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博士後期課程への進学を勧めたい
背中を押してほしいんだろう。じゃあ、俺がやるよ。
俺は現役の博士後期課程(いわゆるドクター)院生だ。日本の近代文学を専門としてる。
念のため補足しておけば、大学院は前期課程と後期課程に分かれてる。前期を卒業すると修士(マスター)、後期を卒業すると博士(ドクター)の称号を得ることができる。日本では、前期課程が2年、後期課程が3年。ただ、分野によってはドクターの取得に4年かかったり5年かかったりする。
マスターへの進学に悩む人間は、そこまで多くないし、実際気軽に行って問題ない。就職もふつうにできる。なんなら給料が上がることもある。学部と合わせて6年間、じっくり勉強すればいい。どんどん行け。
問題はドクターへの進学だ。ここは悩みどこだ。人によっていろんな事情がある。お金とか、時間とか、就職とか。ほんとに研究は大学でしかできないのか、とか。アカデミアに未来はあるのか、とか。
けどそんなことをぐだぐた考えてたら、ドクター進学なんて勧めてられない。誰も無責任なことを言いたくないから、なかなか進学した方がいいとは言えない。でも、いろいろ迷ってしまうからこそ背中を押してほしいやつもいるはずなんだ。
だから俺が無責任の責任を負うよ。
ドクターのいいところ①:研究し放題
給料は発生しないが、大学院生は研究が仕事。研究してるやつが偉い。研究が好きなら、研究だけしていればOKだ。天国だ。
大学内なら研究のためのデータベースや書物に容易にアクセスできる。個人で契約すると数十万するデータベースもあるから、このへんはありがたい。
うまくいけば、研究費ももらえるようになるかもしれない。そうすれば研究に必要な機材や書籍は買い放題だ。好きなだけ研究に没頭できる。
で、それが金になるのか?でもアバターがゲーム実況してしゃべるだけで稼げるのが現代社会だ。いま金が稼げることに合わせてやることを決めるんじゃなくて、やりたいことで金を稼げるよう工夫してみるのも面白い。金になるのか?金にしよう。
ドクターのいいところ②:論文が活字として残る
修士で論文を出す人もたくさんいる。だが、博士課程に上がれば学会発表したり論文発表したりする機会は飛躍的に増すはずだ。
いまはギリギリ紙ベースで学術雑誌が刊行されてる。論文を出せば、自分の文章が載った本が世に出ることになるわけだ。これがなかなか感動的。何度目でも、論文が活字として残ることは承認欲求を満たしてくれる。気持ちいい。
ドクターのいいところ③:フレックス勤務
研究室によってはコアタイム(勤務時間的なもの)があるところもある。けど文系の研究室なら、基本的にいつ研究しようがいつ研究しなかろうが成果さえ出せば文句は言われないはずだ。いわば完全なるフレックス勤務だ。
朝が弱ければ午後に起きてもいいし、電車が混む時間を外すこともできる。そもそも必要を感じなければ出社することすら必要ない。テレワーク!
勤務時間だけでなく勤務日程も自由だ。土日はホテル代が高い。なら、平日に旅行すればいい。有給を申請する必要はない。
ドクターのいいところ④:思わぬ出会いがある
院生としてぶらぶらしていると、おそらくサラリーマンをしていたら出会わなかったな、という他大学の院生とか他分野の先生などと出会う機会がある。
中には強烈なパーソナリティをもっている人もいる。飲みに行くだけでかなり面白い。
「こいつが偉くなったら『ユリイカ』とかで思い出話を書いて小遣い稼ぎしよう」などと妄想するのも一興だ。
ドクターのいいところ⑤:時間がある
こんなこと書くと真剣に研究してないんじゃないかと思われるかもしれない。だが実際、少なくとも俺の観測範囲では、仕事をしている人よりは文系院生の方が時間に余裕がありそうに見える。
研究するのも大事だが、こうやってnote書いたり読書会やったりすることにも意味があるんじゃないかと思ってる。そのための時間を、ドクターなら自分の采配で確保することができる。
やりたいこと何でもやっちまおう。
ドクターのいいところ⑥:奨学金が充実してきている
ドクター進学を迷わせる原因の多くは就職の問題と在学中の経済的な問題だろう。前者は頑張るしかないし、俺も就職してないからなんとも言えない。だが後者に関して言えば、最近給付型の奨学金が増えてきている。
昔からあるいわるゆDC(日本学術振興会の奨学金)の他にも、JSTが給付している奨学金、文系ならサントリーの奨学金、調べてみると給付型の奨学金は少なくない。
片っ端から応募すれば、どれかひとつにひっかかることは十分期待できる。もはや奨学金に関しては、実力というより熱意の問題、という時代かもしれないのだ。
ドクターなら授業料の免除も通りやすい。給付ではなく借りる形式の日本学術支援機構奨学金も返還免除が狙える。経済面に関しては、時代はちょっと追い風だ。
ドクターのいいところ⑦:博士号がもらえる
「博士」とか「Ph. D」って、かっこいい。
ドクターのいいところ⑧:チャレンジができる
仕事だと、若手のうちは研鑽の時期で大きなプロジェクトなんかを運営するのは難しい。だがドクター院生は、むしろどんどん大きな雑誌や学会に進出していくことが奨励されてる。
シンポジウムや雑誌の特集企画、同人誌の刊行なんかも「やりたい!」と思ったらどんどん実行可能だ。止める指導教官はあまりいないはずだ。
ある意味、若手のチャレンジがこんなに許されている世界はないんじゃなかろうか。
ドクターのいいところ⑨:実は企業から期待されているかもしれない
文系のドクター出身者は一般企業にやとってもらえないというイメージがある。でも本当にそうか?
これを見てほしい。中央教育審議会の資料だ。スライドの46ページに大学院出身者の採用状況について説明した箇所があるが、「文系の大学院修了者の採用実績がない企業について、その理由で最も多かったのは「文系の大学院修了者からの応募がないから」(50.8%)」とある。
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20220721-mxt_daigakuc03-000024064_3.pdf
つまり院生の側のアピール次第では、企業に「こいつが欲しい!」と思わせることは十分可能かもしれないってことだ。ドクターに進学する学生が増えれば、企業の側が内部のドクター取得者比率を気にし始めることもあり得るだろう。大学教員になれなかったらお先真っ暗なんてことはないはずだ。
ドクターのいいところ⑩:なんだかんだ行ったやつは後悔してない
そりゃいろいろしんどいこともあるし、途中で連絡がつかなくなるやつもいる。でも、なんだかんだドクターに進学したことを心底後悔してる人間はみたことがないし、みんなそれなりになにかを得て去っていったり卒業したりしてる。
行く前は迷うかもしれないが、行ったあとはやるだけだ。ドクターに進学しなけりゃいい人生が送るなんて保証はないだろ?
見るまえに跳べ
将来がどうとかああとか、なに賢しいことを考えてるんだ。なんなら進学してから迷えばいいじゃないか。どうせなんだから、人生くらい失敗するなら失敗してもいいだろう。たぶん野垂れ死にゃしないよ。
たしかに大学には逆風が吹いてるが、なんで他人の吹かせた風でこっちの進路を変えなきゃいけないんだ。風向きぐらいなんとかなるさ。でかい扇風機でも作ればいい。一緒にやろうや。
俺は軽率に進学を勧めることにするよ。みんな賢すぎるんだ。
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