第1章「ステップ1:誰に、何を、どうして伝えるか設定する」――『一生役立つ3ステップで伝える技術』

すべては「誰に」「何を」「どうして」の設定から始まる

「上手なトーク」「上手なスピーチ」とはなんでしょうか?

思いつくままにいくつか挙げてみます。スラスラしゃべる、説明がわかりやすい、ユーモアに富んでいる、自信にあふれている、知識が豊富、思いのままに人を操る…

どれも正解です。みなさんもいろんな答えが思い浮かんだでしょう。上手に見えるトークやスピーチの特徴は、たくさんあります。

ただ、それらの条件をぜんぶ満たして話すのは、至難のワザです。そもそも、ひとことに「トーク・スピーチ」といっても、会社のプレゼンから日々の雑談まで、たくさんの種類があります。いってしまえば、「上手な話し方」はケースバイケースで異なります。

しかし、目標がいくつもあると混乱しますから、ここでは上手な話し方の条件をシンプルに定義します。

上手な話し方とは、目的を達成するために伝えたいことを相手に届ける話し方である。

会社の企画プレゼンを例に考えましょう。目的は、自分の企画を通すことです。いくら饒舌に話しても、主張が相手に伝わらず、企画案が採用されなければ意味がありません。反対に、たどたどしい口調でも言いたいことが相手に届き、企画が通れば成功といえるでしょう。

さて、先ほどの上手な話し方の定義のうち、時と場合によって異なる部分を太字にします。

「上手な話し方とは、目的を達成するために伝えたいこと相手に届ける話し方である」

話し始める前に、太字の部分を明確にしなければいけません。

まず「誰に(WHO)」「何を(WHAT)」「どうして(WHY)」伝えるか決めましょう。この3つを具体的に設定することから、すべてがはじまります。

その話の目的は何ですか? その目的を達成するためには、誰に何を伝える必要がありますか? これらの問いについて考えることが、上手な話の第一歩なのです。

目的を明確にする ~WHYを決める~

話には必ず目的があります。

大学の講義であれば「相手に授業の内容を理解してほしい」、ジョークであれば「相手を愉快な気持ちにさせたい」などなど。どうでもいいような雑談でさえ、「時間をつぶすため」とか「なんてことない会話を楽しむため」といった目的があります。

話の目的は、わざわざ意識されないことも多いでしょう。しかし、上手にトークを繰り広げたいときは、何のために話しているか自覚しておくべきです。

なぜなら、話の目的はしばしばすり替わってしまうからです。

例えば、Twitterなどでとあるニュースについて意見を交わしていたのに、いつの間にかケンカに発展している、なんて事態はよくみかけます。

はじめの目的は「意見の交流」だったはずですが、いつの間にか「相手を傷つける」に変わっているのです。目的をキチンと定めないと、不毛なやりとりに陥ってしまいます。

また、複数人で作業する場合も、目的を定めていないと危険です。

みんなでプレゼン資料を協力して作成していたけど、だんだん目的のズレが発生して、結局最初から作り直しなんて事態はザラにあります。目的を共有していないチームは、必ずすれ違いが発生するのです。

何のために自分は話しているのか。最初にじっくりと考え、その目的から外れていないかつねにチェックしましょう。

伝える相手を考える ~WHOを決める~

目的を決めたら、次に話を伝える相手を考えましょう。極端な話、相手が小学1年生の子どもの場合と大学教授の場合では、話し方がまったく変わります。相手が決まっていないと、話し方もボンヤリしてしまいます。

伝える相手を決めるとき、人物像が想像できるくらい具体的にターゲットを設定するのがコツです。

会社のプレゼンであれば上司や取引先。結婚式のスピーチなら参列者ですね。具体的な相手が不明な場合もあります。例えば、講演会であれば、当日まで観客がわかりません。YouTubeなどの動画配信も、視聴者の姿は直接みえません。

相手が不特定多数の場合は、ターゲットについて想像力をはたらかせましょう。

例えば相手の属性について考えます。性別は? 何歳くらい? どこに住んでいる? 家族構成は? 職業は? などなど。

また、具体的な人物像をつくりあげるのもオススメです。その際は、相手がどんな本を読んだり、どんな動画をみたりしているのか考えると、イメージの形成に役立ちます。

スピーチ・トークは相手について詳しければ詳しいほど有利です。ターゲットは明確にしたうえで、話の戦略を決めましょう。

「公」と「私」を間違えない

話す相手は「公」か「私」かの見極めは重要です。両者では話し方が大きく変わります。

プライベートな空間では「主観的」な表現が許されますが、公的な場面では「客観的」な表現が求められます。

私的な場にいるのは、あなたについてよく知っている人だけです。そのような場では、自分の感情を前面に押し出して話しても、耳を傾けてくれるでしょう。

しかし、公の場であればそうはいきません。話す相手は見ず知らずの人物かもしれません。もちろん、相手もあなたのことを知りません。特定の立場に関係なく、誰にとってももっともらしいことを話す必要があります。

公私混同は、一発で相手の信用を失います。自分の話にどれだけ社会性が求められるか、よく吟味しましょう。

「相手にどう思ってもらいたいか」を考える ~WHATを決める~

「誰に伝えるか」を設定したら、次は「何を伝えるか」を決めます。

このときに「自分が何を言いたいか」にこだわってはいけません。そうではなくて、目的を達成するために「相手にどう思ってもらいたいか」を考えましょう。

「自分が何を言いたいか」と「相手にどう思ってもらいたいか」って同じじゃないの? と思ったかもしれません。しかし両者は似ているようで大きく違います。

例え話をしましょう。Aくんはとっても面白い映画を観ました。友達にもぜひその映画を観てほしくて、電話をします。

「もしもし! すごいから聞いてよ! 怪獣が目からビームを出すんだ!でね、敵がウギャーって叫んでね、でもね、倒したと思ったらもっと強い敵が出てきてね…」

こんな調子でずうっとベラベラしゃべったとします。友達にその映画の面白さは伝わるでしょうか? もちろん、伝わりませんね。

Aくんは「どんなに映画を面白かったか」を興奮のままにしゃべっています。しかし、Aくんは相手をおいてけぼりにしたままです。映画の話であるという前置きすらしていません。聞いているほうは意味不明です。

彼の目的は「友達にその映画をみてもらうこと」です。そのためには「どのくらい自分が面白いと思ったか」ではなく、「どうしたら相手が面白いと思うか」について考えなければいけませんでした。

まとめます。自分の話したいように話して後は相手に委ねるような態度は、ほとんどうまくいきません。目的から逆算して、相手にどう思ってほしいのか考えながら話しましょう。

テーマをひとことでまとめる

自分の話について、テーマ(何を伝えたいのか)をひとことでまとめましょう。

テーマとは、①これからどんな話をするのか、そして②自分の主張は何かです。自分の意見が求められない場合は①、求められる場合は①と②を盛り込みましょう。

どんなに長く複雑な話をする場合でも、聞いている人に「要するにどういう話なのか」わかってもらわなければなりません。テーマがわからない話は、相手にとって大きなストレスです。

たまに、テーマが決まらないまま「話しているうちになんとかなるかなあ」と行き当たりばったりで話している人を見かけます。しかし、たいていの場合はなんとかなりません。話しながら考えるのはかなり難しいからです。

テーマがまとまらない場合は、紙に書くなどして、考えを整理してから話しはじめましょう。

反対にテーマさえ決めておけば、とても話しやすくなります。

まず、話の初めかたに迷わなくなります。いちばん最初に「いまから伝えたいことは○○です」と言いさえすればいいのです。

さらには、ことばが詰まったときにも便利です。「要するに、○○ということです」と言えば、いかなる場合においても自分の主張に戻ってこれます。

関連して、もう一点。文章やスピーチのタイトルは雑につけてはいけません。「タイトル=テーマ」です。

タイトルが雑だと、話全体がいい加減なのだと判断されます。限られた字数の内で、どうすれば相手に言いたいことが伝わるか、どうすれば相手に興味をもってもらえるか、じっくりと検討してタイトルをつけましょう。

聞いている相手の負担を減らす

「誰に」「何を」「どうして」伝えるか決めたら、その次は「どのように」話すか考える作業に入ります。具体的には、どのように話を組み立てるか、どのような語彙を用いるか、どのくらいの時間を設定するか、などです。

その際に、覚えておいてほしいことがふたつあります。それは「言いたいことは想像以上に伝わらない」「相手は想像以上に飽きっぽい」ということです。この2点を頭に置いておくと、話し方がまるで変わります。

まず、むずかしい用語を使うのに慎重になります。知らない単語を連発すると、相手はそっぽを向いてしまうかもしれません。

また、ダラダラ長い時間話さないようになります。相手が飽きないうちに、話は短く端的に終わらせる。トークが長時間になる場合には、飽きさせないようにちょっとした雑談を交える。といったような工夫をこらすようになります。

トーク・スピーチの成功は、自分ではなく相手次第です。聞いている方の立場に立てば、「どのように伝えるべきか」について、しぜんと意識が及ぶでしょう。