牡馬における内部生殖器の超音波検査
牡馬の内部生殖器は骨盤尿道(urethra)、精管とその膨大部(ampulla)、精嚢腺(seminal vesicle gland)、前立腺(prostate gland)、および尿道球腺(bulbourethral gland)から成る。
触診
直腸越しに探査すると、尿道は正中に位置し、坐骨弓において屈曲するが、この部位において固い管状構造物として触知可能である。成熟した牡馬の骨盤尿道の全長は10-13cmほどなので、検査の際は手首より深く挿入する必要はない。
次に精管膨大部を触知する。精管膨大部は、前立腺峡部の腹側へと向かう前の部位において触知可能である。両側の精管膨大部が隣接して触知されるが、膀胱が拡張している場合は互いに離れて膀胱の両側面に認められることもある。
精管は触知が難しいが、内鼠径輪は触知可能である。その場合、骨盤縁に沿って手を動かしながら、体壁の後腹側面を左右に触知する。内鼠径輪は楕円形の間隙として触知され、1-2本の指先を容易に挿入できる。内鼠径輪を通過する精管および精巣血管の触知は難しいが、停留精巣、あるいは嵌入した腸は触知可能である。
エコー検査
まず骨盤尿道を描出する。尿道筋の背側および腹側の層は、互いに平行な2本の低エコー輝度を有する太い線状構造物として描出され、検査時のランドマークとなる。
精丘(seminal colliculus)は骨盤尿道の最も尾側で描出可能であり、尿道の背壁から生じるエコー源性あるいは低エコー輝度を示す円形の突起状構造物として描出される。ここに少量の液体貯留や、シストが認められることもあるが、異常ではないことは多い。
尿道球腺は骨盤尿道の最も尾側の坐骨弓周囲において観察される。検査者の手を直腸から出した状態でプローブをわずかに外側に動かし、角度を尾外側につけると、画像を得ることができる。尿道球腺は中心に抵エコー領域として血管が描出され、貝殻に形容される。異常所見を認めることは非常に稀だが、左右差を評価する。
前立腺は尿道頚部の両側で容易に描出することができる。無エコー性分泌物で満たされた多発性腺房であるため、しばしばスイスチーズやハチの巣に形容される。腺房の大きさはその馬が受けている性的刺激レベルによる。若い馬ではシストが見られることもある。
プローブを頭側に動かし、精管膨大部の描出を試みる。精管膨大部は最初、前立腺峡部の腹側を走り、やがて膀胱の背外側面を走行し、同側の鼠径輪に向かって腹側方向へ曲がっていく。それぞれの精管膨大部は厚いエコー源性の菅腔として描出され、無エコー性の内腔を認める。なお周囲の構造物とは高輝度の結合組織層で区切られている。
精嚢腺の超音波像は一定しておらず、分泌量の量により様子は大きく異なる。ほとんどの場合、それぞれの腺の基底部は膀胱の頭側かつ同側膨大部の外側、膀胱周囲においては同側膨大部の背側で描出される。通常の精嚢腺は薄く、エコー源性の壁と低輝度もしくは高輝度の内容物を内腔に含む。精嚢腺の分泌物が粘性に富み、密集している場合は高エコー像が得られることがある。これは長期間性的刺激を受けていながら射精をする機会がなかった馬においてよく観察される。精嚢腺は前立腺峡部の下に潜るまで尾側方向にたどることができ、その先は精管と合流する。なお精管膨大部と精嚢腺の描出は膀胱三角がランドマークとなる。