UXデザイナーは社内・社外のガイドラインを味方につけるべき
先週のnoteで、私はUXデザイナーの役割についてお話ししました。UXデザイナーは、ただユーザーの声に耳を傾けるだけでなく、ビジネスの目的とユーザーのニーズが合致するポイント、いわゆるスイートスポットを見つけ出し、それを製品やサービスに具現化する仕事だと述べました。この話は多くの方々から好評をいただき、読んでくださった皆様に感謝申し上げます。
今週は、引き続きスイートスポットを探るプロセスにおいて、ステークホルダーの意見を統合する重要性について、さらに深掘りしていきます。この過程では、様々なガイドラインを有効活用し、全体の意見をまとめ上げることが非常に重要であると強調したいと思います。
プロダクトは様々な部署から評価を受ける
プロダクト開発過程では、多くの部署からのチェックを経ることになります。特に開発の後半段階では、これまで関わってこなかった人々も関与し始め、時にはプロダクトの基本的な方向性に影響を及ぼすような重要な指摘を受けることがあります。
たとえば、広告段階でのマーケティング部門のチェックは、プロダクトがマーケティングのガイドラインに沿っていないと判断された場合、製品の再設計が必要になるかもしれません。同様に、品質チェックを担当する部署からは、製品の品質に関する修正が必要になることもあるでしょう。
また、企業の体制上、経営層の直接の命令によってすべての計画が変更されることもあります。これらの状況において、プロダクトの進行方向とステークホルダーの意見のバランスを見つけ、プロダクト開発を前進させるのが、ファシリテーターとしてのUXデザイナーの役割です。
初期段階で各種ガイドラインを揃えておく
開発の後半に差し掛かり、各部署との調整が求められる時期には、部署間での意見の対立を乗り越え、適切な妥協点を見つけ出す手がかりとしてガイドラインが重要な役割を果たします。
特に、プロジェクトが最終的にマーケティングや製品チェック部門の審査を受けることを考えると、開発の初期段階からこれらのガイドラインを手に入れておくことが推奨されます。このために、開発の初期に把握しておくべきポイントをいくつか紹介します。
ロール&レスポンシビリティ
プロジェクトに参加する初期段階で、ステークホルダーの役割(ロール)と責任(レスポンシビリティ)を明確にすることが推奨されます。このアプローチでは、プロダクトに関わる各人の役割と責任の範囲をはっきりとさせることが目的です。
この方法を採用することで、誰がどのような役割を果たし、その責任範囲がどこまで及ぶのかを明確にできます。これにより、全員の意見に振り回されることなく、特定の権限を持つ人物の意見に焦点を当てることが可能になります。
この結果、UXデザイナーがファシリテーターとして意見を統合し、プロジェクトをスムーズに進めることができるようになります。同時に、チーム全体の意見を取り入れつつ、各意見の重要度を理解することができます。
ブランドガイドライン
次に、企業のブランドガイドライン(Corporate Identity)を明確化することが重要です。すでに複数の製品やサービスを提供している企業では、これらが同一企業から提供されていると認識されるよう、ブランドのガイドラインを統一していることが一般的です。
この統一感は、企業の製品やサービス全体のデザインに影響を及ぼします。早い段階で企業に既存のブランドガイドラインがあるかを確認しましょう。
もしブランドガイドラインがまだない場合でも、UXデザイナーは既存の製品を参考にして、簡易版のガイドラインを作成し、それをチーム内で共有しておくと良いでしょう。
プロダクトに関わる部署個別のガイドライン
さらに、前述したように、将来関わってくるであろうマーケティングやプロダクトの品質管理部門などのガイドラインも事前に取り揃えることが重要です。
役割と責任を明確にする過程で、どの部署がプロジェクトに関与するかが判明するため、このタイミングで各部署のガイドラインを収集することが可能になります。
これにより、ユーザーのフィードバックを取り入れて慎重に進めてきた開発が、社内の調整過程で大きく方向転換する必要が生じる事態を事前に防ぐことができます。
各種プラットフォームのガイドライン
社内のガイドラインだけでなく、製品やサービスが利用されるプラットフォームのガイドラインを把握しておくことも大切です。
たとえば、スマートフォンアプリを開発する際には、アップルのHuman Interface Guidelinesが参考になります。アップルは毎年このガイドラインを更新し、ユーザーにとって使いやすいデザインの基準を詳細に文書化して公開しています。
毎年の更新は追いかけるのが大変かもしれませんが、これによって最新のトレンドに沿った、ユーザーにとって使いやすいUIの提供に役立ちます。
ガイドラインは収束フェーズでも有効に役立つ
ガイドラインを初期段階で集めることの利点の一つとして、プロジェクトが収束フェーズにあるときに特に役立つ点が挙げられます。UXデザインのプロセスでは、アイデアの発散と収束のサイクルを繰り返します。
発散フェーズでは質よりも量を重視し、多くのアイデアを自由に出すことが目標です。一方で、収束フェーズでは、実現可能性やビジネス目標などを基準にして、アイディアを選別し絞り込んでいきます。
この収束の段階でガイドラインがあると、アイディアをフィルタリングする基準の一つとして活用でき、結果としてプロジェクトのチェックポイントをスムーズに進行させることができます。
ガイドラインを使ってユーザーの声を通せるケースも
時には、ステークホルダーの意見とユーザーの声が衝突することがあります。このような状況で、プラットフォームのガイドラインなどは、ユーザーの意見をプロダクトに反映させる際の強力な支援者となることがあります。
たとえば、ブランドのデザインが赤色を主体としている場合、ステークホルダーはデザインに赤色を取り入れたがるかもしれません。しかし、もし該当プロダクトが自動車のように安全性や生命に直結するものであれば、赤色が危険信号を連想させ、ユーザーにブランドが意図するイメージと異なる印象を与える可能性があります。
このとき、ユニバーサルデザインのような世界標準のデザインガイドラインに関する知識を持っていれば、ステークホルダーに対し、ユーザーの心理を論理的に説明し、理解してもらうことができます。その結果、ユーザーの印象を守りながら、ステークホルダーに納得感のある説明を行うことが可能になります。
まとめ
UXデザイナーはプロジェクトを成功に導くファシリテーターとして、多様な意見を統合し、方向性を定める役割を担います。そのためには、プロジェクトの初期段階から企業の内部ガイドラインを理解し、適切に活用することが不可欠です。
加えて、UXデザイナーはユーザーの代弁者として、利用されるプラットフォームや世界標準のガイドラインにも精通しておくべきです。これにより、ステークホルダーとユーザーの間に生じる可能性のある意見の衝突を橋渡しし、双方が納得のいく解決策を見出すことが可能になります。
このアプローチによって、UXデザイナーはプロジェクトのあらゆる段階で効果的に意見をまとめ、プロダクトをユーザーにとって価値あるものにしていくことができるのです。
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