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ビジネスホテルには生活がないから好きで僕は意味なくビジネスホテルに泊まる、ビジネスホテルの空間はニュートラルでリアリティを欠いているのですこし安心して、僕は家にいるより眠れるのだった、iPhoneとBluetoothで繋がったAirPodsから音楽が聴こえてきて、その曲が生活を歌っていたので僕はイライラして耳からそれを外した、もう誰も生活を歌わないでくれ!
僕には生活がないから生活の歌には1ミリも共感することができない、決まった時間に寝たり起きたりしてないから、1日の感覚なんかないし、小さい頃から勉強とゲームしかしてこなかったから、生活のなかのちいさな幸せなんて経験したことがない、ギリギリまで寝て遅刻で学校に行って終われば22時まで塾に行って、家に帰ったら眠くなるまでゲームをして、それが僕のすべての時間だった、もう誰も僕の生活を祝福することなんてできない!
小さい頃から僕の生活は誰にも祝福される必要がなかった、家族の食事は高価な外食が多かったから母の手料理よりも美味しくて大丈夫だったし、成績が良ければゲームソフトが買ってもらえたので学校の友だちと遊べなくても大丈夫だったし、両親が大声で罵り合っていても耳をふさいでいれば大丈夫だった。
大人になって一人で暮らすようになっても、電気やガスが止まるばっかりで自炊や掃除や洗濯なんてまともにできたことはなかったし、夏のあいだはクーラーを一回も消さないから夏の暑さに対してなんの情緒も感じなかったし、今だって僕の家には足の踏み場がないからビジネスホテルの綺麗なベッドはとても寂しくて広い!
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外の世界は生活だらけだから苦手で、僕は意味なく街を歩いたりはしない、散歩は意味ない、僕が外を歩いているだけで、生活を肯定する歌が、生活を肯定する物語が、生活を肯定する広告が、無数に流れてきて、いつも僕は気が狂いそうになる!
仕方がないから冷房のきいたファーストフード店に入って、Twitterでネットミームを見て僕はちいさな笑い声をあげる、家の前でなんかを詠唱している籠池、キチガイのピグレット、象になったマリオ、子どもみたいな喋り方の猫、王騎を演じる大沢たかお、Out Of Context Pokémon、それらを見ていたら勝手に3時間くらい経ってる、そんな薄汚れた生活のことは誰も歌ってくれない!
それでも朝に仕事や学校に出かけて、午前にアイスコーヒーを飲んで眠気を覚まして、終わったら友だちと飲み会に行って、土日はキャンプやバーベキューに行って、夏になったら花火をして、クリスマスが近づいたらプレゼントを買って、そういう安心で幸せな生活よりは、今の自分の方がよっぽどマシだと思う、思うしかない!
安心を買った、生活のない僕の部屋に、Uber Eatsの辛いラーメンと、Amazonの古本と、メルカリの遊戯王カードが、交互に届きつづける、どうしてかココロを売って買った気がしてた、そのようなちいさな永遠を、マシだと思うしかない、これしか僕には選択肢がない!
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生活が嫌いなので代わりに恋愛をする、恋人とどこかへ遊びに行って一緒に僕の部屋に帰ると、僕の部屋は汚いからときどき恋人は僕の部屋を片付けてくれる、そういうときの恋人は生活の光に充ちていてひどく眩しい!
恋人は眠るために薬を飲み、朝起きれば生活を始めるために薬を飲む、そんな薬を飲まないといけないなら最初から生活なんてしなくていい、と言いたくなっても、僕にはそれを言う権利がない、僕が生活を拒否するのは単なる金持ちの自意識であって、実家が細ければ生活を拒否することなんてできない、だから誰もが生活を歌う、生活の終わりより、世界の終わりを想像するほうがたやすい!
生活が嫌いなので誰かとお酒を飲むのも嫌いだ、いわゆる「飲み会」に行くたびに、なんでみんなこんなに寂しいんだと思って泣きそうになる、なんでみんなこんなに薄っぺらいコミュニケーションで満足できるんだと思って泣きそうになる。だから行ったらとりあえずその場で一番おもしろそうな発言だけをするように心がける、もちろん誰とも本当には親密になれず、部屋に帰るとひどく疲れていて、ベッドの上の本とパソコンとを適当に床に下ろして、そのまま横になって眠る、酒が入っていると眠りが浅くて、寝ても5時間くらいで目覚める。そんなものは僕の生活ではない、そんなものを僕の生活だとは認めたくない。
誰もいない想像上のパーティーがあったらいいのに、そこでは馬鹿でかいヴォリュームで音楽が流れていて、誰でも好きに踊ることができる!現実のパーティーからはどうしても隠しきれない生活の匂いがする、ドリンクチケットに600円を払いたくない、受付でQRコードを見せたくない、誰とも話したくないし誰にも話しかけられたくない、90年代っぽい若者も00年代っぽい若者も僕はひとりも見たくない、そいつら全員に生活があることを、今日が終われば平凡な明日があることを、僕は1秒も考えたくない、いつでも、まだ何か足りない。
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みんな生活ばっかりやってるから詩なんか1行も読んでない、僕の書く詩は抽象的で意味不明だからぜんぜん売れてない!みんな行かなくていい飲み会で笑ってる、見なくていいYouTube Shortsで笑ってる、しなくていいTinderで時間を潰してる、作らなくていい食事を作ってる、あげなくていいストーリーを載せてる、だからみんな生活の歌に共感する、もちろん生活からは逃げられないから仕方がない、仕方がないということがまた僕をイラつかせる、僕はイライラしながらイヤフォンをつけて、できるだけ踊れる音楽をかけて、ひとりの部屋であたまを揺らす、僕は生活の1ページを切り取ることなんかできない、あなたに共感してもらえるような生活なんて1個も持っていない、生活はおしゃれじゃない、生活をシェアするな、生活なんかするな、僕を一人にして生活なんかするな。
僕は僕の生活が人生が好きではなかったのでなにかを書くようになった、だから僕はおまえの生活を祝福も抱擁もしない、僕の書くものは決しておまえの生活を彩ることはない、僕の書くものはおまえの理解を拒絶し、おまえの心を傷つけ、おまえに嘘の光を浴びせ、過剰な快楽を与える、生活なんかしなくてすむなら、できるだけしない方がいい、だから僕は嘘しか書きたくない、僕はおまえの人生に興味がない。
おまえもときどき、こういう気持ちになることがあるんじゃないか、と僕は思う、もしそうだったら一緒に遊んでほしい、生活のすべてを拒否する強度が、そのまま僕たちの関係の強度になる、誰にも伝わらないような抽象的な話をして、頭がおかしくなるような豪華な料理を食べて、海と空を見るためにいつまでも砂浜に座る、人間の情況を決定するのは関係の絶対性だけだ、星は生活しない、僕もおまえも人間じゃなくて星だから、生活なんかしない、必要なのは光っていることだけだ。
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眠るまえに、ビジネスホテルの新品の歯ブラシを口に入れたら苦くて、僕は生活の匂いを消すために口をゆすぐ、僕はありのままの生活の小さい幸福なんか書きたくない、僕は生活が嫌いなおまえのために贋物のパーティーをつくるから来てくれ!そのパーティーには人種もジェンダーも年齢も見た目もファッションも学歴も地元も収入も財産も趣味も性格もキャラクターも関係ない、もちろん生活の影なんかどこにもない、夜になっても遊びつづけろ、もちろん朝になっても、それからまた夜になっても遊ぶ、そこにはプライベートな魂しかない、僕はもっと完璧な自由がほしい、I only threw this party for you、ホテルのベッドは今この瞬間だけ、どこよりも過激でうるさい、it's true, it’s true、いつのまにかおまえも僕の隣にいて、目を閉じてあたまを揺らしている!
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