エバーグリーンノートという考え方
情報がドサドサとあふれかっているこの高度情報化社会。私たちが日々接する情報はますます増え続け、情報収集よりも情報整理の方に目を向けねばならぬ時代になってきました。
ただ、一口に情報をまとめると言ってもそう簡単ではありません。古くは紙のノート、ちょっと進化してルーズリーフや京大式カード、そしてデジタルノートと情報整理の方法は増え続けています。
どのような形をとるにせよ、常に問題となるのは集めた情報をいかにして「使える」形で残しておくか。情報管理が紙から検索性の高いデジタルに移行しつつある現在でも、その問題はいまだ解決されていません。
そこで今回は、このブログの初心に帰って「研究ツールを考える」一環として「エバーグリーンノート」という考え方をご紹介いたします。
○エバーグリーンノートとはなにか
Ever green notesとはAndy Matuschak氏が提唱している概念で、緑を育てるようにノートという「環境」を管理し、単に情報を集めるだけでなく使いやすい形で整理しようというものです。
ノート術としては比較的新しい考え方のもので、テック的な技術論とgreenというエコロジカルな思考が融合している点なかなかユニークなのですが、今はおいときましょう。Andy Matuschak氏によれば、エバーグリーンノートは次のような特徴をもっています。
①「エバーグリーンノートの情報は単一的であるべきだ」
これは情報管理の際によく言われることですね。要するに、1枚1アイデアの法則というやつで、よくばって詰め込むと整理がしにくいしノートとしても見えにくくなるぞ、ということです。こうした情報量の制限を物理的に行おうとした嚆矢が京大式カードですね。1カード1アイデア。
②「エバーグリーンノートはコンセプト志向で作るべきだ」
たとえば作者や本という単位でノートを作るより、コンセプトでノートを作るべきだとAndy Matuschak氏は主張します。そもそも本1冊で1ノート作ろうとすると、多くの場合①の原則に抵触します。では章ごとに分ければOKかというと、それではせっかく自分でノートを取っているのに本の形態に振り回されている感じですよね。本全体の中でノートを取りたい部分=興味がある部分に関してノートをとっているはずなので、「読書ノートの共有方法」みたいなコンセプトで情報を管理したほうが、自分の関心に合っていますし、ほかの本や記事との接続もしやするくなというわけです。
③「エバーグリーンノートには緊密にリンクが貼られていなければならない」
1ノート1アイデアといっても、関連する話題のカード群というのは存在します。アナログだとカード間のリンクを貼るのは難しいですが、デジタルだと一発です。
しっかりとリンクが貼られていれば、過去のノートが埋没しにくくなるでしょう。なにかのトピックについて考えているときに、「あ、そういえばこのノートもあったな」という感じで。
リンクを貼ることは、ノートを育成・管理しようというエバーグリーンノートの発想に必要不可欠なのです。
④「エバーグリーンノートは分類よりも連想を好む」
リンクを貼るときには、カテゴライズするというよりもネットワーク状になるよう工夫しましょう。
たとえば「夏目漱石」とかでノートをまとめてしまっては、リンクを貼った意味が薄れてしまいます。それならアナログノート一冊に「夏目漱石」とタイトルをつけてメモをとったほうが有意義でしょう。
ある話題からある話題へ、ネットサーフィンをするようにいろんなノートを横断していける。そういう庭作りが理想的です。
⑤「他人のためではなく、自分のためのノートを作ろう」
多くのノートは、ひとまず自分が使うためにとるものです。整理の仕方や略号が他人から見て意味不明でも、自分にとって使いやすければそれが正義なのです。
だから、私たちはひとまずpublishable form(公開できる形)でノートをとることを考えなくてもいいでしょう。エッセイ集や論集としてnoteをまとめることを考えてしまうと、せっかくatomicなものとして作っていたノートが大きな文脈に回収されてしまいますし、気軽にメモをとることも難しくなってしまいます。
だいたいこの5つの原則を押さえておけば、エバーグリーンノートの概要はつかめたと言ってもよいでしょう。参考までに、エバーグリーンノートについて解説しているブログ記事のリンクを貼っておきます。特に倉下さんは情報整理に関する第一人者なので、興味がある方はブログの他の記事を読むこともおすすめします。
○エバーグリーンノートと研究
要するにエバーグリーンノートでは、情報を使える形で管理し、育んでいくことが推奨されます。私たちはノートをとっても、それを引き出しのすみに(あるいはフォルダの奥の方に)放り込んであとから活用することを忘れがちですから。
たとえば研究において、エバーグリーンノートの考え方は非常に重要だと考えています。
そもそも文献管理は研究の基本。過去に読んだ論文や書籍の情報をしっかりと把握して、適切な形で論文に活かすことができなければなりません。私はそのためにnotionを利用していますが、なにを使うにせよ長く研究を続けることを考えれば10年後でもその情報が使えるようにしておきたいものです。
あるいはふと思いついたアイデアも、使える形で残しておけばいずれ研究に活かせるかもしれません。とりあえずリンクを貼っておけば、アイデアを思いついたことすら忘れた時期になっても過去に残したノートがふと目に留まる機会も訪れるでしょう。
加えて草木のようにノートを「育てる」という考え方も、研究という営みと相性がよいものだと思います。なんとなく大事そうだな、と感じたことがらにリンクを張り、アイデア同士をつないでいくことによって最初は小さかったアイデアが、ひとつの論文としてまとまるかもしれません。
それは、卒業論文をさっさと書いて大学を出ていくつもりの人も同じです。人生いつなにが役に立つかわからないわけですから、卒論が書けるくらいに調べた事柄についてはぜひ使える残しておくべきでしょう。それはきっと、思わぬ形であなたを助けてくれます。
もちろんここまで書いたことは、研究だけでなくビジネスでも基本的に同じことが言えるはずです。
○具体的にどうするか
先に書いたように、私の場合は論文管理にnotionを使っています。細かい方法については書いたことがあるので、ぜひその記事をご参照ください。
ただnotionでは、具体的に論文や学会発表をすることを想定したまとめ方をしていますので、連想していくというよりは分類していくという意識でページを作っています。
具体的な研究(ビジネス)になる前のアイデアやメモにリンクを貼って育てていくなら、scrapboxがいいと思います。
くわしい使い方はまた記事にするつもりですが、リンクを貼ることを強く意識したカード式デジタルノートみたいなものでしょうか。けっこうエバーグリーンノートの考え方が内面化されたツールだと感じます。
これを使えばノートにがんがんリンクを貼っていけますし、リンク先を確認するのもラクなので、エバーグリーンノートが推奨するネットワーク式のノート管理が比較的容易にできるはずです。僕も現在、notionの一部にscrapboxへのリンクを貼る形でふたつのツールをつなぎ、いいとこどりをしようと画策しているところです。
まあとにかく、どんなツールを使うにせよ書いたものを書きっぱなしにしない、その姿勢が一番重要です。なぜ自分はノートを残そうとしているのか、それを意識しながら適切な情報管理の仕方を考えていきましょう。
自分にとってのベストと他人にとってのベストは違いますから、合うものを探してみることが大切です。Write notes for yourself!
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