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〔翻訳〕海 詩・M. K.チュルリョーニス
強大な海。壮大で、果てしなく、計り知れない。すべての天空がその青であなたの波を包み込み、そしてあなたは威厳に満ち、静かに穏やかに息をする、それはあなたの強大さ、偉大さ、果てしなさに限りなどないことを知っているからだ。偉大な、強大な、偉大な海!夜には世界の半分があなたを見ていて、遠くの太陽はそのきらめく神秘的で眠たげなまなざしをあなたの深みに沈め、永遠の巨人の女王であるあなたは、穏やかに静かに呼吸している。
あなたは顔をしかめ、その青い顔に不満を浮べているようだ。顔をしかめているのか?まさか怒っているのか?果てしなく偉大な底知れぬ海よ、誰があなたに立ち向かう勇気があろうか?
そして、海から答えが返ってくる。そっとつぶやき、揺れ動く岸辺の草を取り囲み、言った。「風だ、風だ、風だ」
はかない風は、迷い、さまよい、消えゆき、無色である。卑劣なジャッカルのようにうめきながら、あてもなく走り、森を破壊し、砂塵に飛び込み、火を放ち、古い墓地の十字架を破壊し、貧しい小屋を取り壊す。
静かな柳は風にひれ伏し、つつましい花々はその怒りに怯えて地面にしがみつく。彼らはかよわく、もろい。
そしてあなたは顔をしかめて、眉をひそめる。永遠の巨人の女王よ、何千世紀もの間、宇宙のきらめく太陽に照らされ、いつも冷たく穏やかで、不安を抱いている。
それはもはや、あなたの波が自らの手に負えないからなのか?
風はすでに波を操り、その先頭に立って羊の群れのように駆り立てている。
ごらんなさい、ごらんなさい、彼らはみな風とともに走り、そのすべてがひとつになり、その数は何百万にもなり、さらに増えていく。女王よ、ひとりでも引き止めるのだ。
なんと恐ろしい群衆だろう!水平線から水平線まで、波、波、波……
ごらんなさい、あなたの巨人たちが立ち上がりつつあるが、もはやあなたの力は及ばない。 大いなる海よ、泡をたてるのだ!
風は波に、数百里先の岩を砕くよう告げた。彼らは自信満々に走り、吠え、冷たい石に弱い胸を打ちつけ、そして滅びる。新たな列も立ち上がり、そして滅びる。
風は新たな大群を引き連れ、ついには波に追いつかれ、すべてを投げ捨てて口笛を吹きながら去る。
そしてあなたは泡を立てている、海よ、偉大で無力な者よ。
風はとうに去った。あなたは自分の波や 残骸を蹴って、かろうじてそれを抑え、子供のように文句を言っている。海よ、何に文句を言っているのだ?
わずかな泡が立つだけで、それ以上は何もないのに生き生きとした波をかわいそうだと思うのか?
哀れむな!また時が来て、風が吹き、向こうから新しい波が立ち上がり、風が好きなところにそれらを吹きつける。そうすれば、活発な巨人たちに不足はなくなり、そして少しの泡のほかは何も残らなくなる。
(M. K.チュルリョーニス作)
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出典:
Žodžio kūryba, Mikalojus Konstantinas Čiurlionis, Vytautas Landsbergis, Lietuvos rašytojų sąjungos leidykla, 1997