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にんじんが見当たらない
変な時間に昼を食べて、お腹がいっぱいになった。
レトルトのたらこスパゲティ。味がしないがうまい。
外には洗濯ものが揺れていた。ヒートテックとタオルを数枚、下着と靴下を今朝おそくに干した。
今日の最高気温は3度で、晴れだから乾くだろうと期待しているけれど、こんな時間でもなかなか。
オレンジジュースを飲んだ。酸っぱい。
甘いのよりはまし。
だんだん眠くなる。眠くなると夢と現実の境にいるようなことを考えるようになる。自分がしたいこと、したくないこと。したくてもできないこと。
それを考えて、考えて、昼寝をするときもあったし、今は何が何でも起きている。理由はよくわからない。
夫がドイツ語のラジオを聞いている。さっきから、ずっと聞こえる、どこかの学者の演説。挑戦、比喩、仲間外れ、の3語だけは理解できた。
またオレンジジュースを飲む。昔は粒が入ったものがよく打っていたけれど、今はほとんどない気がする。会っても高いかもしれない。
最近、欲しいと思うものが恐ろしいほどなくて困っている。いいことなのではないか、と思われるかもしれないけれど、結構怖い。
本当に、何もないのだ。日々、生活をしていければ、それ以外は特に何もいらない。最近まで、ありったけの映画と、その映画を見るためのありったけの時間が欲しいと思っていた。
そして、映画を8本借りた。そしたら、2本も観ないうちに飽きて、結局そのまま返してしまった。
20歳のころは、一日中でも見ていられた。一日6本とか見ていた日もあった。どんなつまらない映画も、インディーズも低予算も観た。くだらないポルノか何かわからないようなのも見ていた。
けれど、今はもう見たくない。ディスクが中で回るだけでうんざりする。配信サービスなんてもっと嫌だ。
映画以外にはミスドだった。ミスドを全種類食べたい。思いっきり食べたい。パイも、マフィンも、なんでもかんでも食べたいと思っていた。ドトールのミラノサンドを全種類食べたい、とも。
いまは、いらない。家で夫と静かにクッキーを焼いて食べていたい。おいしいコーヒーを淹れて、窓辺に座ってゆっくりしていたい。クッキーもコーヒーもあってもなくてもいい。
まずいな、これは。わたしはどこかへ行ってしまうのではないか、飛ばされて消えてしまうのでは、と思うようになった。
そうだ、風呂へいこう。温泉にでもつかれば、考えが変わるかもしれない。前は、毎日でも温泉に入りたかった。回数券を見て、本気で買おうかどうか迷っていた。
いまは、ひとりで入りたい。家の狭い風呂で、ゆっくりとぬるい湯にいつまでも浸かっていたい。こんなんじゃ、ダメだよなあ。
もう目の前にぶら下げるにんじんがない。
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