【セッション・レポート】脱・働く#9 —『キャリアオーナーシップ』を実現する環境をつくるには?
人々に「はたらく」を自分のものにする力を(GIVE PEOPLE THE POWER TO OWN THEIR WORK-LIFE.)をミッションに掲げるパーソルキャリア株式会社。 2020年11月19日、起業家や政策担当者など、多様なイノベーター達をつなぐ「Venture Café Tokyo」と共同で、トークセッションシリーズ「脱・働く-POWER TO/THE PEOPLE-」の第9回を開催しました。
今回は「『キャリアオーナーシップ』を実現する環境をつくるには?」をテーマにトークを実施。80年以上続く老舗企業をターンアラウンドさせ、従業員がイキイキと働く今を演出した岡村さん、経営者としてハウスキーパーのコミュニティをマネジメントするタスカジの和田さん、そしてイノベーターたちが集い活躍する環境を虎ノ門から創り出している森ビルの竹田さん。このお三方と共に『キャリアオーナーシップ』を実現するための環境づくりについて議論を深めました。
◆「脱・働く-POWER TO/THE PEOPLE-」について
不確実性の時代とも称される今。技術進化や人口動態の変化などにより、あらゆるゲームのルールが加速度的に大きく変わりつつあります。
それに伴い、社会保障制度や終身雇用など戦後期に構築されたさまざまなシステムも「制度疲労」に直面しているように思われます。
我々はこの来るべき時代において、どのようにはたらき、生きるべきなのでしょうか?
本シリーズではこの考えをもとに、さまざまなステークホルダーを招いて皆さんとの対話の場を持ち、「日本らしい“はたらく“のその先」について議論を深めることを狙いとします。
①キャリアオーナーシップを実現する環境をつくるには~各社の取り組み~
中山氏:パーソルキャリアの中山です。弊社は主に転職や新卒の就活、そして企業の採用の支援など、「はたらく」という領域で様々なサービスを展開している会社です。昨年の秋、我々のミッションを「人々に『はたらく』を自分のものにする力を(GIVE PEOPLE THE POWER TO OWN THEIR WORK-LIFE.)」と制定しました。
特にコロナ禍においては、リモートワークやワーケーションなど、働き方に関していろいろな声が上がっています。「はたらく」という領域でサービス提供をしてきた者として、改めて振り返ってみると、これまでは国や企業が決めた時代の変化に対応してきた感覚があります。
一方で、「はたらく」ことに関してワクワクしている、ポジティブな方々を見ていると、とても主体的で、自分で人生の舵取りをしている人が多いと感じます。そうなるために何が必要なのか、今日はお三方のゲストを迎えて議論を深めていきたいと思っています。
モデレーター:ありがとうございます。キャリアオーナーシップを実現するためには、これからのはたらき方において何が必要なのか。本日は、環境という側面からお三方と考えていけたらと思います。早速、自己紹介も兼ねてそれぞれの取り組みについてお話をお伺いさせていただいてもいいでしょうか。
竹田氏:森ビルの竹田です。森ビルでは、都市づくりを通じて働き方や働く場を構築しています。
六本木ヒルズが位置する赤坂・六本木エリアは非常に面白い街です。大企業もあれば、スタートアップ企業もある。住宅や遊べる施設など、国際性豊かで多様な営みがある点がこのエリアの特徴です。
我々は、これらのコミュニティを牽引してくれる人が活躍できる場をつくり、外部との繋がりを促す仕掛けをしながら、そこで起こっていることを発信することでより人が集まってくる。そのような好循環を都市の中でつくりたいと思っています。
私たちは2023年完成を目指し、緑に包まれ、人と人をつなぐ広場のような街をコンセプトとする「虎ノ門・麻布台プロジェクト」があります。テクノロジーが進化すればするほど、緑や人など本質的で、不変的な価値に基づいた場づくりが重要です。
コロナ禍において、本来プライベートの場である家やカフェで仕事するなど、はたらく場所や時間を自分で選択できる中、今後はプロジェクトごとにチームを形成して仕事をしていく形に変容していくでしょう。
我々は、どんな場所であっても人生豊かに、心理的な安全性を含めて多様なはたらき方を応援していきたいと思い、実現できる環境を整備していきたいと考えています。
モデレーター:ありがとうございます。続いて、和田さんお願いできますでしょうか。
和田氏:みなさんこんばんは。株式会社タスカジ代表の和田です。「あなたにぴったりのハウスキーパーを探すことができる場所」として、マッチング・プラットフォームを運営しています。1時間1500円から家事代行を利用することができ、シェアリングエコノミーのビジネスモデルを使って実現しています。
『タスカジさん』と呼ばれるハウスキーパーの皆さんは我々に雇用されているのではなく、『タスカジ』というプラットフォームに登録して働いているフリーランスの方々です。『タスカジさん』がどのような働き方をし、私たちに何を求めているのか、そんな点をお話できたらいいなと思っています。
モデレーター:ありがとうございます。では岡村さん、お願いいたします。
岡村氏:株式会社ウエダ本社にて代表をしております、岡村でございます。今年で83年目を迎える会社でして、働く環境の総合商社と銘打って展開しています。
倒産の危機すらある中で家業であるウエダ本社に入社した際、企業の働く環境が管理型で閉塞感があり、人が活かされてない点に課題を感じました。人にスポットを当て、個性や多様性を発揮でき、人々が交差して集まることで新しい価値が生まれる。その結果、相乗効果で企業の価値も高まるのではないかと考え、展開してきました。
京都に対しては、京都流議定書というイベントを介して、企業に対しては、お母さんや障害をお持ちの方など、個性を生かして多様な人が交差しながら価値を生み出せる場の提供をしています。今後は過疎地域に向けて、地域活性化につなげていきます。
②これからの「あるべきはたらき方」とは
モデレーター:では、早速議論に入ります。本日のテーマは「キャリアオーナーシップを実現する環境」。まず、これからのあるべき働き方についてのお考えをお三方に伺います。ディベロッパーという立場で、ご活躍されている竹田さん、いかがでしょうか。
竹田氏:例えば昭和は、人口増加と共に効率性を求め大量生産を図り、企業は「多角経営」を謳って、事業領域を広げれば広げるほど儲かる時代でした。
平成は、バブル崩壊やアジア通貨危機、リーマンショックというように、経済成長が見込めず、グローバル経済に様々な影響を受ける中で、各企業が自分のセグメントを決め、取捨選択していた時代だったと感じています。そして令和は、企業や業界を超え、自分で仕事の領域を決めていく人が、増えてきているなと思っています。
終身雇用で働くこと、与えられた仕事をやり続けることも選択の一つですが、新しい兆しとして、はたらき方を自分で定義していく人が徐々に増えてきています。我々としてもそういった方々のワークスタイルに応じたワークスペースをきちんと提供したいと考えるとともに、シニアから女性や若者まで、働く人の多様性をどう受け入れるかも大切な視点だと思っています。
モデレーター:ありがとうございます。すごく面白いですね。昭和は勢いのある、ある意味粗削りの時代。一方平成はバブルが崩壊する中で、正しさや効率性を追及していたように思います。コロナ禍での今、更なる異なる形を求められているのかなと感じました。
これを踏まえ、経営者として和田さんにお伺いします。従業員やタスカジさんに対してどのような働き方をしてほしいとお考えでしょうか。
和田氏:個人のキャリア形成でいうと、様々な揺り戻しがきていると思います。少し前までは会社に所属し、キャリアを築くのが一般的でした。近年、組織から離れたフリーランスという働き方が生まれ、徐々に広まりつつあります。そんな中、新型コロナによって改めて人との繋がりが求められていると感じています。人との交流の中で、スキルが磨きあげられることが幸せだという感覚を求めているのではないでしょうか。
タスカジさんの中でも、自主的に繋がりを求め、心地よい距離感での繋がりが広がっているように見受けられます。タスカジさんの業務は個人のお宅に伺い、ひとりで作業を完結されることがミッションです。ひとりを好む方が比較的多い中、人との繋がりを幸せと感じていることは、ある種、人間の欲望なのではないでしょうか。
モデレーター:繋がることは人間としての根源的な喜びである。和田さんは、その気持ちを全肯定し、すべてを受け止める環境を作りたいという思いでいらっしゃるということでしょうか。
和田氏:そうですね。加えて、スキルアップを求める際はフィードバックが必要だと考えます。繋がることで、新たな気づきを発見しやすいのではと感じています。
モデレーター:それが最終的には組織の強さへと変革していくのかもしれないですね。岡村さんにも経営者としてのお考えをお伺いしたいです。
岡村氏:個人的に人に対して二極のことを考えています。一方は、人は自分の思った通りにしか動かないという点。自主的にやらない限り、力を発揮できないと感じているため、「人なんて所詮」と常に思っています。その一方で、「人って素晴らしい」とも感じています。多大なる可能性を秘めており、その可能性を引き出すことで、人口は減っても、まだまだ価値は生み出していけるという思いで取り組んでいます。
モデレーター:なるほど。震えながら聞いていました。「人なんて所詮」と「人って素晴らしい」と言う二律背反する点をどう乗り越えていくのかが重要だと感じました。
③新しい働き方と向き合うには
モデレーター:複雑な時代の中で多様な人とのコミュニケーションが求められる今、新しい働き方と向き合うにはどのような環境設定が必要とお考えでしょうか。
和田氏:タスカジさんは、個人で働いているため、誰かによって計画的に育成されません。背伸びした業務へのチャレンジや、失敗時のバックアップ体制は組織やチームだからこそ提供できる価値だと思います。だからこそ、私たちは安心してチャレンジができる環境を作りたいと考え、「タスカジ研究所」を用意しました。タスカジさん自ら手をあげて新しい仕事に挑戦できる環境です。
プロジェクト内では、チームで受託する案件もあるので、安心して挑戦できる機会や、メンバー同志で助け合える環境が自然と生まれています。個人として働きつつチームにも所属する両軸が求められており、大切だと思っています。
モデレーター:岡村さんはいかがでしょうか。
岡村氏:弱みをさらけ出せる、安心安全の場を作りたいと思っています。また、社員一人ひとりの意識をすり合わせ、目的を明確にすることも大切です。社員が30人いるとすると、30人それぞれが秀でた何かを必ず持っています。その能力を活かして発揮できるような風土づくりをしています。具体的には、「ベーシック10」というクレドを作成し、意識のすり合わせを行っています。また、「ありがとうカード」を導入し、感謝を共有することや誰かに賞賛されることで、その方の価値をより一層発揮できる風土づくりを意識しています。
和田氏:私たちもタスカジさんコミュニティにおいて、クレドを作成しました。コミュニティが目指すものを分かりやすく掲げています。
モデレーター:なるほど、環境を整えるという点でソフトな面をお伺いしました。よりマクロな視点でディベロッパーの竹田さんはいかがでしょうか。
竹田氏:失敗が許される心理的な安全性やお互いを尊重し合う環境は、企業成長や多様な価値観を認め合わなければならない中で、とても大事です。
個人的な話ですが、大学生の頃、教授に「お前は変人だから、お前の考えていることが平均だと思うな」と言われたことが、今でも心に刺さっています。人間は当たり前に全員違っていて、他人が自分と同じ考えを持っているという思い込みをまず捨てるべきだと。
同様に、森ビルが街づくりで心掛けていることとして、普段接しないような外国人や年代の異なる人など、多様な価値観に日常から触れる環境をつくることを意識しています。
モデレーター:では最後に、みなさんからメッセージをお願いできますでしょうか。
岡村氏:コロナ禍でさまざまな不安がある今は、どうしても近視眼的になり、ゴールを見失いがちです。しかし、ゴールを先に考えることができると、さまざまなことが経験できると考えます。世界中が答えを持たない初めての経験をしている中、自分をもう一度見直し、やりたいことや得意分野を打ち出していけるのは、ある意味チャンスであり、面白い時代だと思います。
和田氏:会社を経営していく中で、「これ成し遂げたい」、「この課題を解決したい」と思っても、ひとりの力では何もできないのです。私自身も自由になりたいと思い起業しましたが、さまざまな人との関わりは必要不可欠です。
タスカジさんコミュニティでも、自由を保ちつつ、どのように接点をもって高め合えるか。成長できるコミュニティを構築していきたいと考えています。
竹田氏:不確実な未来だからこそなるべく多様なコミュニティにどんどん参加し、自分と違う価値観の人と触れ合うことが大切です。また、いい失敗ができる、他人の失敗を認め合えるような環境を作っていきたいと思います。
もう一つ、特にパンデミックが起きた際は変化に注目されがちですが、街づくりの環境では不変をしっかり見据え、社会の豊かさや人の幸せを見極める力がとても重要だと感じています。
モデレーター:それぞれ異なる立場、まったく違う業種でのお三方のお話、通ずることがありました。個として自律しながらも、繋がりを大切にする点、生きると働くは同じである点、ビジョンを掲げ、目標を共有する点など、共通点が多くあるように感じました。本日はありがとうございました。
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次回のセッションは、 テクノロジーで実現するWell Being
脱・働く第10回となる2021年1月21日(木) 19:00–20:00 (オンライン)は、「テクノロジーで実現するWell Being」をテーマにセッションを行います。ぜひお気軽にお申し込みください。
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