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社会的養護の退所後支援がなんで”こう”なのかを考えてみた。
きっかけ
最近、社会的養護出身の知人に誘われてあるプロジェクトをはじめたことをきっかけに、社会的養護の退所後支援の現状がなぜ引き起こされたのかを、そこそこちゃんと考えています。
よく言われるのは支援体制の不足で、私もはじめはそうだと思って調べ始めたのですが、2005年の時点ですでに国は、子どもが退所した後のケアの役割を果たす存在として児童養護施設を法的に位置付けています。
だから、退所後の支援は制度としては、2005年からあったはず、なんです。
それでも結局状況は改善されず、2017年に社会的養護自立支援制度がスタートしました。
空白の12年
2005年から2017年のこの空白の12年間。
本当に何も制度的にアプローチはされなかったのだろうか。
だとしたらそれはなぜ?
・何か他に政府として推したい政策があったから意図的に後回しになった?
・それとも何かオペレーション的な理由で意図せず政策が停滞したから?
私は1999年生まれで、2018年に大学に進学した代なのですが、このときに進学・就職で施設を離れた当事者たち、あるいはこの数年後に措置延長が取り消しになって急に自立することになった私自身、この空白の12年の影響をほぼ確実に受けていると思っています。
今でこそ支援体制がようやく(見かけ上は)増えてきて、政府もやれアフターケアだなんだと言って動きはじめましたが、支援が動き始めたころにはもうその支援を必要とするフェーズを過ぎていた自分としては、なんだかもやもやするばかりです。
そうだ、卒論でのアプローチを使ってみよう
このもやもやを抱えたまま1年が経過したのですが、今回のプロジェクトにあたり、申請書だなんだを書いているときに、急に、先日紹介した卒論のことをふと思い出しまして。
この空白の12年に起きたことを、マクロ・メゾ・ミクロ視点で再分析できないだろうか、と思い立ちました。
そうすることで一見複雑に見えるこの問題の構造を単純化して考えられるのではないか、と。
分析の前にちょっと紹介
こういった、一つの問題をマクロ・メゾ・ミクロという視点で解像度を分けて分析することで、問題の構造を捉え直したり、あらたな視点を得たりする研究はこれまで様々な研究者によって行われてきました。
一番有名なのは、キューバ・ミサイル危機について分析したグレアム・アリソンの『決定の本質』でしょうか。
これをさらに発展させたのが、日本の研究者の島本実さんです。
島本さんはサンシャイン計画という一大国家プロジェクトの分析をマクロ・メゾ・ミクロ視点で行いました。(『計画の創発』)
下のサイトでは島本さん自らが解説してくれています。
分析していくぞーまずマクロ視点
まず手始めに児童養護施設出身者の退所後の現状を見てみます。
こちらは東京都福祉局が2017年に発表した、東京都の施設退所者のデータです。
2017年以前の調査を2017年に発表したものなので同年からはじまった社会的養護自立支援制度の影響は受けていないはず….です。
東京都における児童養護施設等退所者の 実態調査報告書 (全体版)
ここから課題として色々なことが読み取れますが、ここで重要なのは、これらの問題は施設養護出身者だから起こりうるのか?という問いを立てることです。
退所者たちは施設養護出身者だからこれらの課題に直面しているのでしょうか。
個人的には、答えはYESでありNOだと思っています。
たしかに施設出身であるからこその課題もあります。
・集団生活から急に一人になることによる不安
・支援されていた状態から急に支援なしになってどう立ち回ればいいかわからない。
などは、保護されていたからこそ起こりうる課題です。
でも、よく施設出身者の困難として言われる「家が借りられない」「金銭的に頼る場所がない」「精神的な拠り所がない」などは、別に施設出身者じゃなくても起こりうることです。
家族に頼れなくて、まわりに頼れる大人がいない若者はだいたいこの手のことを経験するでしょうし、「家族がいるのに頼れない」若者はごまんといます。そして、わかりやすく頼れる家族がいない施設養護出身者と違って、「家族がいるのに頼れない」方がよっぽど支援が受けづらいと聞きます。
つまりこれは児童養護施設出身だから直面している困難というよりは、そもそも日本という国の若者政策の失敗というほうが適切だと思います。
家族がいない、あるいは家族はいるけど頼りたくない若者の存在が政策立案側に認知されておらず、支援が不足している/認知されているが少数派なので解決が後回しになっている・・・①
そして、マクロを語るときには外せない、法改正の歴史もみてみると、
・児童養護施設を退所した後の支援については2005年の児童福祉法改正で施設の役割として定められていること
・2017年の法改正で社会的養護自立支援制度がはじまるまで制度的な変化がなかったこと
の2個・・・②がわかります。
これら二つがマクロ要因だと思われます。
ここから、①と②を踏まえて、児童養護施設がどのように対応したかを調べていきます。
メゾの視点
ここでの視点は、全国の児童養護施設です。
自分が今、2005年の法改正により退所後支援を任せられた施設の立場にいるとして考えてみます。
この件については、『社会的養護』(2024)に予算の有無、人的リソースの格差などの理由により施設間で取り組みに差があることが書かれています。
ここからは、先行研究がないので完全に予想ですが、その足りない部分であったり、施設が面倒を見切れなかった部分を民間が代わりに担ったと私はみています。それで国は「退所後支援については、一旦施設と民間に任せる、でいいか」となったのではないでしょうか。(あくまで仮説)
しかし、それらの支援を行なっていたのは、専門性があるとはいえない個人や団体です。それらの団体の献身的な活動があって、助けられた人もいると思います。しかし、個人や団体が草の根的にしている活動なので
支援のノウハウが
・各団体、各個人の経験に依存していること
・共通化・標準化されていない・・・③
というのが現状としてあると思われます。
最後にミクロ
ここでは、現場である児童養護施設の、職員さんと子ども、くらいまで解像度が上がります。そのレベルまでくると、ネット上やSNSにブログやデータが結構あったりしますし、施設出身者の話が現状を知るための材料となります。
ここで
・施設職員との信頼関係の有無が追跡の可否を決める
・退所後のメンタルの不調で連絡が途絶える
・トラブルに巻き込まれて音信不通になる・・・④
など具体的な話が出てきます。
結果の分析と考察
1.マクロ(国レベルの問題)
・家族がいない、あるいは家族はいるけど頼りたくない若者の存在が政策立案側に認知されておらず、支援が不足している/認知されているが少数派なので解決が後回しになっている・・・①
・児童養護施設を退所した後の支援については2005年の児童福祉法改正で施設の役割として定められていること
・2017年の法改正で社会的養護自立支援制度がはじまるまで制度的な変化がなかったこと・・・②
2.メゾ(組織的な課題)
・支援ノウハウが、各施設・各団体・各個人の経験に依存していること、
・支援者側がもつ支援についての情報が、共通化・標準化されていないこと・・・③
3.ミクロ(現場での課題、個人の問題)
・施設職員との信頼関係の有無が追跡の可否を決める
・退所後のメンタルの不調で連絡が途絶える
・トラブルに巻き込まれて音信不通になる・・・④
これらの理由によって、退所後支援の現状が引き起こされていると思われます。
どうすれば状況が改善されるのか
最後に、どうすればこの状況が改善されるのかについて簡単に意見を言っておわります。
マクロ(国レベルの問題):ぶっちゃけ個人がどうすることもできない問題。
・「親に頼れない若者」の現状を可視化する
・その問題を解決しないことで国にどういう悪影響があるかを訴える
・若者政策を充実させるように持っていく
*ここからの話はわたしの意見というよりは当事者友達の受け売りです。
2.メゾ(組織的な課題):組織の垣根を超えた「しくみ」を作れば解決できるかもしれない問題
たとえば解決策の例としてこんなことが挙げられます。
・各施設、団体、個人がもっている支援ノウハウをどこかにまとめておく「しくみ」を作り、退所後支援の標準化を図る。
3.ミクロ(現場での課題、個人の問題):「しくみ」をうまく利用すれば現場に利益が還元される
・施設職員との信頼関係の有無が追跡の可否を決める
・退所後のメンタルの不調で連絡が途絶える
・トラブルに巻き込まれて音信不通になる・・・④
→これが起こらないような仕組みをメゾの段階で作って、現場がうまく運用できるようにすれば、自立支援の段階で集積されたノウハウを使うことができる。
みたいな感じでしょうか。
おわりに
ちょっと書くつもりがすっかり長くなってしまいました。
ここまで書いてきてこんなことを言うのもなんですが、私の個人的な興味関心は、大学時代からいつもHOW(どうやって〜するか)よりもWHAT(何を実現したいのか、何によって引き起こされたのかなど)に向いている気がします。
だからこの問題も、どう解決できるかよりも「なんで起こったのか」「再び同じことが起こらないようにするにはどうすればいいのか」が気になっています。
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機会があれば研究にまで昇華してみようかな。
(在野研究者になりそうな勢い)