加も、同じく相乗効果があることがわかっているほか、
抗真菌薬の活性も、in vitroにおいて高めることが示された。

微生物に対するキレート剤の作用機序は完全には解明されていないが、キレート剤が細菌の外膜からカルシウムまたはマグネシウムをキレート化し、それによって細胞壁を損傷させると考えられている。

キレート剤の注入量は子宮の大きさによって異なり、一般的には200mlから500mlが推奨される。

キレート剤は数分で細菌と結合し、細胞死と残渣の蓄積をもたらすので、これらの副産物を除去するために子宮を12時間以内に洗浄する必要がある。

子宮内膜炎を呈する繁殖牝馬の子宮からグラム陰性菌や酵母が繰り返し分離された場合、現在推奨されている治療法の1つとして、1日目に250~500mlのTris-EDTAを子宮内に注入し、24時間以内に子宮洗浄を実施する方法がある。回収液が濁っている、粘液が混じっている場合は、キレート剤を再度子宮内に注入し、子宮洗浄、その後抗生物質による治療を開始し、最低5日間毎日続ける。

ステロイド

交配前後にステロイドを投与し炎症をコントロールすることで、子宮に貯留液や炎症を有する繁殖牝馬の妊娠率が上昇することが示されている。

ステロイドを用いた治療法には以下のようなものがある。
・デキサメタゾン(0.1mg/kg、iv)を交配1時間以内に単回投与
・デキサメタゾン(0.1mg/kg、iv)を交配後 1 時間以内に単回投与
 & 酢酸プレドニゾロン(0.1mg/kg、po)を交配前後に投与
・酢酸プレドニゾロン(0.1mg/kg、po)を交配 48 時間前から 4 日間、
 12 時間ごとに投与

ステロイドは子宮洗浄、抗生物質と併用することが可能であり、治療を受けた牝馬では、子宮浮腫の軽減、貯留液の減少、透明度の改善が認められた。

免疫反応の調節は特に、加齢に伴う軽度の全身性炎症徴候である炎症性老化に罹患している高齢の繁殖牝馬に有効な可能性がある。
老齢馬から採取した単核球は、若い馬よりも炎症性サイトカインを多く産生することが示されており、さらに太った老齢馬では、痩せた老齢馬よりも炎症性サイトカインを産生するリンパ球や単球の頻度がさらに高いことがわかっている。

好中球の走化性、および交配後に子宮に動員される好中球の数を減少させることができれば、炎症を軽減できる可能性がある。
ただし細菌性子宮内膜炎の繁殖牝馬にステロイドを投与すると感染を悪化させる可能性があるため、使用は慎重になるべきである。

https://www.dvm360.com/view/treatment-acute-and-chronic-endometritis-proceedings より抜粋


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