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約30年前のニューヨーク・語学留学回想記①
ちょっとしたブームだったOL海外留学。会社を辞めて海外へ行く女性がカッコよく見えて私もニューヨークへ。
なぜNYかというと、その何年か前、舞踏の大駱駝艦北米ツアーにおける裏方お手伝い&ベビーシッターという、なんともレアなバイトで訪れたとき街の空気に心底陶酔したから。(このレア体験談は今度書きます)
NYでは最初、友達と彼(日本人)の部屋に居候。その彼は仕事がら不在がちだったので、私は友達と二人で気兼ねなく新生活をスタート出来た。
回想してたら「にしても華やかやのう」とツッコミたくなる。この乖離感て、歳のせい?とも考えたがいやきっと
いまやアホのひとつ覚えみたいな立ち位置にされてる気がして、少し気の毒にも思うがそれは【バブル】さんだ。
日本が誰にも止められない状態、桃鉄でいうと、さくま鉄人の絶好調(桃鉄知らない方すみません)みたいな。
友達の部屋はソーホーにあった。当時は芸術家が集まる街として有名で石畳の道が落ち着いた雰囲気を醸し出す。が、大通りをひとつ渡ると街の顔は一変、チャイナタウンとリトルイタリーが隣接する賑やかな区域だった。
隣り合うもの*ひと*ことって、なぜか争いがちで、チャイナタウンとリトルイタリーの抗争話もたまに聞いた。どっちのマフィアも強そうだなぁと思った頃から、約30年あまり。NYの友達によると、今現在はチャイナタウンがそのほとんどを占めているらしい。
くぅぅ。アル・パチーノよ何処へ。
学校はソーホーから近いワシントン・スクエア公園の向かい側にあったNY大学英語センター。レベルごと6クラスあり私はもちろんレベル1。
英語レベル1あるいはゼロで、母国語・年齢・文化・宗教バラバラの人間が集まったクラス。ある意味最強といえる。
そもそも母国で英語授業を受けたことがないって子も
「ハウオールドアーユー?」
聞くと、腕時計を見ながら
「ええっとぉぉ、テン」
と答えるような。
私はといえば、クラス分けテストの問題文さへ読めずI'm sorryとだけ書いた。なんなら「r」ひとつ足りなかったかも。
そんな集まりで授業開始から数日後、親睦会だと街へ繰り出した。日本、韓国、ブラジル、アルゼンチン、ルーマニア(他の東欧だっかも?)混合チーム。
アップテンポの音楽と大声早口ニューヨーカーたちで喧騒マックスの店で、NY初心者なら、ふつうは二の足を踏むような店だが、レベル1なのでそこにも気付かない。
ウェイトレスに何度も「はあ?」と(屈辱的に)聞き返されつつオーダーしたら、今度はメモを片手にペラペラペラペラ怖ろしいスピードで【なにか】を聞いてくる。
たぶん、お酒のサービスタイムとか料理の確認なんだろうけど、
けどな、けどよ、ワシらは
英会話理解不能世界集団
なんだぞ!
「ahh」「eettoo」「ww〜」
答えるフリはするけど、基本半笑いで、ウェイトレスを眺めている。
「まって……英語……出来ないの?」
世界半笑い集団に見つめられハタと気付いたか、眉間に皺寄せたウェイトレスがつぶやいた。
それなら理解出来る「イエス!」
私は「はい、出来ませんねん」と、言いたかったのだが、英語的にそれは間違い。他の子が慌てて「ノーノー!」
そんな寸劇をジィーと見下ろし(あるいは見下し)ていたウェイトレスは、ひとりひとりを指差して
「ユーはどこから来た?」
ユーは何しに?みたいに聞いてきて
日本、ブラジル、韓国、アルゼンチン、ルーマニアと、皆が答えると
「ふーん。全員違う国から来て、全員英語分からないんだ。じゃああんたたち互いに、何語で話してるわけ? ウケるーアッハッハ」
大笑いしながら厨房へと去っていった。
彼女の身振り手振りから、だいたい何を言われたかを理解した私たち
「ん? ほんとだー!? アーッハッハ」
自分らでも驚いて、大いに盛り上がった。
なにもかもがレベル1だ。
そんな生徒たちを前に、担任のM先生は自分との交換日記を義務付けた。これはいい勉強になった。
先生からの返信は、どんな教科書より生きた綴り方文法だ。辞書を抱えて悪戦苦闘したが、先生の家族やアメリカの日常生活を知ることが出来て楽しかった。
そして当たり前だが先生はプロ先生。
各国の発音癖にも細やかな指導を行った。韓国チームには主にパピプペポ。コーヒーと教室のコピー機を交互に指差して発音させた。
日本チームにはRとL。リナに自分の名前を書かせ(RINAと書く)読ませる。
「今の発音なら君の名前はこう」
黒板に大きくLINAと書いた。
M先生は、たった三か月で、そんなどうしようもないクラスの半分以上を飛び級させた。どさくさに紛れて、私もレベル3へと進んだ。
つづく