人工肉など、次世代フードテック領域で注目の海外スタートアップ3選
こんにちは、KVPインターンのたかはしゆうじ ( @jyouj__ )です。
今年2020年のノーベル平和賞はWFP(=世界食糧計画)が受賞しました。WFPは国連の機関で、紛争などによって食糧事情が深刻となっている国や地域で緊急物資の配布や栄養状態の改善に取り組んでいます。
食糧問題について人類は歴史のなかで、常に直面していました。2050年には今の食糧の1.5倍は必要になるという試算も出ています。
一時、減少傾向だった時期もありましたが、近年増加傾向に変わり、現在では世界の世界の飢餓人口は6.9億人にも上るとされています。紛争や気候変動などその要因は様々です。
そんな中、企業や研究所は食糧支援以外のアプローチでこの問題に取り組もうとしています。その方法は人工的な食糧の開発です。
植物、動物の細胞など由来は様々だが、人工的に牛肉や魚肉、乳製品などを作ることで、動物の消費量を減らすことが可能となります。また、世界の食料事情を大きく改善することができると今注目を浴びています。
実際、世界で人工タンパク質に取り組む企業は上の画像(Olivia Fox CabaneのLinkedinより)のように多数出現しています。そして、このフードテック領域では大規模調達ニュースを最近よく目にするようになりました。
また近年、日本でも大学や企業などによってラボやインキュベーション施設が立ち上がってきており、盛り上がりを見せています。とてもホットな領域です。
しかし、みなさんきっと疑問に思うでしょう。工場や実験室で生産された食物を誰が食べたいのか?、と。生産の過程がブラックボックスで危険な遺伝子組み換え技術が使われているのではないか?、と。
もちろんその懸念はあるでしょう。だが、果たして今までの牧場といった動物の飼育場所が潔癖で透明化されていたものだったのでしょうか?
残念なことに現在地球上では劣悪な環境で飼育されている牛や豚、養殖魚たちが存在し、流通しています。それらは動物への倫理的な問題だけでなく、地球環境へも甚大な被害を及ぼしています。
次世代のバイオ技術はその問題をも解決するポテンシャルを持っているかもしれません。
そこで今回は人工肉をはじめとするフードテック領域に取り組む海外スタートアップを3社ピックアップしてみました。
(※以下の画像はそれぞれの会社ホームページからです)
1. Mosa Meat - 人工培養肉ハンバーガー
会社概要
拠点: オランダ
設立: 2015年
累計調達額: 6450万ユーロ
まずご紹介するのが、牛の細胞から食肉を作る培養肉ベンチャーの「Mosa Meat」(モサ・ミート)です。オランダに拠点を置いています。
同社はマーストリヒト大学に所属する生理学者のMark Postと食品技術者のPeter Verstrateによって2015年に設立されました。
Mosa Meatの元となるMark Postの研究チームは2013年に牛の細胞を培養させることによって、世界で初めて人工培養肉ハンバーガーを生産しました。IPS細胞などと同じ手法を用いています。
これは植物由来の成分から肉の代替品開発を目指すBeyond MeatやImpossible Foodsとは違ったアプローチです。
当初、マーストリヒト大学の研究チームは一個のハンバーガーを作るのに約25万ユーロ(日本円で3000万超え)かかっていました。Googleの共同創業者であるSergey Brinから資金提供を受けています。
この人工肉ハンバーガーを商品提供するためにMosa Meatは設立されました。同社は2021年までに10ドル(約1100円)で提供することを目指しています。
Mosa Meatの人工肉生産が高額となってしまう理由は、細胞の成長に必須であるFBSの希少性によるものです。FBSは牛の胎児に含まれる血清で、大量入手が困難でコスト面が高くなってしまいます。
しかし、Mosa Meat社は2019年にFBSに代わる非動物性の成長因子の開発に成功し、2013年時の生産コストから1/88にすることを達成しました。商品として一般の市場に流通する夢も現実となってきそうです。
Mosa Meat社のライバルとして一番有名なのはおそらく「Memphis Meats」(メンフィス・ミーツ)でしょう。動物細胞から肉・シーフードを人工的に製造する技術を開発しています。世界で初めて人工ミートボールと人工鶏肉を開発しました。
Memphis Meatsは2020年1月に大型調達をしています。Softbankやシンガポール政府支援のTemasekから約1.6億ドル調達しています。過去にはBill GatesやTyson Foodsからも調達を受けており、累計調達額は約1.8億ドルに上ります。
一方、Mosa Meatも今年9月に大規模調達を行いました。シリーズBで5500万ユーロを調達し、累計調達額は6450万ユーロとなりました。ルクセンブルクのVCであるBlueHorizon Venturesが主導し、スイスの食肉加工大手Bell Food Groupなどが参加しています。
充分な資金を手に入れたMosa Meatが今後直面するであろうハードルは規制当局の承認です。ヨーロッパでは少なくとも1年半かかると言われています。Mosa Meatは資金を施設の拡充だけでなく、ライセンス獲得のためにも使用します。
我々消費者のもとにMosa Meatのハンバーガーがいずれ届くのでしょうか。今後が楽しみです。
2. Perfect Day - 人工乳製品
会社概要
拠点: アメリカ
設立: 2014年
累計調達額: 約3.6億ドル
次にご紹介するのが、合成タンパク質による乳製品の開発を行っている「Perfect Day」です。
世界の乳製品市場は現在、60兆円を超えます。Perfect Dayはこの領域に動物を使わない植物由来のタンパク質から作った牛乳で割って入ろうとしています。
乳製品市場にはいくつか課題があります。生産の際に大量の水とエネルギーが必要であること、人類の75%は 乳糖を分解できないこと、ビーガンが牛乳を飲めないこと、などです。
Perfect Dayの合成牛乳は生成の過程で一切牛に頼りません。まず、トリコデルマという菌に3Dプリンターで牛のDNA配列を組み入れて、新たな酵母を作ります。この酵母で砂糖を発酵させることで、カゼインとホエイというタンパク質を生成します。
このタンパク質は牛由来のタンパク質と同じ栄養成分と味を持っています。今まで大豆やアーモンドなど既存の代替牛乳では不足していた風味や成分を 補完してくれます。
この技術はとても画期的です。人類は広大な牧場を持つことなく、工場内で牛乳を生産できるようになったのです。
Perfect Dayはこの技術を使って生産したアイスクリームを2019年7月にアメリカで発売しました。6500円という高値で売り出したにも関わらず、初回出荷分は完売しました。
同社はその後もタンパク質の生産能力を従来から向上させたり、コストを大幅に削減したりしています。FDAの規制水準もクリアしており、今後商品バリエーションを拡充し、一般消費者に流通することを目指しています。
Perfect Dayは二人のビーガンであるRyan PandyaとPerumal Gandhiによって2014年に設立されました。Ryanはビーガン向けのアイスクリームをある日食べたところ、溶けたプラスチックのような食感を味わいました。そこで、彼はこの問題を解決することに決めます。
同社は2020年7月にシリーズCの調達を行い、累計調達額は約3.6億ドルとなりました。このラウンドはカナダ年金制度投資委員会(Canada Pension Plan Investment Board)が主導しました。またTemasekやHorizons Venturesも引き続き投資に参加しています。
Perfect Dayはまた、10月にDisneyの元CEOであるBob Igerが取締役に加わることが発表されました。乳製品市場でより一層存在感を発揮することになるでしょう。
代替乳製品市場には人工肉メーカーのImpossible Foodsも参入を発表しています。今後の動向から目が離せません。
3. Wild Type - 人工サーモン
会社概要
拠点: アメリカ
設立: 2016年
累計調達額: 1600万ドル
最後に紹介するのは人工サーモンのスタートアップ「Wild Type」です。
近年、寿司が世界的に人気となっています。しかし、その弊害からか、乱獲が目立ち始め、近い将来には供給不足となることが予測されています。
Wild Typeはそんな未来を変えるため、"Fishless Fish"と称される人工魚肉を開発しています。特にサーモンの開発が話題で、先日シェフ向けに先行注文の受付が始まりました。商品化されるのは5年後というのに。
Wild Typeの人工サーモンは上記のMosa Meatとアプローチ方法は同様で、細胞培養型です。サーモンを起点に他の魚肉にも今後応用するとしています。
現在Wild Typeのサーモンは一貫あたり200ドルかかります。今後、同社は5ドル程度まで引き下げて一般消費者でも気軽に購入できる水準を目指しています。
同社は2014年にサンフランシスコで設立されました。去年シリーズAの調達を行い、累計調達額は1600万ドルとなりました。CRVが主導し、TwitterやTrelloなどに投資実績のあるSpark Capitalなどが参加しました。
人工魚肉領域には植物由来の生成方法で実現を目指すGood CatchやPrime Rootsなどのプレーヤーが割拠しています。
人工的に作られた魚が回転寿司に並ぶ未来が来るかもしれません!
以上、次世代のフードテック領域で注目の海外スタートアップでした!
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