馬のウォブラー症候群
ウォブラー症候群は後躯を主とした運動失調あるいは不全麻痺などの神経症状を呈する病態であり、若い牡馬に好発する。
原因は脊柱管の動的あるいは静的な狭窄であり、脊髄神経の圧迫変性により神経症状が歩様に現れるとされている。
動的狭窄は運動時、特に頚部の屈曲時にのみ起こり、C3-C4およびC4-C5で最もよく認められ、生後8~18ヵ月の馬に好発する。
静的狭窄は頚の位置に関係なく起こり、C5-C6およびC6-C7に最もよく認められ、通常1~4歳の馬に発症する。
診断
歩様検査では、ふらつくような特徴的な跛行を認める。異常歩様は四肢でみられるが、特に後肢で顕著であり、円を描くように旋回させることで、より歩様が悪化することがある。
頚部X線検査では、頸椎の亜脱臼によるアライメントの不整や椎間靭帯の肥大、頚椎突起関節面の離断骨片・骨棘・肥大による脊柱管の狭窄を認める。
脊柱管の狭窄は、脊柱管の矢状直径(MSD)を対応する椎体の頭側面の最大点における背腹方向の高さで割ることで、評価が可能である。
比が50%未満であった場合、狭窄の可能性が高い。
また脊髄造影検査も診断に有効だが、手技に熟練を要するとともに、重篤な副作用も存在するため、その結果が症例の転帰や治療に変化をもたらす場合にのみ用いるべきである。
その他にCT検査も実施されるが、全身麻酔のリスクやコストといった点から、症例数は多くない。
治療
症例が若馬で、早期診断された場合、治療として舎飼いとPACE食餌療法が実施される。
PACEとは、粗タンパク質とエネルギー(TDN)が推奨値の65~75%となるように設計された飼料のことで、子馬は1年間この管理により飼養される。
治療に際しては、ビタミンとミネラルが不足するため、別途補給する必要がある。
生後6ヶ月齢未満から治療を開始した場合に、最良の結果が得られるとされ、頚椎不安定症の子馬の75%が、治療後に競走馬としてデビューした報告も存在する。
また抗炎症薬による治療も一般的だが、コルチコステロイドの使用には議論が存在する。
一部の成馬では外科的な頚椎の固定術が実施されるが、競走馬を目指すサラブレッドにとっては現実的ではない。
予後
発症馬の予後は悪いことが知られ、病状の進行により安楽死されるケースが多い。一方で跛行が軽度な場合には、温存療法によりレースに出走することもあり、予後判断が難しい。