踵骨隆起からの浅趾屈筋腱脱位に対する内科的・外科的治療法の効果

Outcome of conservative and surgical treatment for luxations of the equine superficial digital flexor tendon from the calcaneal tuber
M. Federici, A. E. Furst, S. Hoey and A. S. Bischofberger

Summary
本研究の目的は、踵骨隆起からの浅趾屈筋腱(SDFT)脱位に対する内科的・外科的治療法の効果を検討することである。
診療記録、退院後のフォローアップ検査、そして馬主へのアンケートから、
短期生存(〜退院)、長期生存(〜調査時点)、用途・競技復帰、最終的なSDFTの位置とその外貌について、内科的治療を施した馬と外科的治療を実施した馬の間で比較を行った。
内科的治療(n=8)では、全頭が退院まで生存し、調査時には71.4%が競技・用途に復帰していたが、SDFTは不安定で、軽度の跛行が認められた。
外科的治療(n=9)では、合成メッシュと縫合糸(n=2)、合成メッシュ、縫合糸とスクリュー(n=6)、縫合糸とスクリュー(n=1)によるSDFT整復術が実施された。手術後に対側肢の蹄葉炎、インプラントの感染といった合併症が発生し、退院まで生存した馬は66.7%であった。しかし退院後のフォローアップ検査が可能であった馬(n = 5)はすべて健康で、80%が競技に復帰していた。
内科的治療、外科的治療のどちらにおいても、競技・用途への復帰はできていたものの、内科的治療では軽度の跛行残存、外科的治療では、術後の致命的な合併症が認められた。

Introduction
浅趾屈筋腱(SDFT)の踵骨隆起からの脱位には、内側支帯の断裂を伴う外側脱位、外側支帯の断裂を伴う内側脱位、踵骨帽の縦断裂という3つの異なる形態が報告されている。
また安定した脱位と不安定な脱位が存在し、安定した脱位では、SDFTは外側(内側)に変位し、踵骨帽は踵骨隆起の外側(内側)から変位しない。不安定な脱位では、運動刺激により踵骨帽が踵骨隆起からその内外に変位する。
内科的治療法としては、運動制限とキャストやバンデージによる固定、その後のリハビリからなる4-6ヵ月間の治療法が報告されている。また腱周囲への硬化剤注入も報告されている。治療後も軽度の跛行が残存するが、競馬や障害馬術への復帰は可能である。
しかし完全な運動機能を取り戻すためには、外科的治療が不可欠であるという意見もあり、SDFTの整復を目的とした様々な手技が報告されている。例えばSDFTの内側脱位では、外側支帯の2層縫合による良好な結果が報告されている。また縫合糸と合成メッシュで、断裂した支帯を整復した報告では、50%の症例が成功している。SDFTの外側脱位を呈する2頭の成馬に対しては、内側支帯の縫合と踵骨隆起外側への2本の海綿骨スクリュー設置が行われている。

本研究の目的は以下の通りである。

  1. 踵骨隆起からのSDFTの外側(内側)脱位に対する内科的治療および外科的治療の効果について、短期生存(〜退院)、長期生存(〜調査時点)、用途・競技復帰、最終的なSDFTの位置とその外貌について報告

  2. SDFT整復術の手技について検討

Materials and methods
踵骨隆起からのSDFT脱位で、2つの馬専門病院を受診した馬(1993~2015年)を研究対象とした。
合計16頭の成馬と2頭の子馬が研究に参加し、内訳は牝馬8頭、セン馬8頭、牡馬2頭であった。成馬はすべてSDFT外側脱位、子馬は2頭とも内側脱位を呈し、13頭が右後肢、3頭が左後肢、2頭が両側性であった。
7頭の成馬と1頭の子馬が内科的治療、8頭の成馬と1頭の子馬が外科的治療を受けたが、1頭の成馬は、馬主の希望により診断時に安楽死させられ、調査から除外された。
診療記録から、以下を記録した。
病歴、体重、馬の用途、発症から入院までの期間、脱位の種類(内側、外側)、入院時の跛行グレード、治療法(外科的、内科的)、外固定の期間と種類、抗菌薬および抗炎症薬の投与期間、入院期間、退院までの生存期間

さらに内科的治療を受けた馬については、馬房内運動制限の期間、外科的治療を行った馬については、使用したインプラント、全身麻酔からの覚醒法、スリング装着期間、術後合併症などを記録した。

Diagnostic imaging
入退院時、およびフォローアップ検査時の、X線検査とエコー検査を評価した。

Conservative treatment
抗炎症薬の全身投与、局所の冷却、バンデージによる固定、馬房内運動制限を実施。

Surgical treatment
麻酔導入後、馬は側臥位で、外側SDFT脱位では患肢を下、内側SDFT脱位では上にして手術台に載せられ、術野消毒後、踵骨隆起の内側あるいは外側に、20cmの皮膚切開を形成した(図1a)。皮下組織と足根筋膜を剥離し、断裂した支帯の端を確認、必要であればデブリードを実施した。踵骨隆起に2.5mmのドリル穴を開け、セルフタッピング式海綿骨スーチャースクリュー(4.0mm)を、支帯の高さで約8mm間隔に設置し、用手で踵骨帽を踵骨隆起上に整復しながら、踵骨帽の外側とスクリューのアイレットに非吸収性縫合糸を通して、単純結節で縫合した(図1b)。なお、9番と10番の馬では、断裂した支帯を単純結節縫合で固定し、スクリューは用いなかった。その後、合成メッシュと、スクリューのアイレット(n= 7)もしくは支帯周囲組織(n= 2)を非吸収性縫合糸の連続縫合で固定した(図1c)。
最後に、足根筋膜と皮下組織を吸収性縫合糸を用いて連続縫合で整復し、皮膚は非吸収性縫合糸の連続縫合、あるいは外科用ステープラーで閉鎖した。

Recovery and post-operative period
手術後、full-limb castで患肢を固定して、ロープリカバリーで覚醒、あるいは防水性のバンデージを施して、プールで覚醒させた。
ロープリカバリーを実施した馬はfull-limb cast、プールで覚醒した馬はスリングとfull-limb bandageを施し、馬房内運動制限を実施した。
また蹄葉炎予防に、対側肢の蹄叉にシリコン製クッションを装着し、ヒールアップを実施し、抗菌薬と抗炎症薬を投与した。

Long term outcome
フォローアップ検査、あるいは馬主からのアンケートから、
長期生存(〜調査時点)、用途・競技復帰、最終的なSDFTの位置とその外貌について記録した。

Post-mortem examination
治療後に安楽死されたうちの4頭について、病理解剖を実施した。

Results
図2は、フォローアップ検査で得た13番のX線画像である。

Conservative treatment
成馬の年齢は6~19歳、体重は400~600kgであり、子馬は生後18日、体重は65kgであった。
発症から入院までの期間は、成馬で1~180日、子馬で7日であった。
入院時、4頭の成馬はグレード4、2頭はグレード3、2頭はグレード2、そして子馬はグレード2の跛行を呈していた。
成馬はそれぞれ5日~6.4ヶ月間の馬房内運動制限を実施し、そのうち4頭が3~28日の間、full-limb bandageによる固定を行った。子馬は小さなパドック付きの馬房で42日間、運動制限を実施し、外固定はしなかった。
抗炎症剤について、成馬にはフェニルブタゾン(2.2 mg/kg BID)をそれぞれ5~21日間投与したが、子馬には投与しなかった。
成馬はそれぞれ0~13日間入院したが、子馬は入院しなかった。

内科的治療を受けた馬のデータを表1に示す。

Surgical treatment
成馬の年齢は6~16歳、体重は460~595kg、子馬の年齢は58日、体重は112kgだった。
発症から入院までの期間は成馬で1~180日、子馬で3日であった。
入院時、3頭の成馬はグレード4、4頭はグレード3、1頭はグレード2の跛行、子馬はグレード4の跛行を呈していた。
術後、馬房内運動制限を実施した。5頭の成馬は5~28日の間、full-limb cast、その後21~35日間バンデージを装着した。3頭の成馬は10~42日の間、full-limb bandageとスリングを装着した。子馬は28日間の full-limb cast固定、その後28日間バンデージを装着した。
成馬にはフェニルブタゾン(2.2 mg/kg BID)を7~31 日間、抗菌薬(ペニシリン&ゲンタマイシン)を3~31 日間投与した。12番と14番では、インプラントに感染徴候がみられたため、抗菌薬をマルボフロキサシン(2mg/kg BID)に変更した。子馬はフィロコキシブ(0.1mg/kg、SID)を7日間、セフキノム(1mg/kg、BID)を7日間投与した。
成馬は46日間(17~75日)、子馬は3日間入院した。

外科的治療を受けた馬のデータを表2に示す。

Long-term outcome
内科的治療については、8.3ヶ月~5.5年にフォローアップ検査(n=4)あるいはアンケート(n=3)を行った。
外科的治療については、術後2.4~16.1年で、フォローアップ検査(n = 2)あるいはアンケート(n = 3)を行った。
内科的治療を行った馬の詳細は表1および図3aに、外科的治療を行った馬については表2および図3bに示す。

Post-mortem examination
12番と14番は、インプラント感染または蹄葉炎により安楽死させられた。
12番の病理解剖では感染性骨髄炎によるスクリューの緩みが確認された。
14番ではインプラント周囲にフィブリンが認められ、周囲組織には好中球浸潤と変性が認められた。
15番の馬は剖検されなかった。
9番と16番は手術とは無関係の理由で安楽死となった。
9番は、術後16年で高齢により安楽死させられた。病理解剖では、インプラントは無事で瘢痕組織に埋没していた。組織学的検査では周囲組織に炎症の徴候は認められなかった。
16番は結腸捻転のため術後4ヵ月で安楽死させられた。病理解剖では、インプラントは無事で、整復は安定していた。

Discussion
内科的治療では、71.4%の馬が軽度の跛行と、SDFTの脱位による軽度の後肢の外旋を有するものの、本来の用途に戻ることができた。
外科的治療では、退院後の馬の80%が本来の用途に復帰した。
内科的治療後の退院までの生存率は100%であったが、外科的治療では致命的な合併症により、手術後に退院まで生存した馬は66.7%に過ぎなかった。
外科的治療は生体力学的に最良の結果をもたらすが、術後に致命的な合併症を引き起こす危険性があり、特に蹄葉炎に対する積極的な予防策は必須である。
蹄葉炎のため安楽死させられた14番と15番には、術後の疼痛、手術部位の感染、そしてfull-limb castといったいくつかのリスクファクターが存在した。
著者らは多くの馬がfull-limb castに対応できず、対側肢に負荷をかけると考えており、キャストが合っていない場合は、早期にキャストを除去し、スリングといった他の手段を提案してる。また積極的な疼痛管理(NSAIDs、ケタミン、リドカイン、ブトルファノールのCRI)も有用である。

長骨骨折整復術後の感染の発生率は28%と報告されているが、これはインプラントの感染率が22.2%であった我々の研究と同等である。
インプラントの感染は、全身および局所的な抗菌薬投与(滑液嚢内投与)により管理された。
14番では感染の管理は成功したが、蹄葉炎のため安楽死させられた。
12番では感染が治まらず、インプラントの抜去について検討したが、馬主が再手術を拒否した。この馬は術後21日目に安楽死させられたが、その際、患肢への体重負荷は不良で、X線検査におけるスクリュー周囲の透過像と踵骨腱下包の感染が認められた。
手技について、9番と10番では合成メッシュと縫合糸のみを使用したが、著者らの経験では、スクリューは、支帯よりもはるかに強力なアンカーとなり、踵骨帽を踵骨隆起にしっかりと固定することができると考えている。しかし、同時にスクリューの鋭利なアイレットが潜在的なリスクになることが示されている。
10番は外科的整復に失敗したため、その後も跛行が持続することが予想されたが、この馬の場合、SDFTは踵骨隆起の外側で安定し、フォローアップ検査でも跛行は認められなかった。
WrightとMinshallは、踵骨が断裂した踵骨帽の欠損部に突出することで完全な亜脱位が妨げられ、跛行が生じるというボタンホール効果について述べているが、10番の馬では、手術時に断裂した支帯を外科的に剥離したことで、上記のようなボタンホール効果を防ぎ、SDFTの安定した脱位をもたらした可能性がある。

本研究では、SDFTの外側脱位は内側脱位よりも多かったが、これは過去の報告と一致している。一般に成馬の内側支帯は外側よりも薄く、そのため断裂しやすいのかもしれない。
子馬のみが内側SDFT脱位を呈していたが、子馬の支帯の正確な解剖学的構造は報告されておらず、SDFT脱位の症例もまだ報告されていない。しかし、子馬2頭のデータでは、内側脱位が子馬でより頻繁に起こると仮定するには不十分である。

この研究にはリミテーションがあり、まず治療の選択が無作為に割り当てられていないことがある。治療法は馬主によって選択され、馬の価値、馬主の希望、経済状況など多くの要素によって偏りが生じる。このため、内科的治療を受けた馬と外科的治療を受けた馬の異なる予後を統計的に比較することはできない。
さらに、外科的治療を受けた成馬のうち3頭の用途が乗馬であったこと、また競馬を目指していた子馬についても、フォローアップ検査時点では調教中で、まだ競技デビューはしていなかった。そのため、本研究結果をより高い競技レベルの馬に適応することは疑問がある。

Conclusion
本研究の結果は、踵骨隆起からのSDFT脱位に対する内科的治療は安全な選択肢であることを示唆している。跛行が残存していても、以前の用途への復帰は可能である。SDFT脱位を外科的に整復することで、ほとんどの馬が競技に復帰することができるが、手術に関連した合併症が安楽死という結果を招くこともあり、これらの合併症の早期発見と積極的な予防策が必要である。

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