【UXデザイン】時間もお金もないなら『必要最小限の機能』を開発しましょう
UXデザインの講義などを行なっていると「予算や時間が限られている場合、UXデザインの取り入れが難しいのではないか」という質問がよくあります。特にスタートアップ企業の方に、UXデザインを大企業のものだと誤解している方が多いように感じます。
実際には、スタートアップ企業でもUXデザインのプロセスを採用することで、リスクを最小限に抑えることが可能です。特に重要なのが、必要最小限の機能を実装する「最小実行可能製品(MVP)」と呼ばれるアプローチです。今回はこのMVPアプローチについて詳しくご紹介します。
UXデザインを取り入れるメリットをサクッとおさらい
UXデザインのプロセスを採用することによって、多くのメリットが得られます。これを理解するために、従来のウォーターフォール形式の開発プロセスと比較してみましょう。ウォーターフォール形式では、最初にシステム要件を定め、その後、デザインやコーディングなどの開発が順序立てて進行します。
この方法では、要件の変更や途中でのフィードバックを取り入れることが難しいため、最終製品がユーザーの期待に応えられないリスクが高くなります。これに対し、UXデザインを中心としたアジャイル開発プロセスでは、開発の各段階でユーザーの調査を行い、リスクを最小限に抑えます。
例えば、開発の前にストーリーボードを用いてコンセプトテストを行い、その後、コーディングされたデザインに対するビジュアルテストや、最終的な使いやすさを評価するユーザビリティテストを実施します。これにより、開発段階で都度修正を行いながら、ユーザーに受け入れられやすい製品の開発を目指すことができます。
まとめると、UXデザインを取り入れればせっかく開発したシステムやサービスがユーザーに受け入れてもらえないような事態を防げるのです。
▼UXデザイナーが居る具体的なメリットはコチラ
アジャイル開発とMVP
アジャイル開発とは、製品開発プロセスにおいて柔軟性と効率性を重視する方法論です。このアプローチでは、大規模な計画や長期的なスケジュールを設定する代わりに、小規模で頻繁なアップデートと改善を行います。これにより、変化する市場の要求やユーザーのフィードバックに迅速に対応することが可能になります。
MVP、または最小実行可能製品、はこのアジャイル開発の核となる概念の一つです。MVPは、製品が市場に投入される最小限の機能を持ったバージョンを意味します。このアプローチでは、完璧な製品を一度に作り上げるのではなく、基本的な機能を備えた製品を早期にリリースし、ユーザーからのフィードバックを元に継続的に改善していきます。このプロセスを通じて、時間と資源を効率的に使用し、製品の市場適合性を早期に確認することができます。
自動車の開発を例にしたアジャイル開発とMVP
自動車開発を通じて、アジャイル開発とMVP(最小実行可能製品)の概念を理解しましょう。自動車にとって最も基本的な機能は、地点Aから地点Bへの移動を実現することです。従来の開発アプローチでは、まずタイヤを作り、その後車体を組み立て、最終的に全体を整えるというステップを踏みます。しかし、タイヤの段階では移動機能は実現されていません。これはアジャイル開発とは異なります。
アジャイル開発では、自動車を最初から完成させるのではなく、まずはスケートボードのような、すぐに使える最小限の移動機能を備えた製品から始めます。その後、ユーザーのニーズに応じてハンドルを追加しキックボードにし、さらに自転車、バイクと製品を段階的にアップグレードしていきます。
最終的には自動車が完成します。これがアジャイル開発の考え方です。そして、このアジャイル開発のプロセスにおいて、最初に作られる必要最小限の機能を備えた製品、例えばスケートボードは、MVPと呼ばれます。このアプローチを通じて、開発はより効率的に、かつ市場のニーズに即応する形で進行します。
成熟させるよりも「使えること」が大切
アジャイル開発においては、確かにプロダクトの成熟を重視していますが、それは段階的に進めることで、開発が過度に長引くことを防ぎます。図で示されたプロダクト開発の成熟の仕方は、プロダクトが持つべき属性を段階的に描いています。
Functional(動く・使える)
Reliable(安定している)
Usable(使いやすい)
Emotional(楽しい・心地よい)
まず、最初の段階では「動くこと」、つまり製品がその基本的な機能を果たすことが重視されます。電気自動車の例で言えば、これは単に車として走る能力があることを意味します。
次に、「安定していること」が重要視されます。これは製品が信頼性があり、常に一定の性能を発揮することを指します。電気自動車であれば、バッテリーが急に切れたりしない安定した走行距離を保証することです。
「使いやすいこと」が次の段階で、これはユーザーエクスペリエンスに関連し、製品が直感的に操作でき、便利であることが求められます。電気自動車では、ユーザーにとって使いやすいインターフェイスや簡単な充電プロセスがこれに該当します。
最終的に、「楽しさや心地よさ」のような感情的な価値がプロダクトに加えられます。電気自動車では、運転の楽しさや、静かで快適な乗り心地などがこれにあたります。
アジャイル開発では最初から完璧を目指さずに、プロダクトを徐々に改善していきます。電気自動車を開発する際にも、最初から1000キロメートル走れる自動車を作り始めるのではなく、100キロメートル走れる車を作り、それから徐々に走行距離を延ばして200キロ、300キロと改善していくのがアジャイルの方法です。このアプローチにより、現実的な時間枠内で継続的に製品を市場に投入し、その後も改善を続けることができるのです。
アジャイル開発とユーザーからのフィードバック
アジャイル開発では、ユーザーへのテストを通じてリスクを管理しながら開発を進めることが非常に重要です。ユーザーテストを行う際には、何をテストするのかを明確にする必要があります。
例えば、サービスやプロダクトが特定の課題を解決できるかをテストしたい場合は、ストーリーボードやムービープロトタイプを作成してユーザーに提示します。これにより、ユーザーがコンセプトを魅力的に感じるかどうかを評価することができます。
また、コンセプトがユーザーのニーズに応えているかどうか、さらに製品が使いやすいかどうかをテストしたい場合は、ペーパープロトタイプやワイヤーフレームを用いて、実際の開発に入る前の初期段階でフィードバックを得ることができます。
サービスを市場に投入する前の最終的なステップとして、意図した印象や感情をユーザーに与えられているかをチェックしたい場合、高品質なビジュアルデザインを用いたプロトタイプを作成し、ユーザーによる印象をヒアリングします。
これらのテストを各開発段階において適切に実施し、ユーザーからのフィードバックを反映させながら、プロダクトを継続的に改善していくことが、アジャイル開発の成功には不可欠です。
▼ユーザーテストの詳しい解説はコチラ
まとめ
時間と予算に制約がある状況でも、UXデザインとアジャイル開発を巧みに組み合わせることで、リスクを最小限に抑えつつ、ユーザー中心の製品開発を実現することが可能です。最小実行可能製品(MVP)を出発点として、ユーザーの実際のニーズに応え、段階的に製品を改善していくことで、時間と資源を効率的に使用し、市場の変化に柔軟に対応することができます。
開発プロセスの各段階でユーザーテストを実施し、フィードバックを真摯に取り入れることによって、ユーザーにとって価値のある製品を創造することが、アジャイル開発の真髄であると言えるでしょう。
株式会社VERSAROCでは、UXデザインに関するご相談も承っております。お気軽にご相談ください。
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