両後肢の飛節浅趾屈腱脱位を呈したセン馬における臨床所見と画像所見の評価

Abstract

後肢の浅趾屈腱(SDFT)は踵骨の内側面と外側面に付着した2本の支帯で踵骨上に固定されているが、外傷などにより支帯が断裂し、SDFTが踵骨上から脱位を起こすことがある。
University of Tehranに、両後肢の跛行を呈する障害馬術馬(11歳・セン馬・サラブレッド種)が来院した。
身体検査では、左右の飛節にSDFTの外側脱位が認められた。
X線検査では、軟部組織の腫脹を除き、踵骨に病変は認められなかったが、中心足根骨と第3足根骨(遠位足根間関節)に軽度の骨棘形成が認められた。
エコー検査では、SDFTの肥厚と低エコー領域の存在を認めた他、左後肢の踵骨腱下包において無エコー性の液体貯留を認めた。
獣医師は画像診断により病変の部位と範囲を評価し、臨床所見と併せて適切な治療法を選択することができる。

Introduction

後肢のSDFTは、それぞれ踵骨の内側と外側面に起始した2本の支帯により踵骨隆起上を通過しているが、重度の外傷、過度の伸展、踵骨の骨折等により、支帯が断裂し、SDFTが脱位することがある。なお内側支帯は外側支帯よりも脆弱である。
本報告では、11歳のサラブレッド種障害馬術馬の両後肢に生じたSDFT脱位の臨床所見と画像所見を紹介することである。

Case Description

2020年5月、右後肢の跛行を呈する障害馬術馬(11歳・セン馬・サラブレッド種)がUniversity of Tehranに来院した。
身体検査では、右後肢SDFTの腫脹と、運動中における外側方向への変位が判明した。またこれは用手にても再現可能であった。
エコー検査では、SDFTの腫大と、低エコー領域の存在が認められ、重度の浅屈腱炎を伴う右後肢のSDFT脱位と診断された。

この時点では馬主の協力が得られず、特別な治療は行われなかったが、以降も障害馬術を実施していた。

2年後に、両後肢の跛行を主訴として再度来院した。

身体検査では、右後肢に加え、左後肢にも飛節の腫脹と、SDFTの外側への脱位が認められた(図1A)。またSDFTは用手にて整復可能であったが、整復後は再び脱位した。
X線検査では、両後肢の飛節に加えて、左前肢跛行も認められたことから左前肢の蹄も撮影した。画像では、踵骨領域には軟部組織の腫脹以外、目立った異常は見られなかったが、中心足根骨-第3足根骨間(遠位足根間関節)では骨棘の形成が軽度に認められた(図1B)。左前肢には、第2指骨底側面に重度の骨反応が見られた。

飛節底側面のエコー検査では、SDFT、腓腹筋腱、踵骨隆起の骨表面、腓腹筋滑液包、SDFTの踵骨腱下包(膨張している場合)を評価することができる。
本症例では、両後肢においてSDFTの腫大と低エコー領域の存在が認められた。
さらに左後肢では、踵骨腱下包の液体貯留が観察された(図2)。

また右後肢では、腱の石灰化と、SDFT周囲のフィブリン塊を認めた(図3)。

臨床症状と画像所見から、本症例は外傷性の浅屈腱炎と、SDFT外側脱位、飛端腫と診断された。

Discussion

飛節SDFT脱位は、内側または外側支帯が損傷することで起こる。飛節の腫脹から飛腫と混同されることがあるが、腫れが軽減すると、SDFTの脱位が判明する。
また内側支帯が外側支帯と比較して脆弱なことから、脱位は外側方向に起こることが多いが、内側方向、あるいはSDFTが分断され、内側と外側の両方向に脱位した症例も報告されている。
脱位は触診可能であり、足根関節を屈曲させることでより明らかとなるが、X線検査で骨折の可能性を除外すべきである。
臨床症状の重症度はSDFT脱臼の程度によって異なる。罹患馬は、急性期に明らかな跛行を呈するが、時間の経過とともに歩様は改善する。また支帯にわずかな損傷を受けただけで、不完全脱位を呈する馬もいる。
治療法は、脱位の程度と馬の用途によって異なり、脱位が軽度の場合は、3~6ヶ月のストールレストでほとんどの場合治癒する。また外科的な治療法も存在するが、本症例では行われなかった。

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