限られた予算のなかでユーザーテストを実施する方法【UXデザイン】
予算に制限がある場合でも、創造的なアプローチやリソースの効率的な活用によって、価値あるフィードバックを得ることは可能です。この解説を通じて、ユーザテストの計画から実施、フィードバックの分析まで、実践的なアドバイスを提供したいと思います。
ユーザーテストをフルで外注すると数百万円になることも
ユーザーテストに時間とお金をかけられる場合、全工程を外注すると数百万円の費用がかかることがあります。これは、単純に多くの人数を集めるのではなく、設定されたペルソナに合致する特定のユーザー(パネル)をリクルーティングし、マジックミラー付きのインタビュールームを予約し、それぞれのスケジュールを調整する必要があるからです。
さらに、当日は選ばれたパネルに対してインタビューを実施するインタビュアーや、別室でマジックミラーを通じてモニタリングするUX担当者が必要になります。また、テストの内容に応じてインタビュールームのアイトラッキングなどの施設設備も利用する必要があります。これらの工程を丁寧に組み立て、実施するには、やはり大きな費用が発生します。
ユーザー(パネル)のリクルーティング
ユーザテストを初めて行う際、多くの人が最初に戸惑うのはユーザのリクルーティングです。UXデザインやユーザテスト予算がしっかりと確保されたプロジェクトでは、リサーチ会社の利用が一般的です。国内では、楽天インサイトやマクロミルなどがよく利用されます。これらのリサーチ会社を通じて、年齢、性別、年収、居住地域など、非常に詳細な条件を指定して質の高いユーザを選定することが可能です。
しかし、UXデザインをこれから始める企業やプロジェクトでは、ユーザテストに大きな予算を割けない場合もあります。そういった場合は、インタビュープラットフォームを利用することをお勧めします。これらはマッチングサイトのように機能し、比較的低コストで条件に合ったユーザを探し、直接インタビューすることが可能です。
予算や時間がさらに限られている場合、自分たちの周りで容易に声をかけられる人々の中から、ペルソナに近い人をテストに参加させる方法も良いでしょう。また、街頭やカフェで直接声をかけてテスト参加者を募るという手法もあります。
いずれの手段でリクルーティングしたとしても、最終的にはプロジェクトを前に進め、現在のプロトタイプや仮説に基づくアイデアに対するフィードバックを得るためという目的を忘れず、状況に応じた最適な方法を選択することが大切です。
▼リクルーティングについての解説はコチラ
ユーザーテストの目的を明確にする
ユーザテストを実施する際、テストの目的をあらかじめはっきりと定めることが必要です。テストの目的は主に3つに分けられます。1つ目は、提案されたソリューションがユーザの課題を解決できるかどうかを検証するコンセプトテストです。2つ目は、提供するサービスや製品、またはアプリの使用のしやすさを検証するユーザビリティテストです。最後に、プロジェクトが目指す印象を適切に伝えられているかを確認するビジュアルデザインテストがあります。
例えば、アプリを使って車のエンジンを遠隔操作できる新機能を開発している場合を考えましょう。コンセプトテストでは、この新機能がユーザの課題を実際に解決できるかどうかを検証する必要があります。インタビューでは、車を使用するシナリオ(例えば、寒い冬の朝に車のエンジンを起動し、暖房をつけておくことで、暖かい車内に乗り込んですぐに出発できるか)について話し合い、その機能が便利だと感じるかどうかを確認します。
一方でユーザビリティテストでは、サービスの具体的な使用感に焦点を当てます。この段階では、アプリの操作性や配置された要素の使いやすさを評価するために、ワイヤーフレームなどを用いてユーザに実際にアプリを使ってもらい、エンジン起動の操作が簡単かつ直感的に行えるかをチェックします。
このように、同じ製品やサービスに対しても、テストの目的によってインタビューや検証の内容が異なってきます。
インタビュアーの選定とブラインドテスト
次に注目すべき点は、インタビュアーの選定です。理想的なユーザテストでは、マジックミラー付きのインタビュールームを用意し、インタビューを通じてユーザにテストを進めてもらう状況を作り出します。この間、UXデザイン担当者が別室でユーザの行動を観察しています。つまり、インタビュアーと観察担当者の両方が関与しているわけです。
インタビュアーには、中立的な立場からインタビューを進める能力が求められます。ユーザインタビューの目的は、企業やサービスに都合の良い情報を収集することではなく、公平な環境でユーザから正直な意見を引き出すことにあります。このため、一般的にはブラインドテストという手法が用いられます。これは、製品のメーカー名を伏せてサービスをユーザに評価してもらい、メーカーに対する先入観なしにフィードバックを得ることを意味します。例えば自動車の場合、ユーザが好きなメーカーに先入観を持ってしまうと、そのメーカーの製品を無条件に肯定的に評価してしまう可能性があります。これはテストの目的に反します。
インタビュアーとしては、自身がプロジェクトに直接関わっていないことを前提に、ユーザが中立的な意見を述べやすい環境を整えるよう努めることが重要です。これにより、真のユーザーの声を引き出すことができます。
プロジェクトの規模感によっては、インタビュールームの手配ができず、UXデザイナー自身がインタビュアーを務めるケースもあるはずです。その際はユーザーが商品に対して先入観を持って島ことや、インタビュアーに対して配慮してしまうことに気をつけて、フラットな意見を聞ける状況作りを心がけると良いでしょう。
インタビュースクリプト
アメリカのリサーチ会社による調査では、ユーザテストでは3人から5人の参加者から意見を聞くだけで、80%の精度のフィードバックが得られるとされています。このような小規模なグループでインタビューを行う場合、事前にインタビュースクリプトを準備しておくことが重要です。
インタビュースクリプトとは、インタビューで質問する内容をあらかじめ決めておくもので、全てのユーザーに対して同じ質問をすることで、異なるユーザーからも同様のインサイトを得ることが可能になります。
インタビューでは、Yes/Noで答えられる質問を避け、オープンな質問形式を採用することが推奨されます。例えば、通勤方法について尋ねる際に「通勤は車ですか?」と聞くのではなく、「毎朝の通勤はどのようにされていますか?」という質問の方が適切です。Yes/Noで答えられる質問をした後には、その答えを深掘りするためにオープンなフォローアップの質問をすることも一つのテクニックです。
重要なのは、一人の意見に依存するのではなく、3人から5人の参加者からフィードバックを得ることです。また、その際には、その場の思いつきで質問するのではなく、事前に準備したスクリプトに基づいてオープンな質問をすることが大切です。
インタビュー後にサマリーを作成する
インタビュー実施後に得られた情報を要約し整理するサマリー作成も重要です。サマリーは、山道での道案内のような役割を果たします。山の中で「この道を進むと危険」というような警告や、「この方向が正しい」と示すざっくりとした指示があるのと同じように、インタビュー後のサマリーは、プロジェクトチームにとって、どの方向に進むべきかを示すガイドになります。
このサマリーを作成する目的は、単にインタビューで聞いた内容を要約するだけではなく、プロジェクトを全体的に前進させるためのUXデザイナーの役割を意識したものであるべきです。サマリーを通じて、プロジェクトメンバーが今後の進むべき方向性を見極めるための洞察を提供することが大切です。
フィードバックを開発に活かす
インタビューを通じて得た気づきをもとに、プロジェクトを進めるか戻るかの判断をしましょう。例えば、コンセプトテストを行った結果、元々設定したペルソナが適切でなかったことに気付く場合があります。
車のエンジンをアプリで起動する製品のテストを例にすると、対象としたペルソナが実際には車通勤をしていないというような場合、ペルソナの設定を見直す必要があるかもしれません。また、ペルソナ自体に問題がない場合でも、製品がペルソナのニーズに合致していない可能性があります。例えば、出社前に車が温まっていることは喜ばしいが、日常的にアプリを使用していないため、アプリを起動すること自体が面倒と感じるケースがそれに当たります。
これらのフィードバックは、UXデザインの開発プロセスにおいて、どの段階に戻って開発を進めるべきか、あるいは開発プロセスを見直すべきかを判断するための重要な指標となります。インタビューで得たフィードバックをもとに、プロダクトやサービスをユーザーのニーズに合わせて適切に調整し、最適なUXデザインへと導くプロセスが重要です。
UXデザインのプロセスについてはコチラ
まとめ
限られた予算の中でも、創造的なリクルーティングや効率的なリソース活用により価値あるインサイトを得る方法はあります。インタビューから得られた洞察をサマリーにまとめ、開発プロセスに反映させることで、ユーザ中心の製品開発を実現することが可能です。
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