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【セッション・レポート】脱・働く#10―テクノロジーで実現するWell-being

「人々に『はたらく』を自分のものにする力を(GIVE PEOPLE THE POWER TO OWN THEIR WORK-LIFE.)」をミッションに掲げるパーソルキャリア株式会社。起業家や政策担当者など、多様なイノベーター達をつなぐ「Venture Café Tokyo」と共同で、2021年1月21日、トークセッションシリーズ「脱・働く-POWER TO / THE PEOPLE-」の第10回を開催しました。

今回は「テクノロジーで実現するWell-being」をテーマにトークセッションを実施。株式会社bajji代表の小林慎和氏、Vanguard Industries株式会社代表の山中聖彦氏、経済産業省の水口怜斉氏らをゲストに招き、これからの時代に求められるウェルビーイングとは何か、テクノロジーを通じた実現方法について語っていただきました。

◆「脱・働く-POWER TO/THE PEOPLE-」について

不確実性の時代とも称される今。技術進化や人口動態の変化などにより、あらゆるゲームのルールが加速度的に大きく変わりつつあります。それに伴い、社会保障制度や終身雇用など戦後期に構築された様々なシステムも「制度疲労」に直面しているように思われます。

我々はこの来るべき時代において、どのようにはたらき、生きるべきなのでしょうか?
本シリーズではこの考えをもとに、様々なステークホルダーを招いて皆さんとの対話の場を持ち、「日本らしい“はたらく“のその先」について議論を深めることを狙いとします。

①これからの時代に必要なウェルビーイングとは?

中山氏:パーソルキャリアの中山です。一昨年の秋、弊社のミッションを「人々に『はたらく』を自分のものにする力を(GIVE PEOPLE THE POWER TO OWN THEIR WORK-LIFE.)」と制定しました。仕事内容や働き方を誰かの指示ではなく自分自身で選び取っていく人をもっと増やしたい、応援したいという想いが込められています。

第10回となる「脱・働く」セッションは、「テクノロジーで実現するWell-being」をテーマに開催します。旧来の「労働」の形から抜け出した、新しい「はたらき方」の領域におけるウェルビーイングを、様々な角度から追求していきます。

本日は最新技術を駆使してウェルビーイングを実現しようとするスタートアップ2社から、株式会社bajji代表・小林氏、Vanguard Industries株式会社代表・山中氏と、2025年大阪・関西万博担当・経済産業省の水口氏をお招きしました。

モデレーター:「そもそもウェルビーイングとは何か? なぜ今必要なのか?」という問いからスタートし、起業家のお二人がプロダクトに込めた想いを伺います。セッションの終盤では、「我々が目指すべき社会とは?」「その中で個人ができることは?」など、マクロな視点での議論も深めて参ります。

中山氏:パーソルグループでは昨年から世界最大の世論調査であるGallup World Pollを通じて、世界118ヵ国を対象とする調査プロジェクトに取り組んでいるのですが、その中にこんな質問があります。

1.「日々の仕事において、喜びを感じていますか?」
2.「仕事が日々の生活を良くすることにつながっていますか?」
3.「仕事を多くの選択肢の中から選べていますか?」

この3つの設問を通じて、パーソルが目指す世界観や、ウェルビーイングな状態とはなにかを明らかにしていきたいと考えています。

私個人としても、同じ仕事やはたらき方でも、人から指示されてやっていることと数ある選択肢の中から自分が納得して選び取っているものとでは向き合い方が変わるように思うので、どういう結果が出てくるのか楽しみです。

モデレーター:2025年に大阪で開催される万国博覧会、EXPOのスローガンは「いのち輝く未来社会のデザイン」。中山さんの仰ったウェルビーイングの概念に近しいものを感じますね。

水口氏:万博は現在、従来のお国自慢や産業見本市としての博覧会から、国際的な課題を打ち出して問いかけるようなフォーマットに変わりつつあります。

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現代では、国連が掲げているSDGsを代表として、社会問題が多様化しています。「こんな人生を歩めば幸せだ、成功している」という旧来的な型も通用しなくなり、人々の幸福や満足の形も様々です。それらをどのように叶えていくのか?という課題も生じています。

2025年の大阪・関西万博は、個々人が幸せを感じられる社会を組織していくためにはどうすればよいか、様々なことを試す実験場にしたいという意味で、テーマを「いのち輝く未来社会のデザイン」としています。

モデレーター:10年ほど前までは「レール」という言葉がよく使われていましたが、今はどこかから道筋を見つけてくるのではなく、自分たちでデザインしなくてはならない時代ですよね。

水口氏:1970年の大阪万博は「これが新しい発展の形です」と正解を示す場に近かったかもしれませんが、2025年の万博ではむしろ問いを投げかけたいと考えています。問いかけに対する答えが一人ひとり異なる状態こそが、多様な幸せの形を持つ今の時代に即しているのではないかな、と思います。

②テクノロジーの便利さが、人々を不自由にしている?

モデレーター:ウェルビーイングとは何なのか、なんとなく手触りが見えてきたような気がしますね。では、「一人ひとりが異なる幸福を目指していこう」という昨今の風潮に至るまで、どんな背景があったのでしょうか?

小林氏:私自身もそうなのですが、最近は四六時中スマホを手放さず、常にソーシャルメディアと繋がっている人が多いですよね。あらゆる情報が溢れる中にフェイクも混ざっていて、自分自身を見つめる機会が少なくなっています。

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ウェルビーイングとは、無防備にリラックスしてありのままの自分でいること、その上で「仕事もプライベートも楽しくて、今日は良い一日だったな」と思える状態ではないでしょうか。時にはSNSと距離を取って、安心できる時間や場所をつくり出す必要があると思います。

モデレーター:技術が発展して便利になった一方、情報が身近にありすぎることで新たな障壁が生まれているともいえますね。

小林氏:最近iPhone12に買い替えたら、デフォルトでナイトモードに設定されていました。深夜の時間帯にアプリの通知を切って、着信音も鳴らないようにする機能です。

Appleは本来ハードウェアを提供する会社として、人々が商品と接する時間を増やしたいはずなのに、デフォルトでスマホが8時間鳴らないように設定した。これは大きな決断だと思います。

情報を強制的に遮断し、自分自身を見つめる時間をつくり、きちんと睡眠を取ることが重要な時代になってきたのかなと。

ウェルビーイングとデータプライバシーは密接に関わっていると思っています。例えば今、田舎に宿泊して働くワーケーションが流行っていますが、都会の喧騒から離れて一人でゆっくりする時間を過ごせたと思いきや、仕事で利用したクラウドサービスにありとあらゆるデータを取られる、という矛盾が起きている。

中山氏:自分のことを一番よく知っている存在が、本人や周囲の人ではなくテック企業になりうる状況ですよね。

③効率化とは違う、「癒し」のプロダクトで幸福度アップ

モデレーター:生活に欠かせないモバイル機器やクラウドの普及が、実はウェルビーイングの実現を阻害しているのかもしれません。そんな情報化社会の中で、山中さんと小林さんがプロダクトに込めた思いとは何なのでしょうか。

小林氏:私が開発したのは「Feelyou」というアプリです。ウェルビーイング、マインドフルネス、セルフケアをテーマに、7種類の感情の中から今の気持ちを選んで、日々のリアルタイムな気持ちを記録します。

アプリ内では、この感情日記を他の人にシェアできます。

FacebookやTwitterなど従来のSNSでは、投稿についた「いいね」やリポストの数をつい気にしてしまいますよね。
けれどFeelyouでは、ひとつの投稿がどんどん流れていき、リポストや拡散がされない仕組みになっています。「誰か一人でも反応をくれたらいいかな」くらいの感覚で、気軽に投稿できるのです。

「今日はミーティングでちょっと失言してしまって後悔」とか、小さなことをポロっと書き込んでおいて、同じような経験をした人から「そういうことあるよね」と共感のコメントがついたら、自分の意図しない場所でツイートがたくさん拡散されるより、ずっと幸せな気分になる。

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去年の4月、コロナ禍で外出できず、人に会えず、世界中の誰もが不安で寂しい気持ちを抱えていたとき、このアプリをつくりました。英語バージョンでローンチして、今は世界150か国以上にユーザーがいます。国籍や年齢に関係なく、ありのままの自分でいられる、落ち着ける場所を目指して運用しています。

水口氏:SNSをやっていると、見える化されたリアクションの数に気を取られたり、競争心を煽られたりしてしまいがちですよね。そういったしがらみを面倒に感じてSNSと距離を取っていた時期があったので、すごくいい仕組みだなと思います。

モデレーター:山中さんはいかがですか?

山中氏:私はテクノロジーをオンラインの世界だけでなく、実生活にどう適応させていくかに関心があり、現在スタートアップ企業でハードウェアを扱っています。

人々の生活を豊かにし、幸福度を上げる目的で最初に開発したのが、ペット型のAIロボット「MOFLIN」です。先週アメリカの見本市CESに出展した際、ロボットのカテゴリでベストオブイノベーション賞をいただきました。

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MOFLINは生き物が生まれた状態からスタートして、人に触れられたり声をかけられたり、外部との接触を通じて成長していきます。飼い主の育て方によって、楽観的になったり悲観的になったり、性格も変化するんですよ。本物のペットを育てるような過程に愛情を感じられるプロダクトです。

カメラで画像を認識したり、音声を通じて言語解析したりと、今のAI技術はかなり発展していますが、AlexaやSiriのようなスマートスピーカーとは視点の異なる新しい商品として評価されたのではないかと思います。

モデレーター:EXPOにMOFLINを出展されてみてはいかがですか?(笑)

水口氏:そうですね(笑)。今EXPOの展示内容を模索している最中なのですが、MOFLINのような「癒し」のプロダクトが国際的な見本市で高評価だったことが新鮮でした。ロゴマークから派生したキャラクター「いのちの輝きくん」をMOFLIN化してもらったらいいかもしれませんね(笑)。

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山中氏:いろいろな国が参加するサミットに出展している中で、こんなプロダクトをつくのは日本くらいだと、いい意味で言われました(笑)。

④ありのままを受け入れることが、ウェルビーイングへの第一歩

モデレーター:小林氏さん、山中さん、ありがとうございました。自分の感覚をありのまま感じることの大切さを「Feelyou」や「MOFLIN」に改めて教わったような気がします。

小林氏:コロナが流行して人々の生活がガラッと変化しましたが、今の環境も無理に抗わず受け入れて、ありのままの自分で生活できたらいいなと思います。

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山中氏:今回CESでMOFLINが評価された理由のひとつとして、先行きが見通せない今の時代において、心の拠りどころになるものが求められているからなのかなと感じました。最新の技術が社会でどんどん活躍して、人々の幸せを実現できたら理想ですね。

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水口氏:僕は「曖昧さを抱きしめる」という言葉が最近すごく好きなんです。何が正解かわからない、昨日正解だったものが明日正解でなくなるかもしれない今の時代においては、白黒つけずに曖昧さを残した上でディスカッションや対話をしていくことが大切なのではないかな、と思います。そういった価値観を万博でも見せられたら素敵ですね。

中山氏:普段私は人材業界にいますが、ウェルビーイングという切り口で違う分野の方々とお話できて、自分の思考回路や物事の感じ方を改めて自覚できた気がしました。

今回のセッションのように、それぞれの考えをフラットに語りつつ、他の方の意見にも耳を傾けて共感するような場は、お互いのウェルビーイングを高める上でも効果的なのではないでしょうか。

モデレーター:型にはめない、理論に寄りすぎない対話の場が増えれば、新しい未来の可能性が見えてくるような気がします。登壇者のみなさま、ありがとうございました。

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