実際の臨床現場でよく遭遇する中毒性物質の誤食について
気をつけているつもりでもちょっとした隙に人間の食べ物などを口にしてしまったり、散歩中に拾い食いされてしまったりといった経験は皆様あるのではないでしょうか?
普段の我々人間の生活の中にはペットにとって危険な中毒性物質がたくさんありますが、全てを覚えておくのは無理ですし、獣医でも調べなければわからない中毒性物質がたくさんあります。
ですが実は臨床現場で実際に遭遇する誤食の内容には偏りがあり、それらを知っておくことだけでも非常に有用です。
今回は個人的に臨床現場で多く遭遇する中毒について、飼い主様に知っておいていただきたいものをピックアップして解説していきます。
玉ねぎ中毒
玉ねぎが犬や猫にとって有害であるということは知っている方も多いかと思います。
実際に玉ねぎを食べて来院されることは多いのですが、玉ねぎをそのまま食べてしまうことは少なく、玉ねぎの含まれている料理(焼く前のハンバーグなど)を食べてしまうことが多いようです。
玉ねぎ中毒では体の中の赤血球が壊れてしまう(溶血)ことで問題が生じます。
症状として、軽症では嘔吐や下痢などを生じ、重症では赤い尿(血色素尿)や黄疸(皮膚や尿が黄色くなる)、貧血、腎不全などを生じることがあります。
気をつけなければいけないポイントとして、重症例における症状は時間が経ってから生じてくることがあるため(2日後以降)、食べたその日に問題がなくても安心はできません。
中毒量は犬で体重1kgあたり約5~30g、猫で体重1kgあたり約5gと言われています。
そして玉ねぎ1つの重さは平均200gです。
つまり、例えば5kgの猫では中毒量が25gになるので、約1/8玉で中毒量になると計算できます。
これらはあくまで計算上であり、その子の全身状態によって変化したり、中毒が体質的に出やすかったりなどがあるため、実際に食べてしまったらその量を把握し、動物病院に検査や治療の必要性を相談しましょう。
チョコレート中毒
チョコレートによる中毒も知っている方が多いとおもいます。
カカオに含まれるテオブロミンという物質によって中毒を起こします。
そのため、食べたチョコレートがミルクチョコレートなどのカカオの含有量が少ないものなのか、カカオの含有量が多いものなのかによって危険度が違います。
また、過剰な糖分や脂質を摂取することによる消化器症状も認めることがあります。
実際の臨床現場では、純粋な中毒による症状は少なく、下痢や嘔吐などの消化器症状の治療を行う必要があることが多いです。
中毒の症状としては、過度の興奮や頻脈(心拍数の増加)、下痢や嘔吐を認めます。
重症例では不整脈やけいれん発作を認めることがあり、また3日以内に急性膵炎を起こすことがあります。
キシリトール中毒
主にキシリトールガムの誤食によって引き起こされる中毒です。
キシリトールにはインスリンを分泌させる働きがあるため、低血糖を起こすことが一番の問題となります。
体重1kgあたり1粒のキシリトールガムが中毒量とされ、容易に中毒量を超えてしまうことが多いです(特にボトルタイプの入れ物を倒して食べてしまった場合など)。
低血糖症状として、ふらつきや意識の低下などを認めることがあります。
また、当日~3日以内に肝臓の障害を認めることもあり、前述の玉ねぎやチョコレートと比較しても放っておくと死に至る可能性が高い中毒といえるでしょう。
タバコ
タバコの誤食は自宅で起こることは少なく、散歩中に道端に捨てられているものを食べてしまうケースが多いです。
タバコに含まれるニコチンが主な中毒物質ですが、ニコチンは吸収が早いため、症状が比較的早く表れるのが特徴です。
はっきりとした致死量などは不明です。
最も高頻度に認める症状は嘔吐で、その他興奮や心拍数の増加、呼吸数の増加、けいれん発作、意識障害など様々な症状を認める可能性があります。
人間の薬(イブプロフェン)
人間の薬の誤食の中でも最も多く遭遇するのはイブプロフェン中毒です。
イブプロフェンは頭痛薬や痛み止め、湿布などの多くの薬に含まれています。
主に下痢や嘔吐などの消化器症状、腎不全を生じます。
特に猫では犬に比べて少ない量で重傷化リスクが高いです。
誤食時の治療
誤食が確認された場合は、自己判断せずにまずは動物病院へ連絡しましょう。
また、吐かせるためにご自宅で塩を飲ませるのは危険なので絶対に避けてください。
病院では中毒性物質の種類や量、食べてしまってからの時間などによって処置は変わりますが、概ね以下のような処置が行われます。
薬剤による催吐(吐かせる)
胃洗浄
活性炭の投与
輸液
最も実施されるのは催吐処置です。
催吐剤は病院によって使用するものは異なりますが、吐いてくれる確率は100%ではありません。
また、誤食して時間が経過している場合にはすでに中毒成分が吸収されてしまっているため、適応とならないことがあります。
その他、すでに頻回に吐いている場合、誤嚥性肺炎のリスクが高い症例、ガソリンや灯油などを誤食している場合、意識レベルが低下している症例などでは危険なので実施されません。
活性炭は非常に有用ですが、
キシリトール中毒など、活性炭があまり有効でない物質もあります。
まとめ
臨床現場では玉ねぎ、チョコレート、キシリトール、タバコ、薬の誤食が多い
玉ねぎによる赤血球の破壊は2日後以降に生じることがある
チョコレートはカカオの含有量が重要
キシリトールガムは比較的中毒量が少ないので、まとめて食べてしまう可能性のあるガムのボトルには特に注意
タバコによるニコチン中毒はすぐに症状を認めることが多い
イブプロフェンは多くの薬に含まれており、特に猫ではリスクが高い
少しの量でも自己判断せずにまずは動物病院に連絡しましょう
塩で吐かせるのは危険なので絶対にしないようにしましょう
最後まで読んでいただきありがとうございました。