精神疾患とアクセシビリティについて①
こんにちは。
精神疾患と情報へのアクセシビリティについて気になったので、調べたことをまとめてみました。
一旦は、自分用のメモなので、読みにくい部分もあるかもしれないですが、ご了承ください。
今回は、主にwebアクセシビリティについてです。
そもそもアクセシビリティとは何か。
アクセシビリティとは「情報へのアクセスのしやすさ」のことであり、コンテンツやサービスを利用できるかどうかの度合いを示す言葉です。(デジタル庁ウェブアクセシビリティ導入ガイドラインより引用)
webアクセシビリティはweb上の情報へのアクセスのしやすさ、転じて利用しやすさといった意味のように思われます。
また、デジタル・インクルージョンという言葉もあるそうです。
これはデジタル化の進む社会での「格差を解消し、あらゆる市民がデジタルの恩恵を受けるための社会理念」(坂本,2011)とのことで、個人的には、アクセシビリティのさらに上位概念と理解しました。
日本のアクセシビリティ事情
日本でも、近年はだいぶwebアクセシビリティの議論が交わされるようになり、とくに視覚障害、聴覚障害をもつ人でもサービスを使えるように、とかお年寄りでも使えるように、という意識で開発が行われているように感じます。
それも大切なことですが、個人的には、アクセシビリティに関する議論が身体障害者や発達障害など、目に見える障害のみにとどまっていることに疑問を感じています。
先ほどのデジタル庁ウェブアクセシビリティ導入ガイドラインをみても、視覚、聴覚、視覚と聴覚両方、色覚特性のある人、上肢障害、発達障害や学習障害のある人、知的障害がある人などの言及にとどまり、精神疾患をもつ人についての言及が見受けられません。
精神疾患を持つ人のことも考慮する理由
「精神疾患なんて心の問題なんだからアクセシビリティは関係ない」
そう思われる方もいるかもしれませんが、精神疾患には、脳の認知機能低下が伴います。たとえば、うつ病や不安障害では、学習、記憶、注意、言語能力に関連する認知機能に影響があります。(Papazacharias & Nardini 2012; Gualtieri & Morgan 2008; Porter at Al, 2003).
また、うつ病の人の眼球運動は健常者と異なっているとする研究もあります。この研究によると、うつ病の人は健康な人よりも視線を動かす範囲が狭く、視線を素早く動かすのにより多くの時間がかかるそうです。(鬼塚,2024)
このことから、長文を読み続けることや、大量の情報のなかから必要な情報を瞬時に選択することが難しくなると推察されます。
また、うつ病の人は集中すること、複数の課題の同時処理 、思考の切り替えに困難を抱えているそうです。(山中、山野ら,2011)
動きの多いwebサイトや使われている色が多すぎるwebサイトでは、必要な情報が入ってきづらくなると考えられます。
カラフルで動きの多いwebサイトは「かっこいい」「イケてる」かもしれませんが、すべての人に優しいのか、というとそうでもなさそうです。
また、主に行政のサイトでよくありがちな長文、文字だらけの情報は、うつ病の人にとってはとくに読みにくく理解しにくいものであると思われます。
(健常者にとってもそういう情報提供の仕方は好ましくないですよね…)
以上のような理由から精神障害者のwebアクセシビリティについて考える必要があると考えられます。
精神障害者ならではのアクセシビリティについての情報のありか
先述したような障害の特性から逆算して、どのような情報が望ましいかについて考えることができそうです。でも誰かがすでに研究してくれてそうなので、まずは信頼できる情報を探すことにしました。
日本語検索ではうまく情報が見つからなかったのですが、「web accessibility for people with mental disorders」(精神疾患をもつ人たちへのwebアクセシビリティ)と検索すると、いくつかの研究論文がヒットしました。
いくつか目を通してみましたが、個人的に、知りたかったことが一番簡潔にまとめられていると感じたのは「精神障害者のウェブ利用に関する障壁と促進策:系統的レビュー」という論文です。
(google翻訳を使って日本語でも読めます。)
また、若干抽象的ではあるのですが、Web コンテンツ アクセシビリティ ガイドライン(WCAG)というものが公開されていて、開発に関わる人は実務ではそれを参考にするのが良さそうです。
ライターの場合は、米国立障害およびジャーナリズムセンターの「障害言語スタイル ガイド」も役立ちそうです。
(2個ともgoogle翻訳で日本語でも読めます。)
最後に、学術的な信憑性は微妙ですが、Inclusionhubという、デジタル・インクルージョンについての情報がまとめられているサイトを見つけました。
業務で活かすレベルなら、そのサイトの情報でも問題ないのではないかと思います。
実際に精神疾患がある人に聞き取り調査を行なった上で書かれた記事(https://www.inclusionhub.com/articles/improve-accessibility-inclusion-for-mental-health)もあり、「こういうサイトは使いづらい、不安を感じる」、などユーザーの声が書かれています。その上で、
コンテンツ全体に均等に空白を配置する
コンテンツを短く凝縮した段落に分割する
箇条書きリストを実装する
論理的な読み順と構成を含める
親しみやすいフォントと柔らかい色調と色合いを使用する
複雑さを最小限に抑えて認知的負荷を回避する
苦悩や絶望感を描写せずに多様なイメージを取り入れる
など、実践的な対処法も書かれていました。
まとめ
とりあえず、精神障害者向けのwebアクセシビリティについて情報のありかをまとめてみました。
この記事がwebサイト開発を担う人たちの参考になれば幸いです。
個人的には、もっと学術的な部分が知りたいし、またwebに限定しない情報提供のあり方のほうにより興味があるので、さらに深ぼって調べてみたいと思います。それと、これらの記事で書かれている考慮事項はあくまで英語圏での話で、文字の種類が多く英語よりも表記事情が複雑な日本だと別のところに注意する必要も出てきそうなので、それらについても調べてみようと思います。
ある程度情報がまとまったら、また記事を書くかもしれません。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
参考文献
・デジタル庁ウェブアクセシビリティ導入ガイドライン
・坂本旬「基礎教育保障としての批判的デジタル・インクルージョン:ディ スインフォデミックへの対応を中心に」『基礎教育保障研究』第5号、2021年
・鬼塚俊明「うつ病の眼球運動研究」『精神医学』第66巻2号、2024年
・Papazacharias, A., Nardini, M.: The Relationship Between Depression and Cognitive Deficits. Psychiatria Danubina 24(suppl. 1), 179–182 (2012)
・Gualtieri, T., Morgan, D.: The frequency of cognitive impairment in patients with anxiety, depression, and bipolar disorder: an unaccounted source of variance in clinical trials. The Journal of Clinical Psychiatry, 69–712 (2008)
・山本 哲也、山野 美樹、田上 明日香、市川 健、 河田 真理 、津曲 志帆、嶋田 洋徳「認知機能障害に焦点を当てた心理学的介入方法がうつ病の再発予防に及ぼす効果に関する展望」『行動療法研究』 第37巻 第1号p33-35、2011年
・W3C"Accessibility Guidelines (WCAG) 3.0"
・National Center on Disability and Journalism"Disability Language Style Guide"
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